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トヨタとスバルの提携の象徴として生まれた86/BRZ

SUBARUは1968年以来、日産自動車と提携関係にあったが、1999年にGMと業務提携を締結。その後、GMの経営悪化を受けて、2005年にトヨタと資本提携を結んだ。
提携では、FRのライトウェイトスポーツをトヨタとスバルが共同開発し、両社で市場展開することが取り決められていた。目指したスポーツモデルは、スバルのコア技術である水平対向エンジンを搭載した新しいプラットフォームをベースに、2011年末の市場投入を目指すという具体的な目標が掲げられたのだ。
コンセプトは、“新しい次元の運転する愉しさ”で、廉価、軽量、低重心を目指し、主に企画をトヨタ、開発と生産をスバルが担当する共同開発によって進められた。
トヨタは、この新型スポーツカーに今も名車として語り継がれている1983年デビューの86(ハチロク)という名前を付けた。86は、今も人気が高いFRレイアウトを採用した最後の「カローラ・レビン/スプリンター・トレノ」の車両形式AE86に由来する。それだけ、このクルマにはトヨタの熱い想いが込められていたのだ。
トヨタ86の名前の由来となったAE86(ハチロク)の魅力

トヨタ86のネーミングの由来となったAE86について簡単に説明しておく。1983年にモデルチェンジした5代目カローラ/スプリンターは、当時主流となりつつあったFFレイアウトに変更されたが、その派生車のスポーツバージョンの4代目レビン/トレノ(AE86型)は、FRによる走りの楽しさを重視して先代同様にFRが継続された。
4代目レビン/トレノは、レビンが固定式の角型ヘッドライトと一面となったグリルとコーナーライトを持つフロントフェイス、一方トレノはリトラクタブルヘッドライトと横長のグリルを持つ低く構えたノーズが特徴。縦置きエンジンは、130ps/最大トルク15.2kgmを発揮する新開発の1.6L直4DOHC(4A-GEU型)で、当時流行った1.6L高性能エンジン“テンロク”を代表するエンジンである。

最高速度200km/hを超えるハチロクは、レースでも活躍したが、絶対的なスピードよりも優れたレスポンスとジムカーナやラリーなどで後輪をドリフトさせるFR特有の軽快なハンドリングが、優れたライトウェイトスポーツとして多くのファンを魅了した。現在も中古車市場では高値で取引される希少な人気モデルである。

スバル伝統のボクサーエンジンを搭載したFRスポーツ誕生

トヨタ86/スバルBRZは、2012年4月(BRZは3月)に発売が始まった。一方のスバルBRZのネーミングは、ボクサー(水平対向)エンジンの“B”、リヤホイールドライブの“R”、ゼニス(究極)の“Z”の組み合わせである。

スポーツカーらしい典型的なロングノーズの流線型フォルムに、搭載エンジンはスバル自慢の2.0L DOHC水平対向エンジン(FA20型)。これに、トヨタのガソリン直噴“D-4S”システムを組み合わせ、NAながら200psを発生、トランスミッションは6速のMT/ATが用意された。

低重心で軽量コンパクトな水平対向エンジンの特徴を生かし、さらにFRレイアウトによって俊敏な走りと安定したハンドリング性能を実現した86/BRZは、当時の日本車には珍しい本格的なライトウェイトスポーツカーとして多くの走り好きから大歓迎された。その完成度の高さの割には、トヨタ86の標準グレードGが241万円(6MT)/248万円(6AT)とリーズナブルの価格だったこともあり、当初の受注台数は1ヵ月で約7000台(BRZは3500台)となり、冷え込んでいるスポーツカー市場で大健闘した。

兄弟車である86とBRZとの違いはフロントマスクとチューニング

トヨタ86とスバルBRZに大きな違いは見られないが、内外装とチューニングには若干の差異がある。
見た目の大きな違いは、フロントグリルの形状である。トヨタ86のグリルは、台形で一直線に配置した車幅灯でスポーティなイメージが特徴。一方のBRZはスバルの特徴である逆台形のグリルとヘッドランプを囲むように配置されたコの字型車幅灯で全体的にソフトなイメージ。その他にもバンパーやリアコンビランプなど細部に違いがある。
走行性能については、トヨタ86は機敏なハンドリングによってFRらしい走りを楽しむ設定。一方のBRZは、後輪のサスペンションが柔らかめに設計され、安全性を高めて安定した走行を重視して、誰でも安心して運転が楽しめるように設定されている。
その後も、トヨタ86とBRZは正常進化を続けながらコンスタントに人気をキープし、2021年の2代目(GR86/BRZ)の誕生に漕ぎつけた。スポーツカー冬の時代、単発で終わりやすい新規のスポーツカーが10年以上存続できたのは、ある意味凄いことである。

「トヨタ86/スバルBRZ」が誕生した2012年は、どんな年
2012年には「トヨタ86/スバルBRZ」の他にも、マツダのクロスオーバーSUV「CX-5」、ホンダのNシリーズ第2弾の「N-ONE」、三菱の「ミラージュ」などが登場した。
CX-5は、SKYACTIV技術をフル採用し、特に高圧縮比ガソリンSKYACTIV-Gと低圧縮比ディーゼルSKYACTIV-Dは大きな注目を集めた。N-ONEは、前年にデビューしたスーパーハイトワゴンN-BOXに続くNシリーズ第2弾でセダン系の軽自動車である。ミラージュは、12年ぶりに復活を果たした6代目であり、タイ生産で低価格と低燃費を売りにした。

自動車以外では、333mの東京タワーをはるかに凌ぐ634m(ムサシ)のスカイツリーが完成。山中伸弥氏がノーベル生理学・医学賞を受賞した。アップルiPhone5発売、前年にリリースされたLINEが爆発的に普及した。また、ガソリン133円/L、ビール大瓶196円、コーヒー一杯414円、ラーメン582円、カレー740円、アンパン152円の時代だった。
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SUBARU伝統のボクサーエンジンをベースに造り上げた廉価、軽量、低重心のFRライトウェイトスポーツ「トヨタ86/スバルBRZ」。トヨタとスバルの技術とプライドを結集して走りの楽しさを追求した、日本の歴史に残るクルマであることに間違いない。