「Boxer Rally spec.Z」の「Z」は「ZENKAI」の「Z」!

ベールに包まれたBRZ四駆ターボ「Boxer Rally spec.Z」。

STIは2026年1月の『東京オートサロン2026』にて、全日本ラリー選手権に2026年シーズン途中からニューマシンの投入を発表。2026年3月21日(土)〜22日(日)に開催されたスーパー耐久シリーズ第1戦もてぎラウンドで、そのマシンがBRZベースであるティザーを公開していた。

これは新型スバル「BRZ」への布石なのか…ターボチャージャー」+AWDのBRZラリーカー登場を予告 | Motor Fan|自動車情報のモーターファン

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BRZ四駆ターボのティザー

そして2026年4月24日(金)、スバル本社ショールーム(東京都渋谷区)にて実際にマシンがお披露目された。既報ではあるが、BRZを四駆ターボ化したこのマシンは、「Boxer Rear drive Z」では無くなったことから、「Boxer Rally spec.Z」と命名された。

アンベールのシーンを動画で見る。

あくまで「BRZ」として認知してもらうためのやや無理矢理な感はあり、特に「Z」部分では開発陣も悩んだそうだ。「spec.」と付けたのは、「spec.C」などスバルのコンペティションマシンのイメージを引き継いだもの。そして「Z」は「最終形」「究極」を意味するのは元と同じだ。

BRZ四駆ターボ「Boxer Rally spec.Z」

しかし、実は裏の意味もあり、スバルのWRCワークスドライバーとして2003年にインプレッサWRCでチャンピオンに輝いたペター・ソルベルグ選手がよく日本語で「ZENKAI」と言っていたことにも由来しているという。これはあくまで開発陣の中での俗称という扱いではあるが。

2003年のWRCにおいてペター・ソルベルグ/フィル・ミルズ組はワークスのスバル・インプレッサWRCを駆り、王座に輝いた。

では、これからこのBRZ=Boxer Rally spec.Zの導入経緯や車両詳細を紐解いていきたい。

“マスの集中化”のためにBRZをベース車に選択

『JAFモータースポーツジャパン』に展示されたアライモータースポーツのWRX S4、全日本ラリー選手権参戦車。海外仕様の左ハンドルの6速MT車がベースモデル。JP4クラスで許される改造を施している。

全日本ラリーにラリー2規定が導入された当初、スバルはWRX S4をJP4クラスのレギュレーションに沿って改造すればトヨタGRヤリスとシュコダ・ファビアRSに十分対抗可能だと考えていた。しかし、実際にはWRX S4はそのボディサイズと重量で厳しい戦いを強いられることになった。

WRX S4とGRヤリスのサイズ比較イメージ。

そこで次期マシンの検討が進められたのだが、そもそも車種の少ないスバルだけにライバルのサイズや重量に近づけられる車両の候補はハッチバックボディのインプレッサ系かクーペボディのBRZしかないのが実情。実際、スーパー耐久ではハッチバックボディのハイパフォーマンスXバージョンIIが2026年から実戦投入されている。

スーパー耐久シリーズのST-Qクラスに2026年シーズンから投入されている「SUBARU HIGH PERFORMANCE X VersionⅡ」。インプレッサ系のハッチバックボディに、カーボンニュートラル燃料を使用するFA24ターボ+6速MTを搭載。

確かにGRヤリスとシュコダ・ファビアRSのどちらもハッチバックボディで、これがラリーのトレンドと言えるだろう。しかし、開発責任者の山田大輔氏はインプレッサベースでは車高も高くパワートレインも下げづらいことから、開発テーマである”マスの集中化”が不十分であると判断。最終的にBRZがベース車両として選択された。

奴田原文雄選手のトヨタGRヤリス・ラリー2。2025年シーズンはシュコダ・ファビアRSをドライブした新井大輝選手も2026年シーズンからヤリスにスイッチしており、有力エントラント御用達となっている。
福永 修選手のシュコダ・ファビアRSラリー2。WRCで実績を積んだラリー2マシンのスタンダード。

WRX S4も高速コースでは十分に戦えていたことから、日本のラリーの特徴であるタイトでツイスティなコースで勝負できる運動性が重要であり、そのためには軽量化と”マスの集中化”が必須であると考えたのだ。

WRX S4/GRヤリス/BRZのサイズ比較イメージ。3ボックスのクーペだが、WRX S4より小さいのはもちろん、GRヤリスとのサイズ差は小さくなり、パワートレインのみならずボディの重心も低い。

そして開発されたBRZ四駆ターボはWRX S4より小さく軽くなり、前後重量バランスも大幅に是正された。既存のラリー2車両と比較しても、重量はそもそも排気量による最低重量のレギュレーションにより軽くはならないが、前軸重量は軽く前後重量バランスは優れている。

