【太田哲也の「ジェントルマンレーサーのすゝめ」:第2話】

レース本番直前! ドキドキが止まらない・・・【太田哲也の「ジェントルマンレーサーのすゝめ」:第2話】

太田哲也の「ジェントルマンレーサーのすゝめ」:第2話
レース復帰に臨む太田哲也氏。参戦を目前にして、自身が思うジェントルマンレースとは何か?を語る。
レース復帰を決めた太田哲也氏がそのステージに選んだのは、ハイレベルなワンメイクレースであり国内トップクラスのジェントルマンレースと評されるロータス カップ ジャパン。第1戦を目前に控えてテスト走行を続けながら、太田哲也氏にとってジェントルマンレースとは何か?を再確認する。

第2話:自分自身に投げかけた「チャレンジ」

ゼッケンナンバーを見てもわかるように、今回シートを得たロータス千葉(ガレージシマヤ)チームは昨年のロータス カップ ジャパンを制したチャンピオンチーム。それだけに一層プレッシャーがかかる。

今年は、さらに一歩先に足を踏み出し、本格的なマシンでJAF公認レースに出てみようと考えた。選んだレースは、「ロータス カップ ジャパン2020」、使用マシンはロータス エキシージSで、350ps を発生するV6スーパーチャージャーエンジンを搭載した本格的ミッドシップスポーツカーだ。このレースにはゲストとしてプロドライバーや腕自慢のジャーナリストもスポット参戦しているが、そんなゲストでさえなかなか勝てない。それほど、ロータスを知り尽くしたスキルの高いドライバーたちが、ハイレベルな戦いを繰り広げていると評判のワンメイクレースである。僕は知己のロータス千葉(ガレージシマヤ)チームからエントリーさせてもらうことになった。

今、感じるドキドキは武者震いではなく不安からきている

過去のアクシデントで右足に負った後遺症の影響により、ヒール&トゥがうまくできない。それをカバーするためアクセルペダルにはゲタをはかせた。それ以外はセッティングに変更はない。

参戦を決めた当初、レースは年間5戦あるので「序盤は様子見、中盤から少しずつペースを上げていこう」と目論んでいたのだが、第一戦・第二戦はコロナで中止。練習走行もままならないうちに急に7月の菅生サーキットから開幕することとなった。そして今、急に緊張感が高まりドキドキしている状態だ。

それはプロ時代の武者震いを伴う「やってやるぜ」的な気持ちではない。どちらかというと後ろ向きな「もっと練習しなくて大丈夫かな・・・」という気持ちなのである。いろいろと思いめぐらすと不安が湧きあがってくる。ジェントルマンレーサーとしての振る舞いができるだろうか、と心配になる。

速さを評価されるより、リスペクトされる人物になりたい

チームが昨シーズンまで蓄積した走行データと、実際のオンボードカメラ映像を見てイメージトレーニング。なかなか練習できないことがもどかしい。

そもそも、僕が考えるジェントルマンレーサーとは何か?という話から始めよう。

レース界では、プロドライバーとアマチュアドライバーの関係性で、プロの方がランクが上という雰囲気は確かにある。速いものが偉いというのはスポーツである以上、そういうものだろう。

ただ、プロレースでなければ本来は同じレースに出る有志、つまり仲間たちなのだから上下関係はないはずだ。もっともジェントルマンレーサーは、社会的・経済的なスタンスを確立し、家族や周囲の理解を得るなど多くのハードルをクリアして、いくつもの要素を高い次元でバランスさせることが必要だ。サーキットでの振る舞いも、「速ければ偉い」ではなく、人格とか人間性を重視すべき。自分としては、「速さ」よりも「リスペクトされる人物になる」ことを目指し、周囲から温かい目で受け入れられたいと考えている。

現役時代とは違い、重要なのはジェントルマンに徹すること

新型コロナウイルスの影響でレーススケジュールは当初より大幅な変更を余儀なくされた。やっと機会を得たレース本番直前の練習も、あいにくの雨でデータはとれていない。不安と緊張を抱えながら7月26日の本番へと挑むことになった。

タイトルに「ジェントルマンレーサーのすゝめ」とあるが、これは「みんなやろうよ!」と声をかけるだけでなく、勧める以上は自分も実際にチャレンジして数々のハードルをクリアしていくことが大事と考えている。つまり自分自身に投げかけた言葉でもある。

速く走れるかという不安はもちろんあるが、同時にサーキットで初めて会う人たちやソサエティとの親密なコミュニケーションをはかり、たとえタイムが出なくても笑顔で常に謙虚な態度で臨み、走りに関しても自分勝手になりふり構わず走るのではなく、周りをよく見てマナー良く、そして絶対に事故なく走ることができるかが心配だ。

「相手を敵ではなく同じ舞台の仲間という意識を持つこと」という言葉は、僕が主宰するドライビングスクールの校長として参加者にずっと言ってきたが、実は自分はどうかというと、現役の時はそういうタイプでは全然なかった。まあプロだから仕方ないが、「太田はヤバイ、怒らせると何をするかわからない」と周囲に思ってもらった方がプロのレースでは有利に進められるし、サーキットでは集中して自分の世界に入ってしまいがちだった。しかし今回はそうした現役時代の「悪しき本性」を出さずに、ジェントルマンに徹しなくてはならない。でも走っていると、体はついてこないくせに気持ちだけはあって、ヘルメットの中で無意識に「コノヤロー」とかつぶやいていることがときどきあるんだよね。よくないね。老人は怒っちゃいけないよ。

周りのみんなに教えを乞いながらレースを楽しみたい

周囲からは「速くて当たり前」と見られるのがプレッシャーだと語る太田哲也氏。レースの結果を気にすることなく、楽しむ気持ちで挑んでいく心づもりだ。

昔と違って体がついてこないんだから、危ないと感じたらすぐにアクセルを戻すこと、瞬間的判断において、速さよりも安全を取るというスタンス、つまり危ない領域までは立ち入らないようにすること。周囲からは、「太田さんは速いに決まっている」という言葉をしょっちゅう投げかけられる。そのプレッシャーが辛い。速くて「当たり前」、遅かったら「なんだよたいしたことないな」と思われるのは、どちらに転んでも、自分に分がないな。

でも速く走れなくても不貞腐れることもなく、悔しくても決して無理をせず、ロータス カップ ジャパンのみんなに教えを乞う気持ちを持ち続けること・・・できるかなー。

レースを前にいろいろ思考を巡らせて「けっこう敷居が高いことを始めてしまったな」という気持ちが押し寄せてくる。

ああ、ドキドキしてきた。

TEXT/太田哲也(Tetsuya OTA)
PHOTO/降旗俊明(Toshiaki FURIHATA)
COOPERATION/ガレージシマヤ、ヨコハマタイヤ

【関連リンク】
太田哲也 オフィシャルサイト

ガレージシマヤ 公式サイト

ヨコハマタイヤ

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「日本一のフェラーリ遣い」と称され、数多くのレースで勇名を馳せた名レーサー・太田哲也氏。現在では自身が主宰するパーツブランドのプロデュースや、日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員をはじめとするモータージャーナリスト活動など、多彩な分野で精力的に活躍している。その太田哲也氏が、日本屈指のジェントルマンレース「ロータス カップ ジャパン」への参戦を決めた。

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