ランボルギーニ、宇宙での研究やリサイクル事業も積極推進

幻のカウンタックからエッセンサ SCV12まで。ランボルギーニが紡ぐカーボンファイバー開発

カウンタックの時代から現在まで脈々と続く、ランボルギーニのカーボンファイバー複合素材研究・開発
ランボルギーニ カウンタック エボルツィオーネのフロントスタイル
アウトモビリ・ランボルギーニが展開するスーパースポーツの強みのひとつが、軽量複合素材・カーボンファイバーの導入にある。1980年代から続く継続的な研究と革新的なアプローチにより、ランボルギーニは35年以上にわたってこの分野で最先端を走ってきた。今回、ランボルギーニの素材研究の歴史におけるマイルストーンを紹介しよう。

1983:カウンタック エボルツィオーネ

カウンタックの時代から現在まで脈々と続く、ランボルギーニのカーボンファイバー複合素材研究・開発
カウンタックをベースに、旅客機で採用されたカーボンファイバー技術を導入したカウンタック エボルツィオーネが開発された。

1983年、ランボルギーニは初めてカーボンファイバーの開発と使用をスタートした。旅客機ボーイング767に採用された初期のカーボンファイバーとケブラーのコンポーネントに関するノウハウをシアトルから導入。

新たにセスペリエンツァ・マテリアッリ・コンポジッティ(Esperienza Materiali Compositi)部門を設立し、「カウンタック エボルツィオーネ(Countach Evoluzione)」と命名された、初のカーボンファイバー製シャシーのプロトタイプを製作した。これは、ランボルギーニにとって初めて複合素材を使用した車両であり、スーパースポーツのロードカープロジェクトでも世界初となる。

2007~2008年:社内外で複合素材研究を本格化

ワシントン大学と共同で素材成形に関する研究をスタートし、ランボルギーニ社内には複合材の研究開発センターを立ち上げた。さらに航空業界最大手のボーイングとも共同研究契約を締結した。
ワシントン大学と共同で素材成形に関する研究をスタートし、ランボルギーニ社内には複合材の研究開発センターを立ち上げた。さらに航空業界最大手のボーイングとも共同研究契約を締結した。

2007年、ワシントン大学との緊密なパートナーシップが確立され、ランボルギーニの複合材料の歴史における重要な節目を迎えた。この時、ワシントン大学に脱オートクレーブ成形のひとつであるRTM(Resin Transfer Molding)成形の基礎技術研究が委ねられたのである。この技術は、後にアヴェンタドールのモノコック製造の基礎となった。

そして2007年にはランボルギーニの研究開発センター内に複合素材専門部門を設立。現在では「コンポジット開発センター(Composites Development Center)」として、革新的な素材の研究と炭素繊維の応用に関する新しいコンセプトや技術の開発に注力している。

2008年、複合材料とアヴェンタドール用モノコックの衝突挙動を研究するため、ボーイング社と最初の共同研究契約を締結。自動車業界のどこよりも早く、ランボルギーニは航空・宇宙業界の複合材料技術、プロセス、シミュレーション、特性評価の手法の導入を開始した。

2010:カーボンを纏ったセストエレメント

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ガヤルドをベースに炭素繊維製造技術を駆使して開発した超軽量コンセプトカー「セストエレメント」が登場。

2010年、ボーイングとゴルフクラブメーカーのキャロウェイと共同で、ランボルギーニはフォージド・コンポジット技術を開発。この特許技術をベースに、コンセプト・スーパースポーツ「セストエレメント(Sesto Elemento)」を完成させた。

同年、ランボルギーニの生産拠点に複合素材パーツの製造に特化した専用ファクトリーを建設(後にアヴェンタドールのモノコックの生産に使用)。このファクトリーでは自動化された生産工程と丁寧なクラフトマンシップが組み合わせられている。

2011:カーボン製モノコックを採用したアヴェンタドール

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ランボルギーニは革新的なカーボンファイバー製モノコックを採用した、アヴェンタドール LP700-4を発表。モノコックはランボルギーニが自社内のファクトリーで製造している。

