エンジンはもとより、フレームやチャンバーも専用に作り込まれた唯一無二の存在だからこそ、初めて見た人はもちろん、過去に見たことがある人でさえ改めて魅了されてしまう。モーターサイクルショーでの観客の反応は、この作品があたかも著名な絵画や芸術作品のような存在であることに気付かされる出来事だった。

ちなみに撮影場所はKN YOKOHAMA。これらの多気筒マシンを作った佐々木氏のオフィスだが、解体されようとしていた奥様のご実家から、扉などの古風な日本建築による部材を譲り受けて作られた、古民家風の空間を使用させていただいた。

135㏄のKN企画製シリンダーを3基並列に並べたBIG Bの心臓部。ワンオフで作られたアルミ製のガソリンタンクはSS1/32mile(50.29m) を走り切るためだけの容量に設定されている。

KN企画とKOSO(台湾)による多気筒スクーターは複数台存在する

KN企画による多気筒エンジンスクーターは複数台存在するが、この「BIG B」は多気筒エンジンの初号機ではない。KN企画とKOSOによる多気筒エンジンの歴史は2012年に遡る。多気筒エンジンスクーターの初号機はシグナスX。エンジンは2気筒で、このBIG Bとは違いDOHC(4スト)の456ccだった。次に製作されたのは2014年に台湾のSS1/32mileでシェイクダウンされた2スト2気筒のエアロックス。つまり多気筒エンジンスクーターの3台目として製作されたのが、このBIG Bになるわけだ。

いずれの多気筒スクーターも同様だが、KN企画の佐々木氏が、同社と関係の深い台湾のKOSO社と協力して作られている。構想や基本構成などを佐々木氏が構成し、KOSOでCAD(コンピューター上で製図を行うツール)を使用した図面が起こされる。すると佐々木氏が細部を修正して、再び図面が修正されるという作業を繰り返すのだ。

3気筒を実現するために ワンオフで製作されたク ランクケース。左右は BW’S100用を使用し、 中間部には4分割された このケースが用いられる。ゼロベースで図面を起こして制作されている。

台湾で製造されたエンジンをベースに日本でフレームを制作

完成した図面をもとにKOSO社でワンオフ制作されたエンジン本体は分解して日本に輸送された。すぐに佐々木氏は知人の森さん(アプリオ3人衆 はるちゃん)と長崎さん(アプリオ3人衆 なぐちゃん)の協力の元、フレームを製作。さらにウインドジャマーズによってワンオフのチャンバーが作られたのだが、チャンバー製作時にある問題点が浮上したという。1気筒あたり135ccという排気量に見合った極太の膨張室がフレームに当たってしまうことが判明したのだ。そこで急遽フレームを切断して膨張室が収まるスペースを確保。紆余曲折を経て完成したBIG Bは台湾のSS1/32mile(※)でシェイクダウンすべく、再び分解されて台湾に移送された。

※月刊モトチャンプが開催していたミニバイクのドラッグレース。32/1マイルは50.29mで、このタイムをタグホイヤーの光電管システムで計測。コースの勾配やスタート方法などには厳格な規則が設けられ、世界各国でイコールコンディションによる戦いが繰り広げられていた。
シリンダーハイトを4㎜延長する設計で、ロング ストロ ーク にも 対 応 す るKN 企 画 のBW’S100用アルミメッキシリンダーボアアップ キット。ピストンφ57㎜とし、ノーマルが6.5㎰のところ14㎰にパワーアップする逸品だ。

シェイクダウンは台湾 いきなり3秒091という好タイム

2015年11月1日、KOSO社で組み立てられ、台湾中心部の彰化渓湖K1賽車場に持ち込まれたBIG Bは、一目見たいという観客によって、まさに黒山の人だかりとなっていた。そんな会場全体の注目を集めたBIG Bとライディングを担当する大木選手は、佐々木氏だけでなく、チャンバーを制作したウインドジャマーズの樋口工場長も見守る中、1本目から見事3秒091をマーク。大勢の関係者を驚かせる、期待通りのシェイクダウンを終えた。

ちなみにこのBIG Bの当時の注目度を語る尺度のひとつとして、BIG Bの走行動画は大会終了後1ヶ月で10万オーバー。本当に走行できるのか? 壊れないのか? さほど良いタイムは出ないのではないか? などなど、多くの懸念事項も想像できただけに、ぶっつけ本番での3秒フラットという記録は、日本だけでなく、海外のファンも含めて、多くの人々を驚かせることになった。

排気ポートにはレーシングマシン同様のセンターリブが盛り込まれ、ポートの数は9個となるアルミ製メッキシリンダー。

タイムはまだ削れる、しかしエクステリアへの拘りは捨てたくなかった

ただし、この3秒フラットという記録も、KN企画とKOSOの目指すタイムではなかった。この時装着されていたタイヤはミッキートンプソン製のドラッグスリック。空気圧は0.4kg/cmとし、スタート時は接地面積を多く稼ぎ、スピードが乗ってくると遠心力でタイヤが大きくなる想定だったが、それでも圧倒的にグリップ力が不足しており、2気筒のエアロックスで装備していたダンロップのレインタイヤ、TT72GPを使用した方がタイムが出るのは分かりきっていた。それでも、速さだけでなくエクステリアの仕上がりにも拘る佐々木氏はあえて3気筒のワイドエンジンに似合う太いドラスリに拘った。

リヤホイールは四輪用のSSR MkⅡ(8J-13)を加工し、グランドアクシス用のハブを使用して装着。高い剛性を感じさせるスイング アームはワンオフで製作された専用品となる。

ドラッグスリックに拘り抜き、SS1/32mileで2秒870を記録!

今回の撮影時に装着されていたリヤタイヤはHoosier製のドラッグスリック。試行錯誤した結果、最終的にはHoosier製に行き着いたという。日本に持ち帰られてからはさらに記録を更新し、2016年12月に開催されたSS1/32mileのマスターズ戦(上位車両だけが出場できるSS1/32mileのシーズン最後に開催される大会)では2秒870という大記録をマークするに至った。日本と台湾が協力して作り上げたモンスターは、今でも人々の目を惹きつける、圧倒的なオーラと魅力を携えている。

台湾のシェイクダウン時はミッキートンプソン製のドラッグスリックだったが、その後採用されたのはHoosier製のドラッグスリック。サイズは7.0/20.5-13。

市販パーツをベースにチューニングされたパワートレイン

キャブレターやパワーフィルター、シリンダーやヘッドもKN 企画の市販品を使用。プラグキャップはホンダのレーシングマシン、RS125用を流用している。

エクステリアにも拘りあり

エクステリアの細部にまで気を配る佐々木氏だけに、BW’S50のチャーミングなフェイスを活かした雰囲気作りが施されている。

フローティングローターに鍛造キャリパーをセット

フロントホイール、φ220mmブレーキディスク、2ポット鍛造キャリパー、フロントフォークはKN企画で販売されてる商品を使用。

KN企画でオーダーメイドできる鍛造アルミ製の削り出しホイール

アルミ鍛造の削り出しで作られるホイールはKN 企画で市販されている2.5J-12インチサイズ。タイヤはKENDA 製でサイズは 80/70-12。

コックピットはマウンテンバイクパーツを多用

ハンドルや左右のブレーキレバー、ハンドルポストはMTB用を流用。キルスイッチはホンダ、NSF100用を流用使用している。
※この記事は月刊モトチャンプ2025年8月号のものです。