一挙に新型装備4種を公開! 陸上自衛隊による大規模実弾射撃演習「富士総合火力演習」レポート

今回、公式には初公開となった共通戦術装輪車シリーズの偵察戦闘型(25式偵察警戒車)。30mm機関砲を備えており、攻撃力も高い(写真/筆者)
本日6月8日、令和7年度富士総合火力演習(総火演)が開催された。年に一度の大規模な実弾演習とあって国内のみならず、海外からの注目も大きいが、陸上自衛隊はこの機会に新型装備をイッキに4種も公開した!【自衛隊新戦力図鑑】
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

共通戦術装輪車シリーズ

陸上自衛隊は昨年2024年度予算から新型装甲車ファミリーの調達を開始した。それが「共通戦術装輪車」だ。「共通」の名が示すとおり、ひとつの車体から3タイプが開発された。

①歩兵戦闘型(24式装輪装甲戦闘車):一個分隊程度の隊員を輸送可能であり、また30mm機関砲を搭載して攻撃力も高い。
②機動迫撃砲型(24式機動120mm迫撃砲):車体後部に120mm迫撃砲を搭載し、①に追随して火力支援を行なう。
③偵察戦闘型(25式偵察警戒車):概観はほぼ①と同じだが、後部に偵察用機材や衛星通信アンテナを備える。

このうち今回は、③偵察戦闘型と②機動迫撃砲型が公開された。

偵察戦闘型。今日のアナウンスで初めて「25式偵察警戒車」という名称が明らかとなった(写真/筆者)
機動迫撃砲型。こちらと歩兵戦闘型は2024年度から調達が開始され、どちらも「24式」の名前が与えられている。このタイプは砲塔を持たないが、車体後部に迫撃砲を搭載しており、歩兵戦闘型に乗車した普通科(歩兵)部隊に追随して火力支援を行なう(写真/筆者)

共通戦術装輪車は、2016年より導入された16式機動戦闘車をベースに開発されている。今後、16式を中心に構成された有事即応部隊である「即応機動連隊」に配備される。これにより同連隊は、統一された車両ファミリーで構成される機動力の高い部隊となり、また整備や補給の効率も大幅に向上する。

こちらは2016年導入の16式機動戦闘車。共通戦術装輪車は、16式をベースに開発されている。同系統の車両ファミリーで部隊を構成することで、足並みを揃えた戦いを行うことができる(写真/陸上自衛隊第8師団Xより)

12式地対艦誘導弾 能力向上型

現在、陸海空のすべての自衛隊で「スタンドオフ・ミサイル」の導入を進めている。これは、敵部隊から離れた場所(スタンドオフ)、敵のミサイル等の射程外から攻撃できる長射程ミサイルのことで、「12式地対艦誘導弾 能力向上型」も、そのひとつである。

総火演の会場に姿を見せた12式地対艦誘導弾 能力向上型の発射車両。実際の運用では、このほかに射撃統制車両などと組み合わせて用いられる(写真/筆者)
ランチャーを起立させ、発射姿勢をとる12式地対艦誘導弾 能力向上型(写真/筆者)
4本のランチャーを備える。既存の12式地対艦誘導弾はランチャー6本だったが、ミサイル自体が大型化した。また、ステルス性を考慮したデザインとなり、まったく違うミサイルとなっている(写真/筆者)

島嶼防衛用高速滑空弾

最後が「島嶼防衛用高速滑空弾」だ。こちらもスタンドオフ・ミサイルのひとつであり、最初に配備される「早期配備型(ブロック1)」で射程900km、その後に搭乗する「能力向上型(ブロック2A/2B)」では3000kmに達する。射程3000kmと言えば、北海道に置いても南西諸島全体をカバーできる(台湾や中国本土すら射程におさめる)。対地攻撃用であり、上陸した敵部隊などを遠距離攻撃することが想定されている。

大きな2本の円筒形ランチャーを備えた島嶼防衛用高速滑空弾。12式地対艦誘導弾能力向上型と同じ重装輪回収車の車体にランチャーを搭載している(写真/筆者)

島嶼防衛用高速滑空弾は、単に射程が長いだけのミサイルではない。マッハ6程度で飛翔し、大気圏上層を滑空しながら目標に向かう特殊なミサイルだ。こうしたミサイルは「極超音速滑空体」と呼ばれ、近年各国で開発が進められている。極超音速と変則的な飛行のため、既存の対空ミサイルでは撃ち落とすことができないと言われており、島嶼防衛の“切り札”となるのではないだろうか。

さて、今回これだけの新型装備が公開された背景には、中国の脅威の増大があることは言うまでもないだろう。公開された装備のどれもが、島嶼防衛に直接的に関わるものだ。注目度が高い総火演の場で公開することで、中国の侵攻に対する「抑止力」とする考えなのだろう。

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著者プロフィール

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綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…