2011年に、サンタアガタ・ボロネーゼでで設計・製造された革新的なカーボンファイバー製モノコックを採用した新型「アヴェンタドール LP700-4」を発表。

アヴェンタドールのカーボンファイバー製ボディシェルは、独自の構造設計を採り入れたことで229.5kgという驚異的な軽量化を実現した。複合素材モノコックの製造には複雑な工程が必要であり、この時点ではどのサプライヤーも提供が不可能だったため、ランボルギーニはモノコックを自社で製造することを決定している。

モノコックを構成するパーツのほとんどは、ランボルギーニが特許を取得した「RTM-ランボ(RTM-Lambo)」技術を用いて製造。このプロセスでは、手動でのラミネーションやオートクレーブが不要になるだけでなく、カーボンファイバー製金型の使用が可能になるため、製造時間が大幅に短縮された。

さらにこの年には、ボーイングとの新たなパートナーシップにより、複合素材の修理サービスも新たに導入されている。

2014:カーボン素材の修理サービスがTUV認証取得

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2011年から導入された複合素材・カーボンファイバー修理サービスが、世界的な認証機関である「TUV認証」を取得した。

2014年、アウトモビーリ・ランボルギーニは、自動車会社としては世界で初めてカーボンファイバーを使った車両の修理サービスで「TUV認証」を取得した。テュフ・ラインランドが制定する認証マーク(TUV 認証)は、製品やコンポーネントの安全性と品質を証明し、GSマークに匹敵する信頼性が担保される。

2011年から導入された複合素材・カーボンファイバー修理サービスはTUVイタリアのスペシャリストによる監査を受け、説明責任、トレーサビリティ、信頼性、時間厳守、正確性が認定された。このサービスは「フライングドクター(Flying Doctor)」と呼ばれる専門のエキスパートによって提供されている。

2015:インテリア用新素材「カーボンスキン」の導入

カウンタックの時代から現在まで脈々と続く、ランボルギーニのカーボンファイバー複合素材研究・開発
インテリア用に開発された、非常にフレキシブルな構造を持つ新素材「カーボンスキン」が導入された。

2015年には「カーボンスキン(Carbonskin)」が導入される。ランボルギーニは何年にも及ぶ研究開発の末、自動車のインテリアに適したフレキシブルな構造を持つ新たなカーボンファイバー素材を開発。ランボルギーニはこの「カーボンスキン」で特許を取得している。

自動車専用に開発されたユニークでフレキシブルな複合素材「カーボンスキン」は、ランボルギーニの研究開発部門によって開発され、自動車業界のすべての型式承認にも適合。この革新的な新素材は、大幅な軽量化(アルカンターラより28%、レザーより65%も軽量)に加えて、自然なカーボンファイバーの雰囲気、立体感、他の素材と比較してすぐに感じられる柔らかさなど、ユニークな特徴を備えている。

2016:シアトルに新たなカーボン研究機関を設立

カウンタックの時代から現在まで脈々と続く、ランボルギーニのカーボンファイバー複合素材研究・開発
2016年、本社直轄のカーボンファイバー研究施設「アドバンスド・コンポジット・ストラクチャー・ラボラトリー」を設立した。さらに2017年にはヒューストン・メソジスト研究所と共同で、医療分野へのカーボンファイバー導入に向けた研究もスタートした。

2016年、米国ワシントン州シアトルに、新たなカーボンファイバー研究機関「アドバンスド・コンポジット・ストラクチャー・ラボラトリー(Advanced Composite Structures Laboratory:ACSL)」を開設した。ACSLはサンタアガタ・ボロネーゼにある本社の外部組織として運営され、カーボンファイバー素材開発に関するあらゆる可能性を調査・研究している。

さらに2017年にはヒューストン・メソジスト研究所と医療分野における複合材料の研究プロジェクトを開始した。ランボルギーニから、カーボンファイバーや複合材料の研究におけるノウハウをヒューストン・メソジスト研究所に提供し、医療分野における複合材料の研究のための共同研究を行っている。

この研究プロジェクトでは、義肢インプラントや皮下機器への導入の可能性がある複合材料の生体適合性を体外で研究することに重点を置いている。カーボンファイバーは現在医療分野で使用されている素材よりも放射線透過性があり、人体への耐性が高く長期的な耐久性があり、さらに大幅な軽量も実現できると見られている。

