2500台限定車「911ダカール」は軽い気持ちで接すると大火傷する激アツマシン

ド派手なカラーリングの「911ダカール」は軽い気持ちで接すると大火傷する激アツマシン

ポルシェAWDの祖となった953のヘリテージを最大限に活かしたマシンは、953や959のパリ・ダカでの活躍を知っているファンの財布の紐を緩ませるには最適だ。
ポルシェAWDの祖となった953のヘリテージを最大限に活かしたマシンは、953や959のパリ・ダカでの活躍を知っているファンの財布の紐を緩ませるには最適だ。
バリエーションの広さを誇る911だが、オフロードモデルというものは存在しなかった。それだけに、ダカールの登場は驚きを持って迎えられた。かつての953へのオマージュを込めた911初のオフロードモデル。試乗場所も、本誌の911インプレでは初のオフロードである。(GENROQ 2024年2月号より転載・再構成)

Porsche 911 Dakar

ハンパない目立ち具合

対向車のドライバーが驚いたような表情でこちらを見ている。信号待ちをしている外国人観光客が歓声を挙げて一斉にスマホを向ける。下校中の小学生の集団が嬉しそうにこちらを指差している。仕事柄、目立つクルマに乗ることは多いが、ここまで注目を浴びるのは初めてかもしれない。それほどに911ダカールの目立ち具合はハンパない。要因はもちろんこの派手なカラーリングだ。1984年にパリ・ダカールに参戦し、見事優勝を飾った953のロスマンズカラーをイメージしたホワイトとブルーの2トーンカラー、レッドとイエローのストライプ。それだけでも十分なのに、ボディサイドには大きなナンバーとロスマンズならぬ

「Roughroads」の文字。ドイツ人もずいぶんとユーモアがあるもんだ。ここまできたらいっそオプションのルーフラックまで備えて欲しかった……。

真っ先にカラーリングが目に飛び込んでくるダカールだが(ちなみにこのロスマンズをイメージしたカラーリングはラリーデザインパッケージというオプション)、通常のスポーツサスペンション装着車よりも50mmも高められた車高、SUVのようにフェンダーやボディ下部を覆うブラックの樹脂パネル、フロント/サイド/リヤのアンダー部に装着されたステンレス製ガードなど、ちょっと詳しい人なら明らかに普通の911とは異なるルックスに気がつくだろう。ワイルドになった足元には、やはり953をイメージしたデザインのホワイトホイールに無骨なトレッドパターンのピレリ・スコーピオンを履く。

特別装備はそれだけではない。エンジンやパワートレインは基本的に480PS/570Nmのカレラ4GTSと同じだが、ドライブモードは「ウエット」「ノーマル」「スポーツ」に加えてダカール専用の「ラリー」と「オフロード」モードが設定された。最低地上高は161mmで、必要ならばスイッチひとつでさらに30mm高めることが可能だ。こうやって詳細を見ていくと、このクルマは単なるビジュアルモデルではなく、本気でオフロード走行を想定して造られていることがわかる。ボンネットはGT3と同じカーボン製とし、リヤシートを省くなどの軽量化もあり、重量はカレラ4GTSよりも10kg重いだけの1605kgに留まっている。

ファッション感覚で接するとそのハードさに驚くだろう

本気モードはインテリアも同様だ。トップマークが入れられたRace-Texのスポーツステアリング、カーボン製のフルバケットシート、リヤシートを省いた2シーターの室内はもはやGT3 RS、いやパリ・ダカマシン。試乗車にはラリースポーツパッケージによるロールケージまで備わっていた。フルバケットシートに身体を潜り込ませると、やや視点が高いことを除けば、運転席からの眺めは見慣れた911の世界。しかしひとたび走り出すと、他の911とは違う独特のフィールに襲われることになる。

まずその乗り心地は端的に言って硬い。車高が上がっている分、ストローク量は明らかに増えているのだが、それをダンパーとPDCCアクティブロールスタビライザーで抑え込んでいるのだろう、ボディ本体は安定しているのだがタイヤの動きや振動ははっきりと感じられる。ピレリ・スコーピオンはフロント19インチ、リヤ20インチだが、おそらくサイドウォールが通常のタイヤよりも固いということも、この乗り味に影響を与えていると思われる。クッションの薄いフルバケットシートだからなおさらだ。加えてリヤシートがないためか、エンジン音と排気音はかなり大きめに室内に響く。ひょっとしたら遮音材も少し省かれているのか? いずれにしろファッション感覚で911ダカールに接すると、そのハードさに驚くことになるかもしれない。

