メルセデス・ベンツ・ミュージアムで展示された「高速トランスポーター」

1950年代に活躍したレーシングカー用高速トランスポーター「メルセデス・ベンツ ブルーワンダー」

1台のみが製造され、1955年シーズンのスポーツカーレースやF1で活躍した高速トランスポーター「メルセデス・ベンツ ブルーワンダー」。現在、メルセデス・ミュージアムで復元モデルが公開されている。
1台のみが製造され、1955年シーズンのスポーツカーレースやF1で活躍した高速トランスポーター「メルセデス・ベンツ ブルーワンダー」。現在、メルセデス・ミュージアムで復元モデルが公開されている。
ドイツ・シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ・ミュージアムで、1955年シーズンに活躍したレーシングカー用トランスポーター「ブルーワンダー(Blue Wonder)」の復元モデルが展示されている。美しいボディを持つトランスポーターは、レーシングカーやレース用スポーツカーを載せ、ファクトリーとサーキット間を高速で輸送した。

Mercedes-Benz “Blue Wonder”

「ギャラリー・オブ・キャリア」に展示中

1台のみが製造され、1955年シーズンのスポーツカーレースやF1で活躍した高速トランスポーター「メルセデス・ベンツ ブルーワンダー」。現在、メルセデス・ミュージアムで復元モデルが公開されている。
当時の情報をもとに復元された「メルセデス・ベンツ ブルーワンダー」は、シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ・ミュージアムのコレクションルーム2「ギャラリー・オブ・キャリア」で公開された。

メルセデス・ベンツは、シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ・ミュージアムで楽しむことができる様々なトピックに関する「クローズアップ」企画を展開中。今回、取り上げるのは、1955年シーズンに活躍したレーシングカー用高速トランスポーター「メルセデス・ベンツ ブルーワンダー」だ。

現在、メルセデス・ベンツ・ミュージアムでは、コレクションルーム2「ギャラリー・オブ・キャリア(Gallery of Carriers)」において、復刻されたブルーワンダーを展示中。残念ながら、このレーシングカー用高速トランスポーターのオリジナルは現存しない。

1955年のシーズン終了後、ダイムラー・ベンツはモータースポーツから撤退を決定。その後、ブルーワンダーはロードテスト部門で使用され、1967年にスクラップされた。このユニークな車両を、メルセデス・ベンツ・クラシック・アーカイブの史料に基づき、本格的に再現することを決定。プロジェクトは、2001年に完了している。

1955年シーズンのレースシーンで活躍

1台のみが製造され、1955年シーズンのスポーツカーレースやF1で活躍した高速トランスポーター「メルセデス・ベンツ ブルーワンダー」。現在、メルセデス・ミュージアムで復元モデルが公開されている。
現在、展示されているブルーワンダーは荷台に、1955年シーズンの世界スポーツカー選手権を制覇した「300SLR」が搭載されている。

ブルーワンダーは、1954年にメルセデス・ベンツのテストワークショップにおいて、1955年シーズンのモータースポーツ用に製作された。いわゆる商用車のように運転席と荷台が分けられておらず、トランスポーターのボディはひとつの金型から鋳造されたようにも見える。フロントアクスルの前方に位置するキャブ(運転席)は、道路に沿うように低く配置されており、そのシルエットはまるでスポーツカーのようだ。

リヤフェンダーには「Max.speed 105m.p.h.(最高速105mph)」の文字が誇らしげに書かれている。最高速度105mphは170km/hに相当し、1950年代当時のトランスポーターとしては驚異的な性能だと言えるだろう。この最高速度は1955年のシーズン終了時に塗装に記録されており、当時撮影された写真によって証明されている。

コレクションルーム2「ギャラリー・オブ・キャリア」に展示されているブルーワンダーは、300 SLR(W 196 S)を荷台に固定。メルセデス・ベンツは、この300 SLRで1955年シーズンの世界スポーツカー選手権を制覇した。ブルーワンダーはシーズンを通して、300 SLR、そしてF1マシンのW 196 Rを荷台に搭載し、ヨーロッパ中のサーキットを駆け回った。シュトゥットガルトのファクトリーとサーキットを結ぶ、時間的制約のあるロジスティクスには欠かせない高速トランスポーターだった。