比較各車の車重および重量配分のイメージ。ラリー2車両が四角で記されているのは、複数車種を含んでいるため。

さらに、クーペボディのBRZはWRX S4はもとよりハッチバックのラリー2車両より重心も低く、それに伴うヨー慣性モーメントも低く抑えられている。ヨー慣性モーメントは、前後オーバーハングが長いセダンボディにエンジンをフロントオーバーハングに置くWRX S4では特に厳しい要素だった。

比較各車の重心高およびよー慣性モーメントのイメージ。

重量、重量配分、重心高、それに伴いヨー慣性モーメントがWRX S4より大きく改善され、ラリー2車両に近い、或いは上まわるレイアウトを実現したことにより、運動性能が大幅に向上することは間違いない。

ターマック仕様とはいえ、ラリーカーだけに余裕のある車高設定だが、パワートレインレイアウトなどWRX S4よりも低重心になっている。

シンメトリカルではないFRベースのAWD化

このBRZがAWD化されているのは既報の通り。ではそのAWDシステムはどのような方式なのか?

簡単に思いつくのはフロントにドライブシャフトを追加すること。しかし、これは元のBRZがアイシン製のFR用トランスミッションを搭載していることと、そもそもエンジンとトランスミッションの搭載位置とフロントタイヤ位置が合わないという問題がある。

では、WRX系のパワートレインを丸々移植すればいいのではないか?という見方もあるが、そうなるとエンジンやトランスミッションの位置が前方に移ることになるので、このBRZで目指した”マスの集中化”が達成できず、WRXよりは軽くて小さい以外のメリットが無くなってしまう。

BRZ四駆ターボのエンジンルーム。エンジン本体はバルクヘッドギリギリまで後退して搭載。エンジン下にフロントデフを配置するが、それでもエンジン本体はかなり低い位置に置かれている。

そこで採用されたのがFRベースのAWDレイアウトだ。トランスファーからのアウトプットをトランスミッションの横に配置し、そこからフロントに向けてプロペラシャフトを伸ばすというもの。ただし、フロントへのプロペラシャフトはなるべく車体中心線に近づけ、さらにフロントデフは若干オフセットはしつつもエンジンの前下方に配置した。

パワートレインのレイアウト図。フロントのプロペラシャフトはこの図では見えない。左タイヤからエンジンに繋がる青いラインがドライブシャフトだ。フロントデフはエンジン下にあるため、やはりこの図では見えない。

つまり、エンジン・トランスミッション・各デフ・プロペラシャフトがセンターに並び、等長のドライブシャフトが左右に伸びる、スバルが謳うところの「シンメトリカルAWD」にはなっていないということだ。なお、シンメトリカルではないものの、ドライブシャフトはデフから垂直に伸びている。

スバルのシンメトリカルAWD。前からエンジン、フロントデフ、トランスミッション、センターデフ、プロペラシャフト、リヤデフが直線に並ぶ。ドライブシャフトは前後のデフからタイヤに向けて真っ直ぐ伸びる。

これは余談にはなるが、スバルのWRC参戦末期、ライバルがエンジンを後傾搭載することで重量バランスを最適化したことに対して、スバルはシンメトリカルレイアウトに起因するフロントオーバーハングの長さと重量が逆に仇になっていた。苦肉の策としてパワートレインを丸々後方にズラしたものの、フロントドライブシャフトが斜め前方に”バンザイ”した形になり、駆動系やタイヤに負担が掛かってトラブルに繋がったことがあった。FR系AWDレイアウトを採用したのも、この問題があったからだろうか?

山田氏はこのレイアウトについて「性能ありきの選択」であるとした。スバルのイメージと離れることについて議論はあったものの、やはりコンペティションマシンである以上、イメージよりも性能と勝利こそが重要とあるという結論に至ったそうだ。

MS技術企画グループの山田大輔氏。

なお、AWDは基本的には前後50:50固定の直結式で、サイドブレーキ使用時はリヤへの駆動がカットされる仕組み。テストで同乗した山田氏は「今まで乗ったことのない独特の挙動に驚いた」と述べた。

サイドブレーキレバーとシフトレバー。トランスミッションはSADEV製を装着。

FA24エンジンはWRX用ではなくBRZのエンジンをターボ化

搭載されるエンジンはFA24型2.4L水平対向4気筒DOHC。同型式のターボエンジンはWRX S4やレヴォーグに搭載される現時点でスバルで最もハイパフォーマンスなエンジンである。カーボンニュートラル仕様とはいえスーパー耐久に投入されたハイパフォーマンスXにも搭載される。

