クラウンクロスオーバーRS 2.4LのE-Four Advancedは、雪の上では無敵のハンドリングマシンだ

トヨタ・クラウンクロスオーバーを士別試験場で試乗。その電気式4WDの実力を試した。
劇的と言っていいほどの変化・進化を遂げた新型クラウン。そろそろ街中でも見かける機会が増えてきた。変わったのは、もちろんルックスだけではない。その走りは、高度に制御された電動4WDを得て格段に進化している。今回は、そのクラウンクロスオーバーの走りを雪上でチェックした。舞台はトヨタ・北海道士別試験場である。これ以上、相応しいステージはないだろう。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)PHOTO & FIGURE:Toyota

新時代のクラウンの走りを決定づける電気式4WDシステムとは?

左が2.5LハイブリッドのG、右が2.4LターボハイブリッドのRS。どちらもリヤをモーターで駆動する電気式4WDシステムを採用する。

トヨタ・クラウンは前型までFRの駆動方式を採用していた。フロントにエンジンを搭載し、プロペラシャフトでリヤに駆動力を伝え、後輪を駆動していた。クロスオーバースタイルを採用した新型クラウンは、「新時代のクラウンにふさわしい走り」を実現するため、全車4WD(4輪駆動)を採用する。

クラウンの4WDはプロペラシャフトを用いて駆動力を前後に配分するメカニカルな方式ではなく、リヤにモーターを搭載することによって四輪駆動を実現する電気式4WDシステムを採用。フロントに搭載するハイブリッドシステムは、前輪の駆動に徹する。

クラウンには2.5Lハイブリッドと2.4Lターボハイブリッドの2種類のパワーユニットが設定されている。2.5Lハイブリッド車は2.5L直列4気筒自然吸気エンジンに走行用と発電用の2つのモーターを組み合わせ、走行状態に応じて3つのパワーソースを最適に制御する。

2.4Lターボハイブリッドはリヤに水冷式モーターを搭載する。
2.5Lハイブリッドのモーターは水冷式だ。

2.4Lターボハイブリッド車は2.4L直列4気筒ターボに、走行用モーターと6速ATを組み合わせた新開発の1モーター・ハイブリッドシステムを搭載する。乱暴に分類すれば、2.5Lハイブリッド車は燃費指向、2.4Lターボハイブリッド車はパフォーマンス指向だ。システム最高出力とWLTCモード燃費を記しておくと、前者は172kW(234ps)、22.4km/L、後者は257kW(349ps)、15.7km/Lとなる。これらの数字から、キャラクター分けが明確に行なわれていることが伝わってくる。

電気式4WDシステムは、2.5Lハイブリッド車と2.4Lターボハイブリッド車で内容が異なる。2.5Lハイブリッド車はE-Four、2.4Lターボハイブリッド車はE-Four Advancedを搭載する。どちらもリヤにモーターを搭載して後輪を駆動するが、後者のほうがパワフルで、制御内容も違う。

E-Fourのリヤモーターは最高出力が40kW(54.4ps)、最大トルクは121Nmで、空冷だ。4WDになるのは発進時と前輪のスリップ検知時、そしてコーナリング時(ステアリングの舵角から検知)だ。定常走行時(一定速で淡々と走っている状況)は2WD(FF)で走行する。

2.4LターボハイブリッドのE-Four Advancedのシステム構成図。

E-Four Advancedのリヤモーターは最高出力59kW(80.2ps)、最大トルク169Nmを発生する。冷却は水冷だ。「高度な」「先進的な」を意味するAdvancedが加えられているだけあり、E-Fourよりも積極的にリヤモーターを活用する。前後輪のトルク配分は走行状態に合わせて100:0〜20:80の範囲で緻密に制御。旋回内輪の前後接地荷重配分比を元に、タイヤ横力も考慮して前後駆動力配分を決定する。前輪と後輪のタイヤを等しく負担させて使う考えで、大きな駆動力を後輪に配分できる強みを生かし、前輪は曲がることに集中させるコンセプトだ。