ワインディングでは911らしいスポーティさを見せてくれるが、やはりロールはやや大きめであることと、またオールテレインタイヤのためステアリングの動きに対する初期の反応がやや甘めであることは事実。とはいえこれは通常の911に比べれば、の話で、むしろタイヤのグリップを感じながらスロットルでクルマの動きをコントロールするという意味では好ましくも感じたくらいだ。ちなみにダカールの最高速度が240km/hと低いのは、このオールテレインタイヤが超高速に対応していないためだ。

時間を忘れてオフロードを走り回っていた

さて、いよいよダカールの本懐であるオフロードに足を踏み入れてみよう。細かな砂と砂利の路面ではその必要はなさそうだったが、一応車高を上げて未舗装のワインディングに突入した。スコーピオンは4輪でしっかりと路面を捉え、苦もなく突き進む。舗装路ではかなり硬さを感じたサスペンションは、ダートでも足下をしっかりと動かし、ボディは意外なほどフラットに保たれる。多少ラフにスロットルやステアリングを扱っても、姿勢が乱れる気配はほとんどない。リヤアクスルステアリングは、オフロードでこそ有効なシステムなのかもしれない。

もうひとつ、実感するのは巌のようなボディ剛性だ。オフロードを飛ばしても車体はミシリとも言わず、サスペンションのストロークを受け止める。もともと911のボディ剛性の高さには定評があるが、ロールケージの効果も大きいのだろう。荷物の積み下ろしが不便になることを差し引いても、ダカールには必須の装備だといえる。

ここでドライブモードを「ラリー」にすると、トルク配分のメーターがフロント30対リヤ70くらいとなった。コーナーでフロントに荷重が乗ったところでスロットルを開けていくと、ダカールはいとも簡単にオーバーステアの体勢となる。それでいて姿勢は安定したままでクルマを前にと押し進めるので、安心してスロットルを踏んでいける。一方「オフロード」モードでは前後トルク配分が50対50となり、「ラリー」モードの時と同じような走りでコーナーを抜けても抜群のスタビリティで姿勢は安定したまま。2つのモードでオフロードの走りを使い分ける、ダカールはそんな楽しみも提供してくれるのだ。あまりの楽しさに、いつしか時間を忘れてオフロードを走り回っていた。

ポルシェAWDの祖となった953のヘリテージだ

オフロードを飛ばしても車体はミシリとも言わず、サスペンションのストロークを受け止める。
オフロードを飛ばしても車体はミシリとも言わず、サスペンションのストロークを受け止める。

試乗を終え、夕暮れの河原に停めた汚れたダカールを眺めながら、なぜポルシェは今、このクルマを出したのだろうかと考えた。2024年は953のパリ・ダカ優勝から40年となる記念の年だからか? それとも純エンジン最後の911の記念碑的モデルという意味か? いずれにしても、ポルシェAWDの祖となった953のヘリテージを最大限に活かした2500台限定のマシンは、953や959のパリ・ダカでの活躍を知っている裕福なファンの財布の紐を緩ませるには最適だろう。悪い意味ではない。そのプロダクトの仕上がりは文句のつけようがないくらい素晴らしいのだから、売る方も買う方もWin-Winだ。

いつもながら感心するポルシェのビジネスの上手さ。それがわかっていながら、ボクたちは見事にハマるのである。

REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)
MAGAZINE/GENROQ 2024年 2月号

SPECIFICATIONS

ポルシェ911ダカール

ボディサイズ:全長4530 全幅1864 全高1338mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1605kg
エンジン:水平対向6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2981cc
最高出力:353kW(480PS)/6500rpm
最大トルク:570Nm(58.1kgm)/2300-5000rpm
トランスミッション:6速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前245/45R19(8J) 後295/40R20(11.5J)
車両本体価格:3099万円

【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
http://www.porsche.com/japan/

オフロード走行を楽しめるポルシェ 911 ダカールに、サファリ・ラリーをイメージした3つのスペシャルカラーリングが追加された。

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著者プロフィール

永田元輔 近影

永田元輔

『GENROQ』編集長。愛車は993型ポルシェ911。