レヴォーグのFA24型2.4L水平対向4気筒DOHCインタークーラーターボエンジン。

では、BRZにもそのFA24ターボが搭載されているのかと言えば然にあらず。実はBRZ用の自然吸気(NA)エンジン(FA24D-4S)をターボ化して搭載しているという。ターボ化に合わせて、ガスケットを変更して圧縮比を下げ、ブースト圧も下げているという。

BRZ量産車のFA24 D-4Sエンジン。
BRZ四駆ターボのエンジンルーム。前方に伸びるパイプはインタークーラーのアウトレットとインレット。

これまで全日本ラリーに参戦してきたWRX S4はそのサイズと重量のハンデを補うために、かなりパワーアップを目指してチューニングされてきた。そのため、熟成不足と無理も祟って2025年シーズンはエンジントラブルが多発していた。そのことは踏まえて開発は進められてきたと思われるが、このNAのFA24をターボ化したエンジンも実戦ではその性能や耐久性は未知数だ。

インタークーラー(上)とラジエーター(下)はフロントに上下に重ねてマウント。オイルクーラーをインタークーラー後方に斜め置きで設置している。インタークーラーとラジエーターの斜め、或いは水平置きが行なわれなかったのはWRCでトラブルが頻発したトラウマだとかなんとか。
フロントの開口部奥にラジエーターとインタークーラーが収まる。
FA24ターボのエンジンサウンドを聴く。ショールームでの始動だけに、アイドリングのみ。

新井選手と安藤選手の見解は?

ドライバーの新井敏弘選手(右)とコドライバーの安藤裕一選手。

実戦エントラントであるアライモータースポーツの代表であり、ドライバーを務める新井敏弘選手はこのBRZについて非常にポジティブな印象を受けているという。やはり、WRX S4に比べて小さく軽くなったばかりか、マスの集中化による運動性の向上は顕著。タイムではWRX S4より1.5秒/1kmほど速いという。

新井選手はBRZ四駆ターボはラリー2車両と戦える手応えを感じている。一方で、今一番速さを発揮している新井大輝選手相手には厳しいかも……と漏らす。

新井選手とスバルのイメージはやはりインプレッサとWRX。ワールドラリーカーであるインプレッサWRCでクーペをドライブしているが、やはり4ドアや5ドアのイメージが強い。試乗や企画も含めBRZとの接点が薄いように思われるが、そのことについては「速いマシンならなんでも良い」とのことだ。ちなみに、左ハンドル車は新井選手のリクエストで、これまでの経験から左ハンドルの方がドライブしやすいという。

BRZ四駆ターボのコックピット。左ハンドル車がベースになっている。

そんな新井選手のコドライバーを務める安藤裕一選手は、コックピットの熱問題を挙げた。このBRZはエンジンをバルクヘッドギリギリまで寄せており、加えてターボチャージャーは助手席側に配置されているため、助手席足元から来る熱は相当なものになる。

安藤裕一選手。

さらに、センタートンネルにあるトランスミッションからの発熱も馬鹿にならない。コックピット内のクーリングはルーフベンチレーターから行なうが、BRZはWRX S4にあったリヤドアのエアアウトレットが無いため、通風性が下がっているそうだ。これまで涼しい環境でのテストだったが、真夏の実戦ではどうなるかは不安要素でもある。今から暑さに慣れるよう特訓もしているそうだ。

BRZ四駆ターボのコックピット(助手席側)。足元やセンタートンネルは遮熱材に覆われている。

またクーペボディの難点として、リエゾン区間では脱いでいるヘルメット置き場が無いとか、後席に積む工具などの機材へのアクセス性が悪いといった点も挙げていた。

ルーフベンチレーターのインテーク。
エアコンレスのラリー車の必須装備、ルーフベンチレーター。
リヤクォーターウインドウはWRX S4と違いエアアウトレットが設置できない。
ラゲッジルームも含めキャビン後方へのアクセス性はあまり良くないようだ。

実戦デビューは全日本ラリー選手権第3戦「ラリー飛鳥」

BRZ四駆ターボ「Boxer Rally spec.Z」

BRZの実戦デビューは5月8日(金)〜10日(日)に奈良県で開催される全日本ラリー選手権第3戦「ラリー飛鳥」が予定されており、スバル/アライモータースポーツのお膝元である群馬サイクルスポーツセンターや林道にてテストを重ねており、ターマック戦の準備が進められた。

BRZ四駆ターボ「Boxer Rally spec.Z」

テストではWRX S4を上まわるタイムを出しており、現在のトップマシンであるトヨタGRヤリス・ラリー2やシュコダ・ファビアRSに対しても十分に戦えると見込まれている。