様々なメルセデス製モデルからパーツを流用

1台のみが製造され、1955年シーズンのスポーツカーレースやF1で活躍した高速トランスポーター「メルセデス・ベンツ ブルーワンダー」。現在、メルセデス・ミュージアムで復元モデルが公開されている。
エンジンは300 SLの3.0リッター直列6気筒「M198」エンジンのデチューン版を搭載。その他の内外装パーツも様々なモデルから流用された。

1955年当時、メルセデス・ベンツのモータースポーツファンは、この流麗なトランスポーターの登場に歓喜したという。トラックをベースにした無骨なレーシングカー用トランスポーターとは対照的に、このワンオフ車両はユニークなエクステリア、エレガンス、スピードを持っていたからだ。メルセデス・ベンツのサービスカーを象徴するブルーのカラーリングも相まって、すぐに「ブルーワンダー」と呼ばれるようになった。

1955年シーズン用に1台のみが製造されたブルーワンダーだが、当時の市販車と密接な関係を持っていた。たとえばサスペンションは、高級モデルの「300 S(W188)」から、ミディアムサルーン「ポントン(W 120)」からも多数のボディパーツが流用されている。

排気量2996cc直列6気筒「M198」エンジンは、ガルウイングを持つスーパースポーツ「300 SL (W198)用。300 SLは最高出力215PS仕様だったが、ブルーワンダーには192PSのデチューン仕様が搭載されていた。ラジエーターグリルは当時の市販モデルやレーシングカーと同様に、センターにメルセデスのスリー・ポインテッド・スターが配されている。

チェックのファブリックが使用されたインテリア

インテリアは、当時のレーシングカーと同様にチェックのファブリックをシートやドアパネルに採用。ステアリングホイールを含めた、多くのパーツも様々な車両から流用されている。
インテリアは、当時のレーシングカーと同様にチェックのファブリックをシートやドアパネルに採用。ステアリングホイールを含めた、多くのパーツも様々な車両から導入された。

インテリアは、長距離移動における快適性を追求。シートや背もたれ、ドアパネルには、当時のレーシングカーやスポーツカーにも使われていた、チェック柄のファブリックが使用されている。ダッシュボードはレザー製、センタートンネルもファブリックで縁取られていた。

大径ステアリングホイールの先には、レブカウンターとスピードメーターがドライバーの視界に入るよう最適なポジションで配置。ちなみにメーター上の最高速度は「140 km/h」が刻まれている。

ただ、積載に関しては、クルーの快適性は考慮されていなかった。現在では当たり前のテールリフトやウインチのような補助装置は未搭載。代わりに様々なトレッドに対応した4本の軽量レールが荷台に設置されている。これを後方へと展開し、積載用スロープとして使用していた。1955年にシチリアで開催されたタルガ・フローリオなど、ピットエリアの存在しないロードレースでは、このレールが即席の作業用リフトとしても活躍したという。

メルセデス・ベンツ ミュージアムに展示されているW25 ストリームライン。フロントビュー

シルバーアローの伝説を振り返る。85年前に生まれたメルセデス・ベンツの流線形マシンが残したもの

メルセデス・ベンツのレーシングカーは、“シルバー アロー”の愛称で広く知られてきた。そのきっかけとなったのは、1934年に登場したフォーミュラカー、W25。当時のモータースポーツシーンで数々の栄光を打ち立てたマシンには、空力ボディを与えられた“ストリームライン”仕様も存在する。速さを追い求めた特別なW25とは、どのようなマシンだったのか。

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ゲンロクWeb編集部 近影

ゲンロクWeb編集部

スーパーカー&ラグジュアリーマガジン『GENROQ』のウェブ版ということで、本誌の流れを汲みつつも、若干…