ヤマハ発動機で火入れのセレモニーを行なったのは、2003年1月14日だった。「設計することに比べたら、開発は100倍とは言わないが、手間暇がかかる」と岡本氏が言えば、丸山氏は「もちろん、設計のときにシミュレーションをやってできる限りの予測はします。100%わかっていて設計できれば楽。でも、チャレンジしていますので、そうはなりません」と引き継いだ。
9000rpmのレッドゾーンで、レクサスがスタンダードとする信頼耐久性をパスすることがひとつの大きなハードルであり、最新の排ガス規制をクリアすることがもうひとつの大きなハードルである。
「性能とマル排(排ガス規制)を両立させる検討は、東富士研究所でモータースポーツ部とパワートレーン制御開発部とで練り上げました。パワートレーン制御開発部はマル排システムをやる部署で、東富士研究所に設けたプロジェクトルームを拠点に、2003年頃から始めました」(岡本氏)
その年の初夏には車両にエンジンを搭載し、実走テストを開始。2004年5月にはニュルブルクリンクで初試走を行なった。エンジンがトラブルを起こしては走行テストにならない。「トラブル対応」の野渡氏が大車輪の活躍を始めたのは、この頃だった。
「40年後50年後に評価されるエンジンであり、クルマでありたい」
市原氏はLFAの開発に携わった10年をこう締めくくる。一方、岡本氏は、「排気量あたりで世界トップを狙いたいという思いもありましたが、我々はエンジンで競っているというより、クルマに乗った状態で競っている」と思いを語る。「クルマの素性を引き出せる最高のパワーユニットにしたい。それが、結果的にこのエンジンの個性になっていると思います」と、丸山氏は付け加えた。
レーシングエンジンの世界に踏み込んだ量産V10は、最高の切れ味を実現するため、その後もモータースポーツ部の台上で試験が繰り返された。
■ 1LR-GUE
エンジンタイプ:72°バンクV型10気筒
エンジン配置:フロント縦置き
排気量:4805cc
バルブ数/気筒:4バルブDOHC
動弁機構:ロッカーアーム
潤滑方式:ドライサンプ
ボア×ストローク:88×79mm
シリンダーブロック材質:アルミニウム合金
シリンダーヘッド素材:アルミニウム合金
圧縮比:12.0
最大出力:412kW/8700rpm
最大トルク:480Nm/6800rpm
燃料供給装置:EFI
燃料タンク容量:73ℓ
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン