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Ferrari Roma Spider
甘い生活にぴったりの1台
超高性能なエンジンを搭載したスーパースポーツカー、その行き着く先はもちろんコンペティションフィールド──フェラーリのクルマといえばおよそこのコンセプトを基にしているといえるだろう。そもそもF1をはじめとするモータースポーツ活動が社の最大目的であるのだから、市販車がそのイメージを受け継ぐのは当然の話だ。4シーターのGTC4ルッソやハードトップカブリオレのポルトフィーノMなど、ハード一辺倒ではないモデルもあるとはいえ、それらの心情はやはり“コンペティションフェラーリ”の延長線上にある。
だから「DOLCE VITA(甘い生活)」という往年のフェリーニ監督のイタリア映画のタイトルをテーマにしたローマが登場したときは軽い衝撃だった。ヘルメットを被ってサーキットを攻めるような世界とは一線を画すフェラーリ。なるほど、こんな手もあったかと感心したが、思えばフェラーリは330GTCや365カリフォルニアなど、かつてはエレガントなデザインのクーペを多く造っていた。ローマはそんな佳き時代へと回帰するモデルなのだろう。
1950〜60年代の古のエレガントなスポーツカーは、オープンモデルをラインナップすることが多かった。それはもちろん最大マーケットのアメリカ、特に西海岸ではオープンモデルが人気だということがあるのだが、美しい曲線で構成されたボディデザインにはオープンが実によく似合うのは事実。だからローマにスパイダーが追加されることは必然だったのだろう。V8ツインターボエンジンのFRオープンという点ではプラットフォームを共有するポルトフィーノMとバッティングする。ローマはソフトトップを備えた、よりクラシックでエレガントなオープンスポーツということらしいが、おそらくポルトフィーノMはこれでモデル終了となるのだろう。
佳き時代のエレガントなスポーツカー
クーペボディのローマはまさにエレガントという言葉がふさわしい、完成された美を持っていたので、これがオープンになったらどうなるのかが気になっていたが、イタリア・サルディニア島の陽光の下で見るローマ・スパイダーはクーペに負けぬほど、いや、クーペ以上にエレガントだった。取り去られたハッチバックの部分はダイナミックなプレスラインが入り、ボリュームのあるリヤフェンダーと相まってリヤタイヤの部分に安定感と躍動感を与えている。長く、低いボンネットから薄く軽快なキャビン、そして安定感のあるリヤへと流れるサイドのラインはクラシックなスポーツカーの雰囲気をよく醸している。
ソフトトップは5層構造。カラーはレッド、ブルー、グレーなど5色が揃うので、ボディカラーとのコーディネートが楽しめるのもローマ・スパイダーならではの楽しみだ。寄って見ると素材はツイードのような感じで、黒糸を斜めに織り込んであるのでレッドでも派手すぎず落ち着いた雰囲気だ。またオープン時に露出するシート後方のトノカバー表面にもトップと同じ生地が張ってあるのは、畳んだ幌がそのまま露出していた昔のオープンカーのスタイルを思わせる演出だ。クーペと同様にスパイダーも+2のリヤシートが備わるが、足元のスペースがほとんどないので、よほどの緊急時以外は荷物置き場として使うしかなさそうだ。もっとも、後ろに気軽に荷物を置ける場所があるのは本当に便利で、日常での使用が多いローマスパイダーのユーザーからは歓迎されるはずだ。
その後席は背もたれの部分にオープンでの風の巻き込みを軽減するウインドディフレクターが内蔵されており、センターコンソールのスイッチを引くと、ヘッドレスト下を支点にしてボードが迫り上がってくる。お、これも電動なのか、と思ったら格納は手で押さえなければならないので、単なるバネ仕掛け(後で確認したらガス・スプリングとのこと)のようだ。これの効果はこの後の試乗で確認することにしよう。
密やかな会話も可能なオープンドライブ
CELESTE TREVI(トレビの天空)と名付けられた新色の淡いブルーの1台に乗り込み、サルディニア島の海沿いの道を走る。オープンカーというのはそれだけで気分が上がるが、それが温暖なリゾート地であればまさにベストなシチュエーション。ちょっと湿度が高いのが意外だが、屋根を開けていてもエアコンの風はしっかりと感じられるので不快さはまったくない。エンジンやトランスミッションなどのパワートレイン系はクーペとまったく同じということだが、クーペよりもあらゆる部分の当たりがマイルドな感じだ。路面の荒れもしなやかに吸収し、不快なショックを感じることはない。これはあえてアナウンスしないようなチューニングが行われているのかもしれないが、屋根が開いていることで音や振動を感じにくくなっている効果なのかもしれない。
マネッティーノでストラーダを選択し、60km/hくらいで流すと、ローマスパイダーは完全にラグジュアリーなオープンスポーツだ。エンジンサウンドは心地良い加減で耳に届き、ミッドシップスポーツのように速く速くと急き立てられる雰囲気もない。それでいて素直なステアリングとアシの動きは、運転することの楽しさをしっかりと味わわせてくれる。これくらいの速度であれば、サイドウインドウを上げている限り風の巻き込みは僅かだ。それではと、ウインドディフレクターを上げてみると、僅かな風の巻き込みがスッとおさまった。オープンで走っているのに室内は不気味なくらいの無風状態、おそらくローソクの火も消えないだろう。
今まで体験したオープンカーのウインドディフレクターでもっとも効果が大きかったのがポルシェ911カブリオレのものだが、あれは背後に凱旋門のようにそびえ立つビジュアルがいささかカッコ悪かった。ところがローマスパイダーのウインドディフレクターはさほど目立たないデザインなのも素晴らしい。これならばオープンドライブを楽しみながら隣の女性との密かな会話も可能だ。まさに「甘い生活」にはぴったりの1台ではないか。
甘いだけのクルマは造らない
しかしひとたびワインディングロードに入ると、ローマ・スパイダーはもうひとつの顔を見せた。V8ツインターボは官能的なサウンドを響かせ、タコメーターは何の抵抗もなくレッドゾーンに向かって駆け上がる。フロントに荷重をかけながらステアリングを切り込むと、良くダンピングの効いたフロントサスがしっかりと路面を捉え、フロントからグッと回り込んでいくFRスポーツならではの動きを見せ、その際には掌に路面の状況がしっかりと伝わってくる。適度にロールしながらも姿勢が安定しているのはトランスアクスルによる重量バランスの良さが効いているのだろう。上屋が軽くなった分、動きには軽快さが増しているのではないかとさえ感じた。また屋根を切り取ったにもかかわらず、少なくとも峠を走った限りではボディ剛性の低下を感じることはなかった。
美しくエレガントでありながら、その内面にはアスリートの筋力と体力を秘めている。この2面性がローマの魅力だが、それはスパイダーとなってさらに磨きがかかったようだ。さすがフェラーリ、甘いだけのクルマは造らないのである。
REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/Ferrari S.p.A
MAGAZINE/GENROQ 2023年12月号
SPECIFICATIONS
フェラーリ・ローマ・スパイダー
ボディサイズ:全長4656 全幅1974 全高1306mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1556kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3855cc
最高出力:456kW(620PS)/5750-7500rpm
最大トルク:760Nm(77.5kgm)/3000-5750rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ:前245/35ZR20 後285/35ZR20
車両本体価格:3280万円
【オフィシャルサイト】
フェラーリ・ジャパン
https://www.ferrari.com/ja_jp/