E-Four AdvancedもE-Fourと同様に定常走行時は2WD(FF)に切り替わるが、少しでも加速意図を検知すると即座にリヤに配分する制御なので、実質的にはほぼ4WDで走行する。走行用バッテリー(出力の出し入れ性に優れたバイポーラ型ニッケル水素電池だ)だけに頼ってリヤモーターを駆動していると、バッテリー残量に縛られてリヤモーター駆動の機会を失ってしまう。そこで、エンジン出力の一部を使って走行用モーターを連れ回し発電。その電力でリヤモーターを駆動する。

クルマを走らせる動力源としての効率は落ちるため、「かつてのトヨタでは許されなかった制御」と、開発に携わる技術者のひとりは感慨深げに説明する。効率(燃費)よりも走りを重視した選択が許されたのは、トヨタのクルマづくりに対する意識が変わった証拠だし、「自然で安定感のある、意のままの走り」のためでもある。

高出力のeAxleにDRS(後輪操舵)を組み込んだユニットをリヤのサブフレームに載せる。
低速では逆相、高速域では同相に後輪が切れるわけだが、その制御は極めて難しい。クラウンクロスオーバーのDRSの制御は世界最高レベルと言っていい。

E-Four、E-Four Advancedともに共通しているのは、後輪操舵システムのDRS(Dynamic Rear Steering)を標準で装備していることだ。DRSは低速域では逆相(前輪と逆の向き)に切れて小回り性を確保し、中速域でもやはり逆相に切れて軽快なハンドリングに貢献。高速域では同相(前輪と同じ向き)に切れて高い安定性を確保するシステムである。

新型クラウンは後輪操舵システムと電動式4WDシステムを統合的に制御しているのが大きな特徴で、回頭性と安定性の高さがウリになる。開発に携わった技術者は、「走り込みを行ない、人が違和感なく、気持ち良く走れるマッピングを作り込んだ」と胸を張る。どうぞ、出来映えを雪上で確かめてくれと。

DRS(後輪操舵)+リヤモーターの効きがスゴイ

試乗は士別試験場の第4周回路、第5周回路を使って行なわれた。ときに吹雪で前方視界が奪われるコンディションだった。
士別試験場のコースをたっぷり走らせてもらえる機会はそうはない。貴重な体験だった。

雪に覆われたトヨタ自動車士別試験場(北海道士別市)には、E-Fourの2.5Lハイブリッド車(19インチおよび21インチアルミホイール&タイヤ装着車)とE-Four Advancedの2.4Lターボハイブリッド車が用意されており、欧州のカントリーロードを模した周回路をたっぷり走らせることができた。

4WDシステムの違いを問わず印象的だったのは、回頭性が高いことだ。ドライ路面とほとんど変わらない感覚で鼻先が曲がりたい方向に向く。どこまでがDRSの効果で、どこからが前後駆動力配分の効果か正確に切り分けるのは困難だが、DRSの効果は大きいと判断してよさそうだ。なにしろ、「DRSが雪上の走りにも寄与するというのは、我々にとっても発見だった」と技術者に言わしめるほどなのだから。

2.4Lも2.5Lも、ドライバーに絶大な安心感を与えてくれるクルマに仕上がっていた。

乾燥舗装路でもそうだが、特筆すべきは、かつての後輪操舵システムにつきまとった違和感が一切ないことだ。いつ動き出したのか、いつ止まったのかもわからないように上手に制御するエレベーターのように後輪を巧みに操舵し、自分の技量で向きを変えているフィーリングを味わわせてくれる。

2.5LのE-Fourの走りも余裕綽々。まったく不足はない。
RSの走りはまさに縦横無尽。安心してドライブできた。積極的にアクセルを踏んでいける楽しさがある。
2.4Lターボハイブリッド E-Four Advancedの走りは縦横無尽だ。

DRSの働きによってクルマの向きがドライバーの意図どおりに変わるので、リヤモーターは早いタイミングでしっかりと駆動力をかけることができる。リヤのしっかり感が印象的だし、ドライバーにフラストレーションを感じさせずに、きちんと前に進む。FRではこうはいかない。雪道のような滑りやすい路面ではリヤは滑りがちだし、滑り出したら前には進まない。2.5LのE-Fourですら、前に進む能力、曲がる能力に2WDとの決定的な差があり、それが絶大な安心感につながる。

