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「やまなしモデルP2Gシステム」について
やまなしモデルP2G(Power to Gas)システムは、山梨県が中心となって開発を進めてきた次世代型のエネルギーシステムである。太陽光発電などの再生可能エネルギーを活用して水を電気分解することで、環境負荷の少ないグリーン水素※2を製造する。P2Gシステムは安定的な水素供給を実現し、今後さまざまな産業分野において脱炭素化を加速させる技術として、国内外で大きな期待が寄せられている。
住友ゴムにおける水素活用の経緯と今後の展望
住友ゴムは、2021年にサステナビリティ長期方針「はずむ未来チャレンジ2050」を策定し、持続可能な社会の実現に向けた取り組みが推進されている。7つのマテリアリティのうち「気候変動」では、「CO2排出量の削減を推進する企業」をありたい姿に掲げ、2050年のカーボンニュートラル達成が目指されている。この目標に向けた取り組みの一環として、次世代エネルギーとされる水素の活用に挑戦することを決定。NEDOおよび福島県から支援を受け、2021年8月から2024年3月にかけて、白河工場において水素を活用したタイヤ製造の実証実験が行なわれた。

実証実験の概要
実証実験では、再生可能エネルギー先進県である福島県内の水素製造拠点から供給される水素を使用し、水素ボイラーで発生させた高温・高圧の蒸気を、タイヤ製造の最終段階である加硫(かりゅう)工程で活用。この工程は、加熱と加圧によりゴムに弾性を与え、タイヤとしての形状と性能を完成させる重要なプロセスである。2023年1月には、水素エネルギーと太陽光発電を組み合わせることで、製造時(スコープ1、2)におけるカーボンニュートラル※3を日本で初めて達成した量産タイヤ※4の生産が開始されている。
これらの成果を含む実証結果を踏まえ、2024年5月、山梨県とグリーン水素の活用による脱炭素化に係る基本合意書を締結し、白河工場へのP2Gシステム導入が決定された。水素を自社工場内でつくることで、輸送(スコープ3)も含むさらなるCO₂削減効果が期待されている。
白河工場ではP2Gシステムを24時間稼働させることで年間最大約100トンの水素の製造が可能となり、輸送を含むサプライチェーン全体(スコープ1、2、3※1)で年間約1000トンのCO₂排出量削減につながる見込みとされている。
そして、2025年4月よりP2Gシステムの稼働を開始。P2Gシステムで製造されたグリーン水素は、従来の配達水素、系統電力、場内太陽光発電、既存燃料とともに白河工場における5つのエネルギー源の一つとして活用される。複数の電力源の組み合わせを最適化することで安定した操業を維持しながら、さらなる脱炭素化が推進される。
住友ゴムは、白河工場を「脱炭素グランドマスター工場」と位置づけている。やまなしモデルP2Gシステムを用いてグリーン水素を活用したタイヤ製造のノウハウを蓄積しながら、将来的には国内外の他工場への展開も視野に入れている。また、2025年3月には中部圏水素・アンモニア社会実装推進会議と、水素およびアンモニア等のサプライチェーン構築に向けた相互協力に関する基本合意書が締結された。本合意書のもと、中部圏での水素活用の検討も推進される。

※1 スコープ1(Scope 1):自社が直接排出する温室効果ガス。
スコープ2(Scope 2):他社から供給された電気や熱の使用により間接排出する温室効果ガス。
スコープ3(Scope 3):輸送や製品販売後の使用・廃棄時など、自社の活動に関連するが直接管理していない外部が排出する温室効果ガス
※2 グリーン水素:再生可能エネルギー由来の電力を用いてCO2排出ゼロで生成された水素
※3 二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすること
※4 FALKEN「AZENIS FK520」(FALKEN「AZENIS FK520L」は除く)