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BYD「シール」など4台のEVに乗る
前述したように中国では旅行者が免許を取るのは大変に面倒なため、宿遷市郊外の免許試験場の中のカートコースと外周路に特設テストコースを用意してくれた。試乗車は今大注目のBYD「シール」をはじめとしたすべて中国製EV4台である(テスラは上海工場製)。
今や飛ぶ鳥を落とす勢いのBYDの「シール」は同社の“海洋シリーズ”(先日国内発売されたのは同シリーズのドルフィン)のトップモデルで、前後アクスルにモーターを積むAWDでシステム最高出力は390kW(530PS)ときわめて強力だ。ジーリー(吉利汽車)のEVブランドであるジーカー(Zeekr)の「001」は、シューティングブレークのようなボディに計400kW(544PS)を発揮する前後2基のモーターを搭載(AWD)、デザインもポルシェのタイカン・クロスツーリスモを彷彿とさせる。さらにテスラ・モデル3(スタンダードレンジRWD)とモデルY(ロングレンジAWD)という4台をまずスタンダードのまま試乗し、その後テインのサスペンション各種に交換して試した。
テスラよりも洗練されたジーカー
これまでの経験から言っても、満足できる乗り心地を持つEVにはめったにお目にかかれない。電子制御のエアサスや可変ダンパーを持つ高価格帯のモデルはさておき、コンベンショナルなサスペンションの場合は重い車重に対して足回りを締め上げる必要があり、どうしても段差での突き上げやピッチングが気になる車が多い(4台の中国国内価格は500万~600万円)。ところがシールは標準状態でもなかなか洗練されていた。とはいえ、滑らかな第一印象ながら、パワフルなパワートレインに対してサスペンションはちょっと抑えが足りないきらいがあり、底付きすることもあった。
全長ほぼ5m、全幅2mと巨大なジーカー001は0-100km/h加速3.8秒(シールも同じ)の公称データを納得させるほどの怒涛の加速を見せる。巨大なマスのせいで腰高感もあったがパワフルさでは随一で、これまたなかなかの完成度である。両車ともサスペンションの構成やインストルメントなどを見ると、先行したテスラを徹底的に研究しているようだが、実際に乗ってみるとテスラよりも洗練されている印象である。
ハイドロバンプストッパーのおかげで
スタンダードの足回りで基本キャラクターを確認後、人気上昇中というテインの純正形状ダンパー「エンデュラ・プロ・プラス」に交換する。現場で交換してすぐ試乗できるというのも、モータースポーツ最前線での経験豊富なテインだからこそである。ちなみに「エンデュラ・プロ」シリーズの減衰力調整機構付きが「エンデュラ・プロ・プラス」で、スプリングはスタンダード品をそのまま使う。
テイン製品の中では比較的手ごろなシリーズ(車種によって1万~2万円/1本)であっても、精度や耐久性はいわゆる量産標準品とはレベルが違い、動き出しからスムーズでしなやかな挙動を見せることは既に経験済みである。さらにテインのダンパーの特長はほとんどの製品にH.B.S.(ハイドロバンプストッパー)と称する、一般的なバンプストッパーの代わる機構を備えていること。ストロークエンドでオイル流路を絞ってエネルギーを吸収するもので、シトロエンでいうところのPHC(構造は違うが)と同じ考え方から生まれたメカニズムである。そのおかげで段差の乗り越えなど、スタンダードではガツンと強烈に底付きするような場面でも、突き上げを抑えることができる。スタンダードではどうしてもラフな乗り心地のテスラ2台、中でも重くパワフルなモデルYではとりわけ効果が大きく、直接的なショックと跳ね返りが緩和されて、ギャップに身構えることなく、よりフラットな姿勢を保ったまま走り抜けることができた。
電動化で増加する車重にも対応
そのテスラ・モデル3も車高調整式のフレックスZに交換すると(減衰力は16段階の真ん中、車高は-20mmほど)見違えるようにスポーティに変身した。標準品よりもスプリングレートが上がっても乗り心地も損なわれない。ちょっと攻めたコーナリングではボディの挙動に頼りなさがあったBYDシールもピシッと落ち着き、強力なモーター性能を思い切り使えるようになった。最後はフレックスZに電子制御減衰力可変システムの「EDFC5」を装着して試したが、こうなるともう1000万円以上のEV並みである。
当たり前だがエンジン車に比べて圧倒的に静かなEVでは、エンジン車では目立たなかったノイズや振動などの快適性が気になる。それをどのように洗練させるかが、いわば競争領域である。電動化でどうしてもさらに車重が増加する状況を見越しての「プレミアム・リプレース製品」は、まさに先見の明と言えるだろう。