2.4LのE-Four Advancedはもう、雪の上では無敵のハンドリングマシンだ。自然で安心感のある走りはそのままに、操る楽しさの部分だけを2.5L・E-Fourに対して何倍も引き延ばしたイメージだ。その気とウデがあれば、雪道を縦横無尽に駆け回ることすら可能だろう。極めて高いポテンシャルを感じさせる。

最新のデバイスを生かして4WDをどうまとめるかも大事だし、DRSを組み合わせて走りのレベルを引き上げることも大事だが、デバイスを載せる土台(プラットフォーム+ボディ+サスペンションなど)の重要性を、不安定な動きに陥りがちな雪道を走ることで再認識した。信頼できるステアリングの感触が大事だし、制動したり、旋回したり、素早く切り返したりするときにドライバーを含めて乗員を不安にさせるような動きにならないことが大事で、クラウンはそれができている。

タイヤはブリヂストン・ブリザックVRX3を装着していた。このタイヤの威力も小さくはないだろう。

きっちりできた土台の上にE-Four/E-Four Advanced+DRSを載せ、それらを上手にまとめ上げることで、よく曲がり、よく走り、安心して快適に、そして気持ち良くドライブすることが可能。走りをどうまとめ上げればお客さんはよろこんでくれるのか。そのイメージが明確で、走りを評価する面々だけでなく、走りを実現するハードやソフトの開発に携わる各領域できちんとイメージが共有できているのだろう。

だから、首をかしげたくなるような動きがどこにも出ずにすっきりした走りに終始するクルマが出来上がった。開発陣がワンチームとなって目標を共有し、開発に取り組んだ成果だ。ドライバーはただ、シンプルに運転を楽しめばいい。そういうことができるクルマに、クラウンはなっている。

トヨタ クラウン クロスオーバー RS Advanced
トヨタ クラウン クロスオーバー RS Advanced
全長×全幅×全高:4930mm×1840mm×1540mm
ホイールベース:2850mm
車重:1930kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rダブルウィッシュボーン式
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
エンジン型式:T23A-FTS
排気量:2393cc
ボア×ストローク:87.5mm×99.5mm
圧縮比:-
最高出力:272ps(200kW)/6000rpm
最大トルク:460Nm/2000-3000rpm
過給機:ターボチャージャー
燃料供給:DI+PFI(D-4ST)
使用燃料:プレミアム
燃料タンク容量:55ℓ
トランスミッション:6AT+モーター(Direct Shift-6AT)
モーター:
フロント 1ZM型交流同期モーター
 最高出力82.9ps(61kW)
 最大トルク292Nm
リヤモーター 1YM型交流同期モーター
 最高出力80.2ps(59kW)
 最大トルク169Nm


駆動方式:4WD(E-Four Advanced)
WLTCモード燃費:15.7km/ℓ
 市街地モード12.6km/ℓ
 郊外モード15.8km/ℓ
 高速道路モード17.6km/ℓ
トヨタ クラウン クロスオーバー G Advanced・Leather Package
トヨタ クラウン クロスオーバー G Advanced・Leather Package
全長×全幅×全高:4930mm×1840mm×1540mm
ホイールベース:2690mm
車重:1790kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rダブルウィッシュボーン式
エンジン形式:直列4気筒DOHC
エンジン型式:A25A-FXS
排気量:2487cc
ボア×ストローク:87.5mm×103.4mm
圧縮比:-
最高出力:186ps(137kW)/6000rpm
最大トルク:221Nm/3600-5200rpm
過給機:×
燃料供給:DI+PFI(D-4S)
使用燃料:レギュラー
燃料タンク容量:55ℓ
モーター:
フロント 3NM型交流同期モーター
 最高出力119.6ps(88kW)
 最大トルク202Nm
リヤモーター 4NM型交流同期モーター
 最高出力54.4ps(40kW)
 最大トルク121Nm


駆動方式:4WD(E-FOUR)
WLTCモード燃費:22.4km/ℓ
 市街地モード21.3km/ℓ
 郊外モード23.8km/ℓ
 高速道路モード22.1km/ℓ

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…