ディーノのV6は65°、296のV6は120°
296GTSが搭載するV6エンジンの排気量は2992cc。Vバンク角は120°である。モデル名は2992ccの6気筒ということで、296を名乗る。排気量は3.0ℓなのだから、306でもいいようなものだが、すでに「360」「308」といった過去のモデルが存在しているから、あえての296なのかもしれない(306はプジョーに同名のモデルがあったし)。
ちなみに、フェラーリ308GTB/GTSが搭載していたV8エンジンは、ボア×ストロークが81.0mm×71.0mmで排気量は2927ccだった。
296GTSのリヤミッドに積まれたV6エンジンを見ると、他のフェラーリのミッドシップモデルよりも低く積まれているように見える。これは、バンク角が120°でエンジン高が低いからだろう。
V型6気筒の場合、バンク角を120°にすると、向かい合うシリンダーのクランクピンを共有した状態で等間隔爆発を実現できる。720°(2回転)÷6=120°となるわけだ。つまり、V8なら90°、V10なら72°、V12なら60°がセオリーということになる。
ただ、市販車で120°V6エンジンを採用している例は少ない。エンジン高は下げられるが、幅はどうしても広くなってしまって搭載性が悪い。したがって、もっとVバンクを狭くするのが一般的だ。V8から2気筒落とす形のV6は、バンク角90°が多いし、エンジンをフロントに横置きしたい場合も考えると60°のエンジンも多い。ちなみに、V6エンジンを積んでいた往年の名車ディーノ246GT(206GT)のV6のバンク角は65°である。
そんなわけで、120°V型6気筒は理論的にもっともいいと言われてきたが、なかなか実現してこなかった。最近では、マクラーレン・アルトゥーラ(McLaren Artura)がほぼ同じ排気量(2993cc)の120°V型6気筒ツインターボエンジン(M630V6型)を採用している。
フェラーリもマクラーレンも120°V6を選択した理由は、パッケージングとハイブリッド化にある。120°にすることでエンジンが短くできるが最大のメリットだ。エンジンの後方にモーターを配置するので、V8やV12よりエンジンが短いほうがいい。となるとV6になるわけだ。
フェラーリ296GTB/GTSのV6は、120°という広いバンク角にターボを2基配置するいわゆる”ホットV”レイアウトを採る。両バンクとも内側に排気、外側に吸気ポートを置き、ターボは左右で逆回転するモノスクロールタイプを使う(3気筒ごと1基のターボチャージャーなので、排気干渉がないため)。ターボはIHI製。最高回転数は180000rpmである。
V8用よりコンプレッサー・ホイールの直径は5%、タービンホイールの直径は11%、縮小。回転質量の低減(2個の回転エレメントによる慣性は3.9ℓV8に比べて11%減)により、回転上昇にかかる時間を短縮できたという。
燃料供給は最近のトレンドに則り、高圧の燃料噴射圧(35MPa=350bar)の筒内燃料直接噴射で、インジェクターとスパークプラグをセンターに配置している。
この296GTB/GTSのエンジンは、120°V6で点火順序を左右対称にでき(点火順序は1-6-3-4-2-5)、エキゾーストマニフォールドをと等長にしたことで、エンジンサウンドもフェラーリが「ピッコロV12」と愛称をつけたほど甲高くできたという。
エンジン後方に組み合わせるモーターは、F1で使用されるモーターから派生させたので、MGU-K(モーター・ジェネレーター・ユニット、キネマティック)という名称も引き継いでいる。
MGU-Kは、ダブル・ローター、シングル・ステーター型のアキシャルフラックス・モーターだ。サイズと構造がコンパクトなため、パワートレーンの全長を短くでき、296 GTBのホイールベースを短縮することにつながった(ホイールベースは2600mm)。このモーターが高電圧バッテリーを充電するほか、ICEを始動させ、トルクとパワー(最高167ps)を上乗せし、完全に電動のeDriveモードでの走行を可能にする。MGU-Kの設計を改善したことで、発生する最大トルクは315 Nmとなった。高電圧バッテリーの容量は7.45kWh。EV走行距離は、25kmとなっている。
エンジン形式:120度V型6気筒DOHCターボ+モーター エンジン型式:ー 排気量:2992cc ボア×ストローク:88.0mm×82.0mm 圧縮比:9.4 最高出力:663ps/8000rpm 最大トルク:740Nm/6250rpm 過給機:ツインターボ 燃料供給:DI 使用燃料:プレミアム 燃料タンク容量:65ℓ