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開発の背景
社会の脱炭素化に向けた再生可能エネルギーの普及には、電力系統安定化のために周波数制御や需給バランスの維持が課題となる。一般送配電事業者が電力受給の調整を行うために2021年4月に創設された需給調整市場では、再生可能エネルギーの出力変動等に対応する取引メニューとして、2021年度から「三次調整力②(応動時間45分以内)」、2022年度から「三次調整力①(応動時間15分以内)」の取引が開始されている。加えて、2024年度からは応動時間10秒以内となる「一次調整力」の取引も始まる予定となっており、調整力としての蓄電システムにも高い技術要件が求められる。
今回、明電舎が開発したリチウムイオン電池用PCSは、事業者が所有する外部システムとの連動の下で、需給調整市場のシステムに適応するための機能が実装されている。また、BCP対策として使用できる停電時の自立運転機能や、自家消費型太陽光発電システムとの併設導入などにより、需要家への蓄電システムの普及を通じた社会の脱炭素化に貢献する。
新開発リチウムイオン電池用PCSの特長
■外部指令に基づく充放電に対応
需給調整市場での調整力として使用する場合に、外部の制御システムからの充放電指令に基づいて電池を充放電制御する。また、一次調整力の要件となるPCS出力端の変動に対して充放電をする自端制御にも対応する予定。
■PCS・制御部・受電部・連系変圧器(6.6kV)をワンパッケージで構成
PCS定格容量は700kVA~2100kVA。6.6kV受変電部も一体となっており、蓄電所等の高圧配電線系統への接続が容易である。
■需要家で活躍する機能の充実
・BCP対策機能:停電時の自立運転機能
系統事故等による停電が発生しても、蓄電システムに蓄えた電気をBCP負荷(保安用設備等)へ供給し、需要家の事業継続性の向上に寄与する。
・スケジュール運転機能:蓄電池用EMSによる負荷平準化,電池SOC(充電率)管理
蓄電池用EMSで充放電パターンを設定し、電池のSOC管理を行いながら負荷平準運転等の常時運用を自動で行う。
・太陽光発電の余剰電力充電機能
自家消費型太陽光発電を設置する需要家において、土日・祝日等に電力需要が減少し系統への逆潮流が発生する際には余剰電力を蓄電池に充電し、平日のピークカットやBCP時の電力として使用することができる。
■VSG機能
現在、VSG機能※を搭載した新機種も開発中だとされている。VSG機能は再生可能エネルギーの主力電源化に寄与する技術である。離島やマイクログリッド、および将来の電力系統において再生可能エネルギー電源の比率が高まると火力発電等の同期発電機が減るため、電力系統の安定性が低下し、供給支障に至る恐れがある。これに対して、蓄電PCSに疑似慣性力を持たせて系統の慣性を補うことにより、安定性・柔軟性の高い電源系統の実現が可能となる本装置への同機能の実装は、2025年度に予定されている。
※VSG機能:Virtual Synchronous Generator(仮想同期発電機)の略。同期発電機の特性である慣性力を疑似的にPCSに実装させる技術。東京電力パワーグリッドと共同で開発。