レクサスLFAのV10エンジンはいかにして生み出されたか

エンジン
4.8ℓ・V型10気筒の1LR-GUE型を右バンク側から見る。エキゾーストマニフォールドは車両側の制約を満たしつつ、等長にした。厳密なまでに等長にすると音が澄んで感動が薄くなるので、「等調」だと開発エンジニアは表現する。
世界に誇るスポーツカーの心臓部には、レーシングエンジンの思想で設計したエンジンでなければならない。 鋼を叩いて日本刀を鍛えるように、量産エンジンに慣れた頭に喝を入れてエンジンを鍛えていった。 最高出力や発進加速の数値は結果論。車両と一体となって大脳を刺激するフィーリングを追い求めた10年だった。

TEXT:世良耕太(SERA Kota)
PHOTO:瀬谷正弘(SEYA Masahiro)/TOYOTA

*記事内容は2010年2月取材当時のもの
アルミ鍛造軽量ピストンはヤマハ製。シリンダーボアの溶射やブロックの鋳物製造は、トヨタ本社内にあるF1エンジンと同じ設備で行なう。オイル冷却ジェットは当初1本だったが、熱的に厳しかったため、3本に増やした。吸気バルブ、排気バルブともにチタン合金鍛造の中実。バルブスプリングは高強度材。回転数はレーシングエンジン並みだが、寿命は量産レベルを確保しなければならない。運動部品の慣性マスを下げることでスプリングへの負担軽減を図った。

 ヤマハ発動機で火入れのセレモニーを行なったのは、2003年1月14日だった。「設計することに比べたら、開発は100倍とは言わないが、手間暇がかかる」と岡本氏が言えば、丸山氏は「もちろん、設計のときにシミュレーションをやってできる限りの予測はします。100%わかっていて設計できれば楽。でも、チャレンジしていますので、そうはなりません」と引き継いだ。

 9000rpmのレッドゾーンで、レクサスがスタンダードとする信頼耐久性をパスすることがひとつの大きなハードルであり、最新の排ガス規制をクリアすることがもうひとつの大きなハードルである。

「性能とマル排(排ガス規制)を両立させる検討は、東富士研究所でモータースポーツ部とパワートレーン制御開発部とで練り上げました。パワートレーン制御開発部はマル排システムをやる部署で、東富士研究所に設けたプロジェクトルームを拠点に、2003年頃から始めました」(岡本氏)

 その年の初夏には車両にエンジンを搭載し、実走テストを開始。2004年5月にはニュルブルクリンクで初試走を行なった。エンジンがトラブルを起こしては走行テストにならない。「トラブル対応」の野渡氏が大車輪の活躍を始めたのは、この頃だった。

「40年後50年後に評価されるエンジンであり、クルマでありたい」
 市原氏はLFAの開発に携わった10年をこう締めくくる。一方、岡本氏は、「排気量あたりで世界トップを狙いたいという思いもありましたが、我々はエンジンで競っているというより、クルマに乗った状態で競っている」と思いを語る。「クルマの素性を引き出せる最高のパワーユニットにしたい。それが、結果的にこのエンジンの個性になっていると思います」と、丸山氏は付け加えた。
 レーシングエンジンの世界に踏み込んだ量産V10は、最高の切れ味を実現するため、その後もモータースポーツ部の台上で試験が繰り返された。

■ 1LR-GUE
エンジンタイプ:72°バンクV型10気筒
エンジン配置:フロント縦置き
排気量:4805cc
バルブ数/気筒:4バルブDOHC
動弁機構:ロッカーアーム
潤滑方式:ドライサンプ
ボア×ストローク:88×79mm
シリンダーブロック材質:アルミニウム合金
シリンダーヘッド素材:アルミニウム合金
圧縮比:12.0
最大出力:412kW/8700rpm
最大トルク:480Nm/6800rpm
燃料供給装置:EFI
燃料タンク容量:73ℓ
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…