1980年代、アメリカで「ミニバン」が誕生。一方、日本では1990年代半ばから空前のミニバンブームが巻き起こった。盛り上がる日本市場をにらんで、数々の外国製ミニバンが押し寄せた。日本勢とはひと味もふた味も違う個性派のミニバンたち。そのような輸入車ミニバンを振り返ってみる。
逆輸入車もあった、海外仕様の日本ミニバン
日本のミニバンには2種類あり、ひとつはワンボックスを祖とするスペース重視型、もうひとつは初代オデッセイのようなスペースはそこそこだが運動性能に優れる乗用車タイプだ。
そして現在、日本ではアルファードやセレナなどスペース重視型のほうが圧倒的に人気が高い。一方、輸入車ミニバンを振り返ると、そのほとんどは乗用車タイプ。価格面うんぬんよりも、ユーザーの嗜好に合致できなかったという面は否めない。
ルノー グランセニック [2005年]
大ヒットしたセニックが2003年に2代目へと進化し、3列シートを備えるグランセニックを新設定。2005年に国内導入された。
フォルクスワーゲン シャラン [2011年]
欧州で1995年に登場したシャランは1997年に国内進出。2010年登場した2代目はスライドドアを採用して翌年、国内導入された。
BMW 2シリーズ・グランツアラー [2015年]
クーペやセダンはFRだが、ハッチバックモデルはFFで7人乗りがグランツアラー、5人乗りはアクティブツアラーを名乗った。
シトロエン グランドC4ピカソ [2014年]
モデルチェンジされ2014年から国内導入されたC4ピカソは5人乗りも用意され、7人乗りはグランドC4ピカソを名乗った。
変わり種モデルにも注目!
1999年登場のコンパクトミニバンがオペル・ザフィーラ。2000年にヤナセによって日本導入された。日本のミニバンブームに対応できなかったスバルは、当時同じGMグループのオペルに注目した。OEM供給を受け2001年にスバル・トラヴィックとして発売。ほぼ同じクルマが国産メーカーとインポーターで販売された。
オペル ザフィーラ [1999年]
スバル トラヴィック [2001年]
兄弟車となったオペル・ザフィーラとスバル・トラヴィック。ただしトラヴィックはタイ工場製。またエンジンはザフィーラが1.8Lだったのに対し、トラヴィックは2.2Lだった。
1989年からウィリアムズと組んでF1界を席巻したルノー。ヨーロッパ初のミニバン、ルノー・エスパス誕生10周年で製作されたクルマがこちら。3列目シートはなく4座独立のバケットシートを備え、後席下には本物のF1用、800psのV10エンジンを搭載していた。実際に走行も可能でデモランなどが行われた。
ルノー エスパスF1 [1994年]
形はミニバンのcだが、中身は800psのV10エンジンをミッドシップに搭載するバケモノ。開発はルノーではなく航空宇宙産業が本業のマトラの手によって行われた。
海外でも人気を得た、国産ミニバン
トヨタは初代エスティマで、ホンダは初代オデッセイで北米ミニバン市場に進出したが、ともに失敗に終わる。理由はいくつかあるが、共通しているのは「小さすぎた」こと。日本で十分な大きさでも、北米では小さすぎて狭い、と受けとられてしまった。
ホンダは北米版オデッセイに日本仕様と異なる大型ボディを与えた。トヨタもエスティマを諦めもっと大型の「シエナ」を1997年に投入。この2台は現在も代を重ね北米ミニバン市場に溶け込んでいる。
日産 クエスト [1995年]
フォードと共同開発されたミニバンで、日産は左ハンドルのまま、1995年に日本に逆輸入した。現在は消滅している。
ホンダ ラグレイト [1999年]
全長5.1m超えの巨大ミニバンで、その実体は北米における2代目オデッセイだ。右ハンドルとし1999年、日本に逆輸入。
ホンダ オデッセイ [2018年]
北米版のオデッセイは現行で5代目となる。3.5LV6エンジンを搭載し、全長は5.2m弱と日本版オデッセイよりはるかに大きい。
トヨタ シエナ [2020年]
北米ではエスティマの後継モデルとして登場し、現行モデルは4代目に当たる。2.5L+モーターのハイブリッドを搭載する。
フランス伝統のフルゴネット
「フルゴネット」とはフランスにおけるライトバンの意。クルマの前半は乗用車、後半は荷室となる箱形状としたもので、古くは名車シトロエン2CVにも存在したフランス伝統の商用車のこと。日本でもかつてアルト・ハッスルやミニカ・トッポなどがあったが、あれもフルゴネットの傍流といえる。ルノー・カングーに代表される現代のフレンチ・フルゴネットが今、密かな人気を呼んでいる。なにしろオシャレだし、スライドドアと広大な荷室を備え実用性も高い。フランス車らしいゆったりした乗り心地も魅力。フルゴネットに注目だ。
ルノー カングー [2023年]
かつてのルノー・エクスプレスで、2023年に新型が国内導入されたばかりのモデル。2列シート仕様だが両側にスライドドアを備え、バックドアは観音開きを採用。
シトロエン ベルランゴ [2019年]
リフターの兄弟車。5人乗りと、7人乗りのロングを揃え、ロングでも全長4.8mを切るコンパクトさをキープ。両側にスライドドアを備え、1.5Lディーゼルターボを搭載。
プジョー リフター [2019年]
2列シートの5人乗りに加え、3列シートを備えるロングもラインアップする。7人乗り仕様は、輸入車としては極めて貴重なコンパクトミニバンとして存在感が高い。
結論的考察、海外はミニバンがお好きではない!?
元祖欧州ミニバンのルノー・エスパスは、2023年に新型が登場している。だがその姿はミニバンというより明らかにSUVとなっている。しかも5人乗りまで用意されている。VWシャランも消滅してしまったように、とくに欧州ではミニバン人気は下降しているのが実情といっていい。だが、代わりに人気がますます高まっているのがSUVだ。理由は高い走行性能などで、ミニバンはやはり走りに遜色が出がち。SUVには3列シートを備えるモデルも多く、輸入車でミニバンのような使い方をしたいなら、3列シートSUVもその選択肢に加えたい。
ジープ グランドチェロキーL [2021年]
ジープブランド定番のSUV。5人乗りに、全長5.2mのLは6〜7人乗りの3列シート仕様となる。
メルセデス・ベンツ EQS SUV [2023年]
フラッグシップSUVにして完全電動のBEV。7人乗りで、最大航続距離はWLTCモードで593kmを達成。
ボルボ XC90 [2016年]
ボルボのフラッグシップSUV。3列シートを備え、ハイブリッドとプラグインハイブリッドをラインアップ。
BMW X7 [2019年]
全長5.2m弱と巨大なBMWのフラッグシップSUV。6人乗りと7人乗りが選べる。高性能な「M」も用意。
▷ミニバンヒストリー まとめはこちら
STYLE WAGON(スタイルワゴン)2023年8月号より
[スタイルワゴン・ドレスアップナビ編集部]
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