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どこでどういう事業をするのが賢い方法なのか
清水:90年代以降、ずっと「グローバリズム」っていう言葉の中で、 国境を越えて輸出産業が花咲いた時期がずっと続いてきた。ただ、最近はどちらかというと、なんかこう、右傾化してるじゃない。パトリオットとか、愛国主義。
高平:そうですね。白か黒か、あるいはそのグローバルサウスか、そうじゃないところとか?みたいな。
清水:でもずいぶん前から、ヨーロッパはビジネスが厳しいし、関税もあるし、為替もあるし。為替的には円安だからいいんだけど。新しい電動化車両は電池規制法とか、国境炭素税とか、バッテリーパスポートとか。多分ヨーロッパではなかなか日本のOEMは事業がしにくい。スバルもダイハツもスズキも撤退して。まぁ日産はルノーとのアライアンスがあるから。 でも決して順風満帆ではないよね。
高平:もう商売の場所としてはちょっとこう、なんか本当に大丈夫かなぁ。
清水:結局アメリカは1本足打法になりやすいんだけど、アメリカといえどもBEVに関しては自国のバッテリー工場じゃなきゃダメ!みたいな話になってきて。
「もしトラ」(トランプ氏復権)が来たらどうなんだろう?っていうのがあるんだけど…話し脱線しちゃうけどね。そうすると、日本の自動車産業の経営者たちは地球の地図見て、「オレたちはどこ行くの?」って言っていると思う。ヨーロッパは厳しいな、アメリカもなんだかんだ規制エミッションとか。カリフォルニアとかBEV規制があるじゃない。中国は中国でまた厳しさがあるでしょ。ASEANは今まで良かったんだけど、最近中国が出てきて、ちょっと日本車が追いやられてる感じ。インドもスズキマルチはいいけど、上の方は結構もう違うビジネスになっている。
フォーミュラEを見て感じた「インドが今や最強」
高平:今もうインドは世界3位です。500万台売れているんですよね。いつの間にか日本を抜いちゃったんですよ、年間の販売台数。
清水:人口は世界一だし。
高平:いや、ちょっとですけど中国が抜きましたね。
清水:それで先日フォーミュラEを観ていて思ったのは、まあ日産がポールポジションを獲っていいなと思ったんだけど、 考えてみたらジャガー・レーシングってTCS=タタ・コンサルタンシー・サービシズ。親会社はタタ! インドはタタもマヒンドラ&マヒンドラも自動車で日本に出ようとはしてない、お互いコンサルがあるから。ボク、フォーミュラEの次の次の日に『テックマヒンドラ』(Tech Mahindra Limited)の親分にインタビューしたんだよ。
高平:日本に来てたの?
清水:そう、来てた。親分はターバン巻いてたね。ターバン巻いているのと巻いていない人がいて、それは宗教、宗派が違うんだって。「日本に事務所を設立し、なんで日本にそれだけ一所懸命なんですか?」って聞いたら、「日本はソフトウェア(を作れる人)がいないから、ボクらがソフトウェアビジネスをやりたい」と。タタは世界最大のソフトウェアエンジニアリングのコンサルサービスやっていますねと。やっぱり日本ってほとんどがソフトウェアはインドから。
高平:自動車のデザインの世界でも、もう20年近く前からインドにデザインコンサルタント会社を作って、そこがヨーロッパやアメリカから受けていたっていうのは、もうフィスカーとかもインドにいます。
清水:だってマヒンドラ&マヒンドラがピニンファリーナ持ってる(2015年~)。
高平:そうそう、そうなんですよね。そこはまさにおっしゃる通りです。いつの間にか凄い有名なグランメゾンにお金を出しているのはインドで、しかも、インドがお金を出しているところは大体上手くいっています。
清水:ジャガーランドローバーを見れば、金出して口出さないじゃない。で、フォードは金も出すけど口も出すって言ってたよ、ジャガーランドローバーが。
高平:それで結局、このプラットフォーム全部で使えばもっと安くなんだろう!って言っちゃって無理させて、結局こっちのブランドも一緒にダメになっちゃった、みたいな。いや~タタは勉強しているんだと思いますよ。
清水:そういう意味で、世界地図見て、どこに次のビジネスの新天地があるかって見たら、やっぱり2050年のメガシティ化になるのはナイジェリアとかキンシャサ(コンゴ民主共和国の首都)とか、やっぱりパキスタンから向こう側じゃない。インドとバングラディシュとパキスタン、旧インドグループで、あそこだけで30億人まではいかないけど、25億人くらいいそう。その向こう側は、あと20年後はもうどんどん人口が増えるから、そこに日本車が安くて壊れなくて、もう一回出す。
