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「やっぱり計画を見直します」

自動車産業界は、いままさに混沌としているところなので、極端なことをいえば明日のことだって不透明なのが現実の姿。それでも、私なりに精一杯、知恵を絞って「2023年の自動車産業界」を予想したので、ここで紹介することにしましょう。
2010年代の後半以降、「20●●年までにすべての製品をEVにします!」と宣言した自動車メーカーがいくつかありましたが、そのうちの大多数が、早ければ2023年中にも「やっぱり計画を見直します!」と言い出すはずです。
私の現時点の予想では、計画どおり全面EV化に踏み切るのはボルボくらい。いや、ボルボだったらいいと思うんですよ。年間生産台数だって100万台に届かないレベルだし、プライスレンジ的にも販売エリア的にもある程度、絞られているから、やろうと思えば全面EV化もできない話じゃない。
それに、スウェーデン生まれのボルボと、EV化=環境への真剣な取り組みというのは、実に相性がいい。きっと、これで彼らのブランドイメージはさらに向上するでしょうね。でも、ボルボよりもっと規模の大きな自動車メーカーは、かなりの犠牲を払わないと全面EV化は達成できないはずです。
自動車メーカーの社会的責任

そもそもバッテリーの生産に必要なリチウムなどの天然資源がそんなに豊富にあるわけじゃないし、もしもいくつもの自動車メーカーがEVの生産を本格化させたら、そういった天然資源の価格が高騰してまともな商売ができなくなります。その兆候はもう表れていて、昨年、自動車メーカーはEVやハイブリッド・モデルなどの販売価格を何度も引き上げています。このままでは、EVを買える人の割合はどんどん小さくなっていくことでしょう。
そうでなくとも、排ガス規制の強化、安全装備やコネクティブ関連の装備などが追加されたことで、自動車の価格は上昇中。ここに、コロナ禍やら半導体不足やらロシアのウクライナ侵攻などの影響が重なって。自動車の価格は今後も上がり続けると予想されています。
そうなれば、貧しい人たちから順にクルマが買えなくなっていきます。でも、貧しいからといって、クルマが不要とは限らない。それどころか、厳しい自然環境のなかで苦しい生活を強いられている人たちこそ、人の生死に関わるレベルで自動車が必要なはずです。
だから、少なくともそういった国々に自動車を輸出しているメーカーは、おいそれとは全面EV化には踏み切れません。むしろ、手頃な価格の自動車を供給し続けることは、メーカーの社会的責任といってもいいくらいです。
カーボンニュートラル・フューエルの可能性

じゃあ、「自動車の利便性を広く提供するためにカーボンニュートラルは全面的に諦めてもいい」かといえば、それほど話は簡単ではありません。カーボンニュートラルはカーボンニュートラルで早めに対処しなければ、地球温暖化により異常気象が多発し、本当に人間が住みにくい地球になってしまう恐れがあるからです。
ここで重要になるのが、カーボンニュートラルを実現するEV以外の選択肢。そのなかで、いまもっとも有望視されているのがカーボンニュートラル・フューエルの活用です。
たとえば、ポルシェが支援するチリのHighly Innovative Fuels(HIF)社は、風力発電で起こした電力で水を電気分解して水素を精製。これをCO2と化合させ、既存のガソリンエンジンにも使えるeフューエルの生産を開始したそうです。このように、燃やしても大気中のCO2は増えないと考えられる燃料のことを、一般的にカーボンニュートラルフューエルなどと呼んでいます。
これであれば既存の自動車をそのまま使えます。問題は燃料の価格ですが、これも技術が進歩して大量生産が実現すれば、次第に低価格化が進むはず。もちろん、課題はまだまだあるでしょうが、“EV一本足打法”よりもはるかに実現性が高いように思います。
こうして、EV以外のソリューションが増えることにより、全面EV化を諦める自動車メーカーが近々現れるというのが、私の2023年に向けた「大胆予想」の骨子です。