マセラティのスーパースポーツコンバーチブル「MC20 チェロ」に試乗

マセラティの最新スーパースポーツ「MC20」待望のコンバーチブルに極悪路面のシシリー島で試乗した理由

ミッドシップスーパースポーツ「MC20」のコンバーチブルモデル「MC20チェロ」。チェロはイタリア語で「空」を意味するという。
ミッドシップスーパースポーツ「MC20」のコンバーチブルモデル「MC20チェロ」。チェロはイタリア語で「空」を意味するという。
リヤミッドシップのスーパースポーツとしてリリースされたMC20に、早くも派生モデル「MC20チェロ」が登場した。車名のチェロとは、イタリア語で「空」を意味し、まさにオープンモデルに相応しい命名だ。悪路とワインディングが混在するシシリー島でのインプレをレポート。

Maserati MC20 Cielo

シシリーの悪路でコンバーチブルを試す

ガラス製ルーフの展開に要する時間はわずか12秒。50km/h以下なら走行中でも操作可能となりドライブ中の天候急変にも即座に対応可能だ。
ガラス製ルーフの展開に要する時間はわずか12秒。50km/h以下なら走行中でも操作可能となりドライブ中の天候急変にも即座に対応可能だ。

「本当に、こんな道をスーパースポーツカーで走るの!?」

目の前に伸びるシシリー島の“悪路”を目の当たりにして、私はなかば途方に暮れていた。たしかに路面は舗装されているけれど、場所によっては舗装がはがれて深さ10cm以上の穴になっていたり、どんな重量物が走ったのかわからないが、こちらも段差が10cm以上あるわだちのようなものが平気で点在している。

こんな道を、真新しいMC20チェロで走れというのだ。私は心のなかで「やれやれ」と呟いてからセンタートンネル上のD/Mボタンを押し込むと、絶望的な気分を奮い立たせながらシシリー島の悪路に向けて走り始めた。

MC20チェロは、マセラティが久々に放ったミッドシップ・スーパースポーツカー“MC20”のコンバーチブル版である。その概要は本誌8月号で紹介済みだが、今回の国際試乗会で新たに判明したこともあったので、ここでお知らせしよう。

まず、コンバーチブル化に伴ってエクステリアデザインには繊細なモディファイが施された。

たとえば、フロントウインドウで立ち上がったラインが水平近くまで折れ曲がった部分でルーフを断ち切ることにより、オープン時にもルーフが後方に向けて伸びていることを想起させる「仮想的なライン」を創出。さらに、クーペでは直立していたCピラーの角度をわずかに前傾させることで、AピラーとCピラーが「仮想的なライン」でつながっているように工夫したという。

もうひとつ興味深いのは、リヤフェンダーの“肩”にあたる部分の高さを、クーペに対して4〜5cmほど上げたことにある。

コンバーチブルのチェロでは、オープン時にルーフを格納する都合上、クーペではリヤウインドウとされていた部分がエンジンカバー(トノカバー)に置き換えられている。この部分の曲面と、リヤフェンダー部をなだらかにつなげたほうがチェロのデザインには相応しいとの判断から、フェンダー形状が見直されたという。ちなみにクーペでは、一度盛り上がったリヤフェンダーの肩が一旦下降してからリヤウインドウ部につながるという微妙な違いがある。いずれにせよ、コンバーチブル化に伴うこのようなモディファイは、マセラティのデザインチームがいかに細部にまでこだわってデザインしているかを物語っているといえる。

なお、チェロのルーフは全車ガラス製となるが、このガラス面を透明もしくは磨りガラス状に切り替える素材は、発表会のときに説明されたフォトクロミックではなく液晶の技術を応用したPDLCを用いていることが明らかになった。PDLCはフォトクロミックよりもはるかに速く反応する点が特徴という。

“空”を名乗るスパイダー

試乗した印象も、クーペとチェロとでは基本的に同一と感じられた一方で、微妙な違いも散見された。

前述した「シシリー島の荒れた路面」における乗り心地は、舌を巻くほど良好だった。スーパースポーツカーとしては長めのサスペンションストロークを有するMC20だが、このしなやかな足まわりを駆使して路面からのショックを巧みに吸収する様は、まさに圧巻。多少の段差であれば、車速を落とすだけで底打ちせずに通過できる点も印象的だった。

なお、試乗会の会場にシシリー島を選んだ理由をマセラティ広報に訊ねたところ「ここは荒れた路面もあればワインディングロードもあるので、MC20チェロの懐深い足まわりを確認していただくには好適と考えた」との答えが返ってきたので、乗り心地に関しては絶大な自信を持っているようだ。

このしなやかな足まわりのため、ワインディングロードでのハンドリングもどちらかといえば“おっとり傾向”だが、もしもこれがお望みでなければ、ドライビングモードをスポルトに切り替えるだけでシャキッとしたハンドリングに一変。初めて走るワインディングロードでも自信を持って攻められる適切なレスポンスとスタビリティを発揮してくれたことを特筆しておきたい。

チェロの方がエレガントなライフスタイルにマッチ

一方で、もっともコンフォートなGTモードでは、クーペに比べて発進のマナーがやや穏やかにされていた。また、電子制御式のEデフはチェロのほうが穏やかな作動になっているとのこと。いずれも、こうした設定のほうがチェロにあっているとの判断から実施されたそうだ。

スーパースポーツカーでありながら、マセラティらしい快適性や美しいデザインが際立つMC20は、走りを楽しむのはもちろんのこと、エレガントなライフスタイルにもぴったりとマッチしそう。その点でいえば、クーペよりもチェロのほうが車両コンセプトとの親和性は高いともいえるだろう。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/Maserati SpA
MAGAZINE/GENROQ 2023年1月号

SPECIFICATIONS

マセラティ MC20 チェロ

ボディサイズ:全長4669 全幅2178 全高1218mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1560kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
エンジン排気量:3000cc
最高出力:463kW(630PS)/7500rpm
最大トルク:730Nm/3000-5500rpm
電動モーター最高出力:13kW(18PS)
電動モーター最大トルク:200Nm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
最高速度:320km/h
0-100km/h加速:2.9秒

【問い合わせ】
マセラティ コールセンター
TEL 0120-965-120
https://www.maserati.com/jp/ja

マセラティ MC20の走行シーン

新時代マセラティを象徴するミッドシップスーパースポーツ、MC20をモデナで試す

マセラティが久々に放ったミッドシップスーパースポーツ、MC20。その動的資質の素晴らしさは各…

著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…