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2回しか乗らなかったが……
「あーっ、もっと早く乗っときゃよかったーっ!」と、ものすごく後悔したのが、ロータス・エヴォーラGT410スポーツだ。
なぜなら、2021年夏に次世代の2シーター・スポーツ、タイプ131“エミーラ”が登場したこともあって、2008年にエリーゼ・ファミリーの2+2GTとしてデビューしたエヴォーラの生産はすでに終了。昨年6月にGENROQ本誌の取材で乗ったのが、広報車をドライブする最初で最後のチャンスとなったからだ。
仕事柄、新旧いろいろなクルマに触れる機会が多いものの、その一方でなぜかあまり縁がないというクルマも少なくない。エヴォーラはまさに後者で、14年に及ぶモデルライフの中で試乗したのは、デビュー当初と、2015年のマイチェンでエヴォーラ400に進化した時のたった2回。その時もロータスらしいハンドリングと、バランスの良さに感心した記憶があるのだが、エリーゼほどキレがなく、エキシージほどパワーもなく、ポルシェ・ケイマンほど万能感もないクルマ……というのが正直な印象だった。
絶妙な足まわりがいい
よってエヴォーラGT410スポーツも、乗る前はトヨタ製3.5リッターV6スーパーチャージャーを416PSにチューンし、エアロとサスペンションをリファインした“ちょっと速いエヴォーラ”くらいの認識でしかなかった。
ところがGT410スポーツは走り出しから違った! とにかく軽くて、ナチュラル。ステアリングを切り込むと同時にスッと鼻が入って、リヤも素直に追従する無駄のない動きと、人馬一体感はエリーゼもかくやというもの。それでいてトレッドも広くホイールベースも長いので、ピーキーな挙動は一切なく、ピタっと安定した姿勢でコーナーをクリアしていく。
実はこの日は同時にエキシージ・スポーツ410にも試乗しているのだが、箱根ターンパイクのような比較的スムーズな路面でも、まるでフォーミュラカーのように固くしまったサスペンションが、路面の凹凸に対応しきれずピョンピョン跳ねてしまうため、416PSのパワーを持て余すどころか、むしろ危ないと感じるほどだった。
それに比べてエヴォーラは、GT410スポーツの特徴のひとつであるアイバッハ製の軽量スプリングとビルシュタイン製スポーツダンパーが実に良い仕事をしていて、余計な動きを押さえ込みつつ、うまく路面の変化に追従するので、416PSのパワーを余すことなく路面に伝え、しっかりと安定したグリップをもたらしてくれるのだ。
こうなったらエミーラにも期待したい
これぞまさに“ロータス・マジック”。もし箱根ターンパイクでヒルクライムを行ったとしたら、僕のドライブするエヴォーラGT410スポーツのタイムは、僕が運転するエキシージ・スポーツ410のタイムを大きく上回るはず、と断言できるほど、エヴォーラGT410スポーツはコントローラブルで、バランスのいい、ハンドリングマシンに仕上がっていた。
しかも、随所にアルカンターラが張られた内装のクオリティも上がっているし、2+2(といってもリヤには子供しか乗れないけど)ゆえ、使い勝手もいい。それまで個人的な現役スポーツカー・ランキングは、ポルシェ718ケイマンGTS 4.0とアルピーヌA110が1-2を占めていたのだが、この試乗を機会にエヴォーラGT410スポーツが堂々の1位に輝くほど、インパクトのある経験だった。
しかしながら、もう足掻いても嘆いても、新車のエヴォーラGT410スポーツを買うことはできない……。そういう意味でも、気づくのが遅すぎた自分の不見識を恥じるばかりだが、ここまで出来がいいのであれば、エヴォーラに近いディメンション、スペックをもつエミーラの出来はさらに素晴らしいかもしれない……そんな期待を密かに寄せる今日この頃だったりする。
編註:本ウェブサイトを頻繁にご覧いただいている読者はお気づきでしょうが、エヴォーラGT410スポーツは本誌副編石川も選んでおります。そんなにいいんか……ということで、あらためて隠れた名車をご紹介する機会が設けられればと思います。