
東京オートサロン2025は昨年開催時に比べて旧車の割合が減った印象。一時的なブームではなくしっかり文化として定着したからなのか、それともブームが終わりつつあるのかどうかはともかく、ファンにとっては少々物足りなさを感じられた。絶対数は少ないながらも、展示された旧車たちには驚くようなものが多かった。そのうちの1台がこちら。S30フェアレディZのカスタムを得意とする東京のスターロードブースに、なぜかどノーマルのS30が展示されていたのだ。なぜノーマル?と思うもののボディの色がパネルによって違う。これは!と近づけば、やはりアルミ製のパーツになっていた。

スターロードの井上社長は以前からFRPを使うのはエアロパーツだけで、ボディパーツはスチールであることにこだわってきた。FRPボディが苦手というのがその理由だが、そろそろ軽量化に力を入れなければならないと思い始めていた。そこで相談したのが愛知県豊田市にある矢作産業。同社は自動車メーカーの試作車などを生産するだけでなく金型や治具の設計製作まで手掛けている。話し合いの当初はアルミにするつもりではなかったそうだが、話を進めるうちにアルミでボディパネルを作ることに決まったそうだ。

今回発売することが決まったのはS30フェアレディZのボンネットとフロントフェンダー、そしてドアとカウルトップ。いずれもボディ形状は純正のままを再現しつつ、アルミに素材が変わったことで補強部を新設計している。アルミは軽いものの純正と同じ補強部形状では強度が出せない。そのため新設計しなければならなかったのだ。とはいえ、見えない部分だから気にするほどのことではないだろう。

ボンネットはエンジン高があるため周囲に補強部を巡らせている。フェンダーは装着状態であるため確認できなかったが、やはり補強部は純正と別物。さらにドアは内側をどうするかで苦労された。というのもウインドーが上下するため逃げを作らなければならず、さらには上げ下げするレギュレーターハンドルが使えるようにしなければならなかったから。

そこで用いられたのがFSWという技法。リベットのようなものだが、打ち込むことで先端が広がり繋ぎ合わせるパネルと一体化するような技術なのだ。FSWを裏側に施すことで必要となる強度を稼ぎ出している。これらの結果、1台分で30kgもの軽量化が実現するという。さらに強度は純正より上がり、ボンネットとフェンダーは20%以上、ドアだと実に50%以上も強度が上がるという。側突など基準のない時代のクルマだから、ドアの強度が上がることは歓迎すべきだろう。

とはいえ簡単に作られたわけではない。試作パネルが届くたびにスターロードで装着実験が行われる。するとボディ同士のチリが合わなかったり、微妙な違和感を生み出してしまう。井上社長は美しさに一際こだわりが強いので、何度も試作を繰り返すことになった。話がまとまり完成品が出来上がるまで、1年少々の時間がかかったそうだ。

ボディパネルを純正の鉄からアルミに変更すると車検や道路運送車両法などで問題になりそうだが、この時代の旧車だと規制がほぼないため全く問題はない。なので軽量化を図りたいなら一考に値するボディパネルの登場と言っていいだろう。しかもクオリティはバッチリの安全安心な日本製。メイド・イン・ジャパンであることも井上社長のこだわりなのだ。カウルトップはまだ試作段階だそうで、ここまで含めるとさらなる軽量化につながることだろう。

上写真のようにボディパネル単体での重量・剛性・強度を算出してあり、いずれの部分でも軽量化と強度アップが実現している。単なる軽量化ではなく安全性にも寄与するのだ。性能アップのため軽量化を図りたいケースが多いだろうが、これらのパネルはレストア時に用いることも可能。そう考えると幅広いニーズがありそうだ。気になるのは価格と発売時期だが、どちらもまだ未定とのこと2025年中には確定するということだから、S30ファンには楽しみな年になりそうだ。