2019:複合素材をアンタレスロケットで宇宙へ

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ランボルギーニで製造されたカーボンファイバー複合素材は、宇宙空間での研究開発を目指し「アンタレス・ロケット」に搭載されて宇宙へと打ち上げられた。

2019年、サンタアガタ・ボロネーゼで製造されたカーボンファイバー複合材が、ノースロップ・グラマン製「アンタレス・ロケット」に搭載され宇宙へと打ち上げられた。ランボルギーニは自社で開発・生産した素材やパーツを、実験目的で国際宇宙ステーション(ISS)に送り込んだ世界初の自動車メーカーとなっている。

ランボルギーニは、2018年からヒューストンメソジスト研究所と提携。高度複合素材のスーパースポーツへの応用や、医療分野における将来的な転用を視野に入れ、同研究所との研究・開発を続けている。今回、サンタアガタ・ボロネーゼで製造された5種類の複合素材が宇宙空間に送られ、極限の環境下でどのような反応をするかを分析。この実験はISSを展開する米国エネルギー省所管国立研究所がスポンサーとなり、ヒューストンメソジスト研究所が監修している。

2021:ロールケージを廃した「エッセンサ SCV12」

カウンタックの時代から現在まで脈々と続く、ランボルギーニのカーボンファイバー複合素材研究・開発
2021年、新世代カーボンファイバーモノコックシャシーを採用した史上初のサーキット専用スーパースポーツ「エッセンサ SCV12」を発表。エッセンサ SCV12は2021年4月からデリバリーが開始されている。

2021年、ランボルギーニは新世代カーボンファイバーモノコックシャシーを採用した史上初のトラック専用スーパースポーツ「エッセンサ SCV12(Essenza SCV12)」を発表。ここで採用された世界最高峰のカーボンファイバー複合材技術は、ランボルギーニの30年に及ぶ研究・開発の成果により実現した。

エッセンサ SCV12は、カーボン製モノコックがロールケージの役割を持っており、これまで見られたようなスチールパイプ製ロールケージを使用せず、WEC(世界耐久選手権)を走行するFIAハイパーカーの安全規定をクリアしている。

ランボルギーニが独自に開発したオートクレーブ製法で製造されたカーボンファイバー製モノコックは、FIAが定める安全規定をクリアするため非常に厳しい静的・動的試験が課された。静的試験は20項目以上もあり、シャシーのほか、ペダルやベルト、燃料タンクなども含まれている。

一方、動的な衝突試験では、最大で毎秒14mの速度でエッセンサ SCV12に衝撃が加えられた。このテストではドライバーと接触する可能性のある外部要素がコクピット内に侵入してはならず、同時に燃料タンクからの漏洩も一切許されていない。

現在:カーボンファイバーのリサイクルを推進

カウンタックの時代から現在まで脈々と続く、ランボルギーニのカーボンファイバー複合素材研究・開発
パーツなどに成形する際に排出されるカーボンファイバーを再利用。リストバンドなどのゲスト向けグッズを製造している。

現在、ランボルギーニは生産活動で発生する特殊廃棄物のうち56%のリサイクルを実現。これにより、貴重な素材がそのまま埋立地に埋められたり、産業廃棄物として処理されるのを防いでいる。中でも、カーボンファイバーなどの炭素繊維の再利用を積極的に推進。すべての廃棄物は車両用パーツにリサイクルされるだけでなく、ファクトリーを仕切るパネルや台車などにも活用されている。

さらに生産工程で使用できなくなった炭素繊維の一部は、フォルノボ・ディ・タロにある技術研究所「エクスペリス・アカデミー」に引き渡され、炭素繊維複合材加工の技術者育成にも使用。また、リサイクルでも活用できないカーボンファイバーは、ランボルギーニが主催するイベントの際にカスタマーやゲストへ配るお土産にも使用されている。

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ゲンロクWeb編集部

スーパーカー&ラグジュアリーマガジン『GENROQ』のウェブ版ということで、本誌の流れを汲みつつも、若干…