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内燃機関超基礎講座

中国OEMがエンジンを誇示する理由

ブースの一等地に展示されたW30。このパワートレーンにHORSEがかける想いの強さが伝わってくる。

今年の北京モーターショーでは、中国の自動車OEMがエンジン開発の成果をこぞって見せつけていた。

中国=BEV、あるいはAIビークルというイメージだけで捉えると、いま起きている変化を見誤るかもしれない。

中国OEMがモーターショーでエンジン技術を誇示し始めた背景には、「EVだけではブランド価値を作れない」という認識がある。同時に、「内燃機関でも世界トップレベルに到達できる」という自信の表れでもあるだろう。

実際、2018年から2023年頃の北京/上海モーターショーを振り返ると、主役はBEV、巨大ディスプレイ、自動運転、AI、スマートフォン連携といった“デジタル要素”だった。エンジンはむしろ過去の技術として扱われていた。しかしここにきて、明らかに潮目が変わりつつある。

「BEVだけでは価値にならない」市場の変化

中国市場が成熟するにつれて、「BEVなら売れる」という時代は終わり、ユーザーはより明確な付加価値を求めるようになった。家電的なクルマから、ブランド性やメカニカルな魅力を持つクルマへ。その志向変化が、エンジン再評価の背景にある。

さらに、成功の象徴とされる大型SUVの領域では、モーターだけで高級感や性能、オフロード性を演出するのが難しいという事情もある。加えて現在の中国市場では、BEVよりもPHEVの伸びが強い。充電インフラの制約、長距離移動、寒冷地での使用といった現実的な理由が、その背景にある。

こうして重要性を増しているのが、エンジンである。いま中国OEMは、「世界最高のPHEV」を競い合う段階に入ったと言っていい。

これまで中国メーカーは、エンジンに関しては日欧に後れを取っていると認識していた。しかし現在は、日独メーカーに対する対抗意識が明確に強まっている。「エンジンでも勝てる」というメッセージを発し始めているのだ。

もっとも、すべてのOEMが自社で高性能エンジンを開発できるわけではない。そこで存在感を増しているのが、Horse Powertrain のような外部パワートレーンメーカーである。

ハイブリッド前提で設計されたエンジン

HORSEは、Renault と Geely を中心に設立され、さらに Saudi Aramco も出資する企業だ。各社のエンジン事業を統合し、今後も需要が見込まれる内燃機関をグローバルに供給することを目的としている。

北京モーターショーのブースで、そのHORSEが大きく展示していたのが「W30型3.0L V6 DOHCターボ」である。

W30型+4LDHTのハイブリッドユニット。これは縦置き想定だ。
エンジン後方から見る。Vバンクは90度。Vバンク内にターボチャージャーが2基収まっている。

スペックは以下の通りだ。

・90度V型6気筒DOHCターボ
・排気量:2.99L
・最高出力:350~400kW
・最大トルク:600~700Nm
・燃料供給:直噴
・重量:160kg(競合比約10kg軽量)
・サイズ:460×690×650mm

量産は2027年末を予定している。

組み合わせる4LDHTの重量は199kg。2028年に「Available」となっていた。

注目すべきは、このエンジンが最初からハイブリッド前提で設計されている点だ。マイルドハイブリッド、ストロングハイブリッド、さらにはレンジエクステンダーEVにも対応する。

展示車両では、縦置きレイアウトで「4LDHT」と呼ばれる4速ハイブリッドトランスミッションと組み合わされていた。

・800Vアーキテクチャ
・シリーズ/パラレル両対応
・P1:250~300kW/P3:350~400kW
・最大ホイールトルク:約9200Nm
という、電動化を前提としたパワートレーンである。

ハイブリッドトランスミッションの上にはPCUも一体となって載っている。

説明員に用途を尋ねると、「大型オフロードSUVやピックアップトラック向け」との答えが返ってきた。さらに、「小規模OEMのスーパーカー用途も想定している」という。

つまりこのパワートレーンは、
高トルク・高出力、パッケージ自由度、少量生産対応、電動化との両立
といった、ニッチだが開発難易度の高い領域を狙ったものだ。

トヨタやドイツメーカーは自社ハイブリッドを持ち、BYDも内製する。しかし、多くのメーカーにはそのリソースがない。それでも高級SUVやスーパーカーでは、依然として内燃機関が求められる。

そこでHORSEは、「パワートレーンを丸ごと提供する」というビジネスモデルを提示している。

重要なのは、このW30が“最後のV6”ではないことだ。
これはむしろ、
EV時代に組み込まれるエンジン
として設計されている。

北京モーターショー2026で見えたのは、エンジンの終焉ではなく、その役割の再定義だった。

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