希少金属が生み出せない日本は軽BEV「サクラ」を見ろ
高平:中東も最近、それこそフォーミュラEもそうだし、F1そのものもそうですけど、サウジアラビアが今までの、もうほとんど鎖国状態のような政策をやめて、観光客にいっぱい来てくれと。「世界中から観光客を呼ぶ!」っていう風に、皇太子の政策を180度変えて、F1なんかも誘致していますから。やっぱりあの辺ももう無視できない。石油だけで食っていくわけにはいかないっていう風に決めた。
清水:だってほら、イランがイスラエルにロケット打ったりしてるでしょ。ホルムズ海峡を閉鎖されたら、日本の石油は95%アソコを通っているから、もうそのモデルはサステナブルじゃないよね。だから、やっぱりバッテリーにいくんだったら、希少金属をちゃんと確保して、回収、リサイクルっていうモデルをやらないと。やっぱりでかいバッテリーはもうダメで、バッテリーは小さく作る。そういう意味じゃ日産「サクラ」、日本の国民車・軽自動車でBEV。ああいうようなモデルをどんどん作って、で、South by Southwest、南南西に進路を取ればいいのかな。
高平:南南西に行くためにも、本当ですよね。で、南南西の途中には紛争や、世界的に今問題になっている地域っていうのがいっぱいあったりして。やっぱりそんな、なんかバッテリーEVだ! いやいやハイブリッドだ!とか。そりゃまぁ、飲み屋で「くちプロレス」の種にはいいかもしれませんけど。
清水:でもね昔、喜望峰(Cape of Good Hope/南アフリカ共和国西ケープ州ケープタウンにある岬)を通って、風で航行する帆船でインドネシアとかジパング目指してきたじゃない。あれって季節によって風が変わるから、インド洋を通るとエンジンは要らない、風で向こうまで行ける。で、季節が変わると日本に帰れる。
高平:こうやってほんとに年に一往復っていう。いや~そうですよ。ずっと前から我々は外のことなんかいいよ、じゃなくて、外からなんとかしても知恵を持ってきて、あるいは知恵を持ち出して生きてきた。あるいは他の国もみんなそうですね。
清水:そうだね。でも、やっぱりなかなかヨーロッパメーカーっていうのはそういう細かいことできないよね。あれだけ厳しい政治家がいて、オープンなようでオープンじゃないし。彼らはルールを作ることに一所懸命。でも日本はそこはあまり強くないから、その裏をいって、シンドバット作戦でインド洋を渡って南南西に進路をとる。
高平:そうです。そこからどうするか…また次考えますけど。でも、まずそこまで行くまでも、ちょっといろいろ話さなくちゃいけないことが多いです。
清水:多いけどね、インドネシアとかね。
高平:インドネシアだって人口は多いし。
清水:2億8000万人、2億人がイスラム。
高平:あそこは今までは日本車の牙城だったですよね。
清水:そう、キジャン イノーバ (KIJANG INNOVA)、トヨタ、ダイハツね。
高平:これがタイもインドネシアも、なんか急速に中国、韓国のメーカーが行っている。みんなそういうところを狙うのは当たり前ですけど、我々日本メーカーはその先にカウンター3塁打ぐらいのものを考えていますかね? 打順を組み替えたりしてるかな?っていうと、ちょっと不安です。
希少金属がまったく採れない日本よ、さぁどーする?
清水:うん、そうだね。だからやっぱりインド、中東ぐらいまでしか見ていないだろうね。キジャン イノーバベースの車がインドネシア・ジャカルタのカラワン工場で作られて、でもあれは中東まで。その先の西の南、そこには希少金属が大量にある。
高平:地政学的っていう言葉がすぐ出てくるような。こんなにEVって言ってる国で必要なものが何も採れない国って珍しい。
清水:エネルギーもない、石油もない、希少金属もない! それでよくEVって言うよな。
高平:そうそうそう、本当です。みんな忘れてるかもしれないけど、銅だってすごい高いんだよ。だから、田舎の方にある太陽光発電所のケーブルとか盗まれちゃう。
清水:最近、九州とかはマンホールが盗られている。パイロンが立ってるんだよね、そしたら穴が開いている。
高平:側溝の蓋、グレッチングも。そういうのを金に換えてでも商売になるぐらい値段が上がっている。
清水:鉄の2倍だもん。
高平:特に知的金属が高くて。みんな勝手なことをX (旧Twitter)とかに書いているヤツは忘れているけど、地球上にある金属の総量ってずっと昔から決まっている。
清水:だから回収、リサイクルしかない。
高平:そう、それしかないんですよ。それにしたって銅はちょっと前の4倍とかって言われているときに、これからそんなにモーター安く作れるはずないじゃん!
