【中国自動車開発の背景ルポ02】なぜ高級サスペンションがもとめられたか?

なぜ中国で高級なサスが必要とされたか?「実際に行って、見て、乗って、感じた中国現地ルポ」

江蘇省宿遷市のテイン中国工場の倉庫。2030年には年産100万本生産する計画だ。
江蘇省宿遷市のテイン中国工場の倉庫。2030年には年産100万本生産する計画だ。
販売台数でも輸出台数でも、そして環境対応で注目を集めるEVでも販売台数世界一を誇る中国。今や世界最大の自動車市場だが、その真の姿が謎めいているのは、政府によるメディア規制が厳しく、現地でありのままを伝える取材が難しいためだ。今回、中国に進出する日本のサスペンションメーカー「テイン」を現地で取材したモータージャーナリストの高平高輝が、EVや道路を中心に現地事情を見聞したルポを3回に渡りお届けする。第2回は中国市場の
意外なサスペンションへのこだわりについて報告する。

中国で評価される理由

もう少しで創業40周年を迎える株式会社テインが中国に進出したのは2008年、まず香港に販売拠点を設立し、既にそのころから中国工場の計画がスタートしたが、江蘇省宿遷市の中国工場(天御減振器制造[江蘇]有限公司)の開設は2015年だから、かなりの年数がかかったことになる。テイン中国工場は上海から北におよそ500km、ざっくりいうと上海と北京の中ほどの江蘇省宿遷市に位置する。

江蘇省は古くから運河が縦横に走り水運に恵まれた地域で、現在は高速道路だけでなくCRH(中国新幹線)も通っている(CRHで上海まで3時間ほど)。宿遷市に決定した理由は、主要部品の部材加工から最終仕上げまで内製するためである。ダンパーの要であるピストンロッドの品質確保のための硬質クロームメッキや超仕上げ研磨の工程を含めて一貫生産する場合、中国でも(特にメッキ処理の)認可を得るのは簡単ではないからだ。

進出企業に対する優遇措置などを含めて検討した結果が現在の立地というわけだ。もちろん中国の環境基準が緩いわけではなく(むしろ日本よりも厳しいほどだという)、工場は排出物管理が徹底されたスマート・ファクトリーである。敷地面積は約2万1000㎡(およそ国際規格のサッカーピッチ3面分、横浜本社工場の4倍)、従業員数は260名、建屋の屋根全面にソーラーパネルを備え(発電能力1万kWh/日)、工場の必要な電力の9割を賄えるほどだという。内部部品は徹底的に洗浄された後、最終組み立ては陽圧管理されたクリーンルームで行われ、画像検査による品質検査も導入されている。標準装着品とはレベルが違う高品質へのこだわりである。現在の年間生産量は30万本、これを2030年には100万本にする計画である。

最短3ヵ月という素早い開発

自動車メーカーへのOE納入を手掛けず、アフターマーケットのサスペンション専業メーカーであるテインは迅速な開発能力が強みだ。

テインと言えば日本では“車高調”が当たり前だが、中国ではテスラ用の純正形状ダンパーの売れ行きが伸びているという。それほど走行性能にこだわりがあるとは思えないテスラ・オーナーに人気なのは不思議な感じがするが、そもそも中国は一部を除いて道路事情が悪く、過酷に扱われるのが普通であるためタイヤ交換の度にダンパーも交換するのが当たり前という。そんな環境で乗り心地と耐久性が評価されて、中国のみならずモンゴルやインド、パキスタンといったアジア諸国でも売り上げを増やしているのだという。既に海外市場の売り上げは6割を超えるという。

アフターマーケットのサスペンション専業メーカーであるテインは(自動車メーカーへのOE納入を手掛けていない)、それゆえに競技用や特殊なダンパーまで含めて素早く開発(最短3ヵ月という)、生産できるフレキシブルな体制が強みである(これまでの通算は4000車種という)。プレミアム・リプレースメントと称する高品質なアフターマーケット製品に特化し、迅速な開発体制を持つからこそ変化の激しい中国市場に対応できるというわけだ。

次回は中国で乗った様々なBEVの印象をお伝えしたい。

テインの工場がある江蘇省宿遷市の観光地、日月双塔文化公園。

果たして中国市場のEV躍進は本物か?「実際に行って、見て、乗って、感じた中国現地ルポ」

販売台数でも輸出台数でも、そして環境対応で注目を集めるEVでも販売台数世界一を誇る中国。今や世界最大の自動車市場だが、その真の姿が謎めいているのは、政府によるメディア規制が厳しく、現地でありのままを伝える取材が難しいためだ。今回、中国に進出する日本のサスペンションメーカー「テイン」を現地で取材したモータージャーナリストの高平高輝が、EVや道路を中心に現地事情を見聞したルポを3回に渡りお届けする。まずは中国市場の背景を説明する。

中国では旅行者が免許を取るのは大変に面倒なため、宿遷市郊外の免許試験場の中のカートコースと外周路に特設テストコースを用意してくれた。

日本未導入のEVに中国で乗って分かったサスの重要性「実際に行って、見て、乗って、感じた中国現地ルポ」

販売台数でも輸出台数でも、そして環境対応で注目を集めるEVでも販売台数世界一を誇る中国。今や世界最大の自動車市場だが、その真の姿が謎めいているのは、政府によるメディア規制が厳しく、現地でありのままを伝える取材が難しいためだ。今回、中国に進出する日本のサスペンションメーカー「テイン」を現地で取材したモータージャーナリストの高平高輝が、EVや道路を中心に現地事情を見聞したルポを3回に渡りお届けする。最終回は現地では珍しい試乗をして、中国のドライバーが求める性能がどれほどかを探った。

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著者プロフィール

高平高輝 近影

高平高輝

大学卒業後、二玄社カーグラフィック編集部とナビ編集部に通算4半世紀在籍、自動車業界を広く勉強させてい…