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フィオラノでレーシングバイクのテストを
イタリアのスポーツバイクメーカー、ドゥカティは2012年に同じイタリアのスーパーカーメーカー、ランボルギーニの子会社となり、ひいてはフォルクスワーゲングループの一員となった。そして、それは2023年4月の現在も継続しているけれど、実はランボルギーニ傘下となる、はるか昔、エンツォ・フェラーリが指揮を取っていた時代から、フェラーリとは良好な関係を築いていた。
1972年、それまで小排気量クラスで成功していたドゥカティは、イモラ200マイルレースの大排気量クラスに初出場し、750ccのレーシングバイクで1-2フィニッシュを飾った。その際、エンツォからドゥカティに祝電が送られたのは、そのレーシングバイクのテストに、完成間もないモデナのフィオラノサーキット(フェラーリのテストコース)を借りていたこともあったからだろう。
ドゥカティのエンジンを設計していたファビオ・タリオーニ技師(看板エンジン技術のデスモドロミック=バルブ強制開閉機構を開発)の才能を、エンツォが認め、陰になり日向になり協力したという。2003年、ドゥカティがロードレース世界選手権の最高峰MotoGPクラスに参戦すると、メインスポンサーがフィリップモリス(マールボロ)とオイルメーカー(シェル)でフェラーリF1と同じであったこともあって、合同イベントを行なうなど蜜月関係は長く続いた。MotoGP参戦後、高い最高速を武器に年々スピードを増していくドゥカティに対し、フェラーリからの技術協力があったという噂が囁かれることもあった。
タイトル記念モデルではないが
参戦5年目の2007年、ついにドゥカティがライダー(ケーシー・ストーナー)、マニュファクチャラーともに世界チャンピオンとなる。ロードレース世界選手権の最高峰クラスで日本のメーカー以外がチャンピオンとなるのは1973年のMVアグスタ以来であった。そのことを予測して記念するかのように、2008年に「Moto GPマシンのレプリカ」として発売されたのが、今回紹介する「デスモセディチ(Desmosedici)RR」だ。
「記念するかのように」と表現したのは、このマシンの開発がアナウンスされたのは2004年で、MotoGPクラスの排気量が990ccの時代(2002〜2006年)。だからデスモセディチRRの排気量も989ccで、最終的に2006年のワークスマシンのレプリカモデルとして開発されたためだ。
ドゥカティが初タイトルを獲得した2007年は、2011年まで続く800cc時代なので、デスモセディチRRはタイトル記念モデルというわけではない。しかし、この世界初のMotoGPレプリカマシンが本当に発売され、世界中のバイクファンは度肝を抜かれた。
デスモドロミック駆動の16バルブ
ドゥカティの市販車で初めてとなる水冷L型(V型)4気筒16バルブエンジン。ヨーロッパ仕様では200hp(203PS)/13800rpmのパワーと11.8kgm/10500rpmのトルクを誇る。ただし、このヨーロッパ仕様は当時厳しかった日本の規制をクリアできず、日本仕様では61hpにまで最高出力が絞られていた(エキゾーストを交換するなどサーキット仕様にすることでフルパワーにはできたが)。
市販車がベースのスーパーバイクレースでは、L型2気筒エンジンを採用してきたドゥカティが、MotoGPクラスに参戦するにあたり、L型4気筒16バルブエンジンを採用した。レプリカモデルであるデスモセディチRRもドゥカティの市販車として初めてL型4気筒エンジン16バルブエンジンを搭載。もちろんバルブ駆動はデスモドロミックだ。余談だがセディチとはイタリア語で数字の16で、デスモセディチとは「デスモドロミック駆動の16バルブ」という意味。クワトロバルボーレ(4バルブ)やテスタロッサ(赤いヘッドカバー)などと同じく、説明的な言葉なのになんだかカッコいいからイタリア語ってずるい。
搭載されるエンジンはMotoGPレプリカとして、チタンバルブやレーシングデザインのピストン、ロッカーアームなど採用。量産ラインとは別の特別なラインで専任スタッフにより丁寧に組み立てられ、13800rpmで203PSを発揮する。MotoGP同様に交換が容易なカセット式トランスミッションを採用した。
F40に匹敵するスパルタンなバイク
フレームは鋼管を三角形のトラス形状に組み合わせた伝統のトレリスフレームと、エンジン自体を強度メンバーとしてスイングアームを装着するハイブリッドタイプ。これにカーボン製のシートフレームや専用のオーリンズ製倒立フロントフォークとリヤショックを装着。フロントブレーキにはMotoGP同様のブレンボ製モノブロック対向4ピストンラジアルマウントキャリパー×2、ホイールにはMotoGPマシンと同じデザインのマルケジーニ製鍛造マグネシウムホイールが採用された。
専用タイヤはブリヂストン製で、フロント120/70ZR17、リヤ200/55ZR16とされた。カウリングなどの外装パーツやメーターなどのステー類もほとんどがカーボン製とされ、乾燥重量わずか171kgという軽量かつ高剛性となっている。おそるべきことに、これだけのパワーと軽さを併せ持ちながら、このバイクはABSやトラクションコントロールは装備していない。フェラーリで言えばF40に匹敵するスパルタンなバイクでもあるのだ。
世界で初めてMotoGPマシンのレプリカとして販売されたデスモセディチRR。その車体構成など様々な技術が2023年現在のフラッグシップモデル、パニガーレV4Rにも受け継がれている。