清水:だから第一、第二世代くらいのプリウスの最後って、モンゴルとかタジキスタンとかに売られているんだけど、そこのバッテリーは回収できていない。あれがBEVになったら、それらの国で、お腹の中から400kgのバッテリーを抜き出して日本に持ってきて回収、リサイクルなんかできっこない。
高平:おっしゃる通りです。モンゴルはプリウスの国ですから。
希少金属、バッテリーの回収、リサイクルを本気になって取り組まないと!
清水:だからこれからは「車電分離」みたいに、パソコンを人に渡す時にバッテリーだけ抜いて渡す、みたいな。
高平:もうやっぱり、いつか当たり前になるかもしれませんけど、そこまではもう何ステップも必要ですよね、みんなの意識も。
清水:うん。でももうホンダが、モバイルバッテリーパックで商用軽自動車でやり始めて、そこにスズキとヤマハが合意し、自工会(JAMA/日本自動車工業会)のなかでも。
高平:原付とか自転車とかでいろいろ使える、汎用のバッテリーね。
清水:そう、小さいやつ。もうASEANでもやっているし。ああいうものの方がカチャっと取り出せるから。それは商用軽自動車だからできる。パッセンジャー界はどうするかってなっているけどね。
高平:一応、リーフは「リサイクルリユースプログラム」というのをやっていた。モバイルバッテリーに使うとか、他の民生用途に使うっていうのは凄いやっていた。セルごと取り出して、リパックして、停電した時の踏み切りの補助電源として。
清水:それが大事。古くなったリーフが海外に行かないようにしないと。輸出規制をするとか。
高平:日本車は基本的に中古車が海外で人気ですから。
清水:高速道路みたいに、希少金属は政府が保有しちゃった方がいいと思う…ダメ?
高平:いや、その手はあります。
清水:補助金を出すより、そういうのがいいんじゃないの?
高平:でも、ソコをついて悪いビジネスをしようとしてる独裁国家とか世界にはいっぱいあるので、そこを考えないといけない。大体なぜかわからないですけど、石油とか天然ガスとかも大体そういう、言っちゃあアレですけど、独裁的な国に偏在していますよね。なぜかそういう所で採れる。
清水:だから古くなったBEV、そのバッテリーをOEM側、民間企業が持っていると民間はやっぱり売りたくなっちゃうから、政府が保有機構で希少金属を全部持つ…なんちゃってね!
高平:いや、でも将来的にはそうかな、それがひとつの手かな。
清水:だって日本は産出できないんだから、取ってきて一回お金払ったものをもう一回外に出したら、もう一回買い戻さなきゃいけない。
高平:おっしゃる通りです。
清水:それくらいのことを考えない限り、資源問題を考えると未来の画っていうのはなかなか。
高平:確かにそうです。本当そう思います。そんな簡単なことではないというところで終わっちゃいますけど、それだとちょっと寂しくないですか?
地球じゃ足りない。なら月へ行かなきゃ! それとも火星??
清水:でもね、バッテリーだけの問題じゃなくて、普通のエンジン車でも銅と鉄、アルミを使う以上、全部資源じゃない。同じ運命なんだよね。そうすると、どう考えても地球一個じゃもう足りないよね!っていう感じになる。地球儀を見て、どこに資源があるんだっけ? どこにビジネスがあるんだっけ?っていうのを見たら、あれ…余っているところがない。だからみんな月に行くんだな、2028年頃。
高平:南南西に行っても、先に住んでいる人たちがおり、もう立派な国がある。そうじゃなくて、だったらもっと面倒臭くないところは…上か!
清水:イーロン・マスクは火星。南南西どころじゃないよ、宇宙の旅になっちゃう。でも、ほんとにそういうことがなんかこうSFの世界じゃなくて、現実的に解決できない社会課題がたくさんある。
高平:経済面で一番そのムーブメントに巻き込まれているっていうか、大きく巻き込まれるのが、自動車業界。
清水:自動車ほど莫大なエネルギーを使って走っているし、膨大な資源を使っているし。 やっぱりそれを回収、リサイクルっていうモデルをちゃんと作らないと。今までは大量生産、大量販売、大量消費みたいな“売り切り”だった。それを変えて、15年間長く使えるモデルを作らないと、
高平:そういう風になってくるとなんか難しくて、「今日の記事はつまらない」とかっていう投稿が来たりするんですけど、ここはやっぱりちょっとね、そのうち楽しくなるから、みんな頑張って清水和夫についてきてくれ!
清水:いやいや、もう楽しみたいんだったら「河口まなぶのLOVECARS!」視て!
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話は南南西にとどまらず月や火星にまでいってしまった!
次回はラスト、モータースポーツを経験することの意味を問うなど、話はまだまだ尽きない…。