BRZ四駆ターボ「Boxer Rally spec.Z」
BRZ四駆ターボ「Boxer Rally spec.Z」

とはいえ、初の実戦だけにその性能は耐久性も含めて未知数。今後の熟成も必要になってくるのは間違いない。BRZが「ラリー飛鳥」でどのような戦いを見せてくれるのか、大いに気になるところだ。願わくば、ヤリス、ファビアと三つ巴になって表彰台を争って欲しい。

BRZ四駆ターボ「Boxer Rally spec.Z」

なお、テストは「ラリー飛鳥」でのデビューに向けてターマックで実施されており、全日本ラリーでは開催の少ないグラベルでのテストはまだ行なわれていないそうだ。

BRZ四駆ターボ「Boxer Rally spec.Z」
チーム名SUBARU TEAM ARAI
ドライバー新井敏弘(アライトシヒロ)
コドライバー安藤裕一(アンドウユウイチ)
適合規定全日本ラリーJP4
全長4265mm
全幅1820mm
全高1300mm
ホイールベース2575mm
エンジンFA24 D-4S 水平対向4気筒DOHC16バルブデュアルAVCS+インタクーラーターボ
排気量2387cc
潤滑MOTUL製オイル
最高出力280PS以上
最大トルク500Nm以上
駆動方式直結式AWD
トランスミッション6速シーケンシャル(SADEV製)
サスペンション形式前ストラット/後ストラット(KYB製)
ブレーキフロント:4ポット/リヤ:4ポット(ENDLESS製)
ホイール18インチx8Jアルミホイール(WORK製)
タイヤ210/650R18(ADVAN製)
参戦体制およびBoxer Rally spec.Zの諸元

市販車登場の可能性は?

スバルファンからしてみたらBRZの四駆ターボはBRZのデビュー時から欲しかったクルマだろう。実際、初代BRZ開発時にスバルがBRZにAWD化の余地を残したが、トヨタにバレて却下されっという逸話がまことしやかに語られている。

2012年に登場した初代BRZはトヨタとの初の共同開発車であり、水平対向エンジン搭載のFRスポーツカーとして話題を呼んだ。

しかし、残念ながら市販化の可能性は極めて低い。現状このBRZはお披露目された個体1台しか存在しておらず、テスト車両や予備車も無い状態。しかも、実質ワンオフのコンペティション用スペシャルマシン。今後、実戦で好結果を出して、アライモータースポーツ以外のエントラントから要望が出ればデリバリーするのはやぶさかではないものの、一般市販車として販売される可能性はゼロだ。

近藤エンジニアリング製のカーボンボンネット。エアアウトレットは周囲に排出効率を高めるエクステンションを装着。

販売したとて、価格はコンプリートカーとはいえスバル車最高額となった「S210」どころでは無いだろう(ちなみに、GRヤリス・ラリー2が4000万円、シュコダ・ファビアRS(R5/ラリー2)が3500万円ほど)。
とは言え、Boxer Rally spec.Zはかなりカッコイイのも事実。四駆ターボは難しくとも、イメージを踏襲した特別仕様車やコンプリートカーの登場には期待したくなる。

STI製のカーボンリヤウイング。このBRZ専用品というわけではない。まだまだ開発の余地はある。トランクリッドも近藤エンジニアリングのカーボン製で、軽量化に貢献。

スバルの新体制への期待

スバルは『ジャパンモビリティショー2025』の際に発表したブランド戦略を推し進めている最中だ。モータースポーツへの参戦もブランド戦略の「パフォーマンス」シーンを際立たせるためであり、モータースポーツと市販車の連携も強化していく方針だ。

スバルのブランド戦略イメージ。

スバル車内ではそれを踏まえた体制が構築され「商品”革新”本部」を設立。同部署内の「スポーツ車両企画室」がモータースポーツとスポーツ車両を扱う。今回の発表会で登壇した山田大輔氏は「MS(モータースポーツ)技術企画G(グループ)」、WRXの6速MT車「STI Sport #」開発責任者の小林正明氏はが「スポーツ系商品G(グループ)」だ。

スポーツ車両企画室の大村雅史室長(左)と、MS技術企画グループの山田大輔氏(右)。

今回のBRZ四駆ターボにせよ、待望のWRX6速MT車にせよ、FA24ターボ+6速MTのパフォーマンスXバージョンIIにせよ、スバルの新体制はスバルファン的には今後とも大いに期待したくなる状況と言えるだろう。

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フォトギャラリー&ディティールチェック

ここまでの画像や、本文にはない画像はページトップの「この記事の画像をもっと見る(70枚)」で見ることができる。さらに、各部のディティール画像も解説付きで用意しているので、ぜひ見て欲しい。

BRZ四駆ターボ「Boxer Rally spec.Z」発表会のフォトセッション。