久々にエンジンを始動、「エンジン掛かったしOK!」が落とし穴

「セル回った! よし出発!」……といきたいところだけど、しばらく乗っていなかったバイクには気を付けるポイントがいっぱいあるのをご存知だろうか。これは人間で言えば、準備運動なしで急にダッシュするようなもの。放置していた期間によって状況はマチマチではあるけれど、久々始動(久しぶりにエンジンを始動する意味)の際に確認しておきたい項目をまとめたのでご紹介したい。

分かりやすいのはバッテリーだ。最近のFI車は乗っていなくてもECUなどに微弱な電力を使っているので、想像以上に電圧が低下していることがある。さらにタイヤの空気圧低下はイメージできると思う。さらに、ガソリンやオイルの劣化、ブレーキフルードの変色、ゴムホース類の硬化など、“見た目では分かりにくい変化”も少なくない。しかも厄介なのは、「普通にエンジンが掛かっちゃう」こと。だから大丈夫だと思ってそのまま乗り続けると、走り出してからブレーキに違和感が出たり、タイヤの空気圧不足でフラついたり、最悪の場合はオーバーヒートや油脂類の漏れなど、大きなトラブルにつながるケースもある。

とくに数か月以上動かしていなかったバイクや屋外保管は要注意。金属部分にサビが出ていたり、フロントフォークのインナーチューブに点サビが発生していることもあるし、チェーンルブ(ドライブチェーン用の潤滑剤)が固まって動きが渋くなっている場合も。だからこそ、久しぶりに乗るときほど“まず点検”。いきなり遠出するのではなく、まずは近所をゆっくり試走して異音や違和感がないか確認してから、本格的に走り出したいところ。愛車と気持ち良くバイクシーズンを過ごすためにも、ぜひ参考にしてほしい。

CHECK 【タイヤ】空気圧不足は想像以上に怖い

久しぶりに乗るバイクで、意外と見落としがちなのがタイヤの空気圧。タイヤの空気は自然に少しずつ抜けていくので、長期間動かしていない車両はほぼ確実に空気圧が低下している。しかも空気圧不足って、単純に乗り味が悪くなるだけじゃない。ハンドリングが重くなったり、フラつきが出たり、最悪の場合はタイヤやホイールにダメージを与えることもある。「なんか曲がりにくいな?」と思ったら、単純に空気圧不足だった……なんてケースは本当に多い。まずはエアゲージで確認し指定空気圧まで調整してから走り出したいところだ。指定空気圧はチェーンガードやラゲッジボックス内のステッカーで確認しておこう。

エアゲージを使ってタイヤの空気圧をチェック。短期間なのに著しく空気圧が低下しているときはパンクやバルブの破損も確認する。

スクーターならシートを開けたところに。ミッション車ならスイングアームに「指定空気圧」のラベルが貼られていることが多い。

CHECK 【タイヤ】ヒビ割れはかなり危険!

空気圧チェックと同時に、タイヤの状態も確認しておきたい。特に長期間放置していた車両は、ヒビ割れが出ていたり、地面に接地していた箇所が変形していることもある。見た目ではそこまで酷くなくても、ゴムは確実に劣化している。特に屋外保管車両や、空気圧が低い状態で長く置いていたタイヤは要注意だ。また、左右で減り方が違う場合はホイールベアリングや足周りのゆがみなどの異常が隠れている可能性もある。久々に走るなら、まずは安心して走れる状態かを確認しておきたい。

左右の減り方が均一でない場合、ホイールベアリングの異常やホイールの歪みの可能性もあるので、ホイールを左右に揺らしてガタ付きなどをチェックしたい。

酷い例がコチラ。タイヤの溝があるか?ないか?なんて、普段は気にしない人が多いと思う。その結果、ここまで溝が減り、ヒビ割れもすごいことに。

CHECK 【バッテリー】セルが元気なければまず充電!

久々の始動で圧倒的に多いトラブルがバッテリー。特に最近のFI車は、乗っていなくてもECUや時計、セキュリティ関連などで少しずつ電気を消費しているため、「しばらく放置してたらセルが弱々しい……」なんてことも珍しくない。しかも厄介なのは、いちおうエンジンが掛かってしまうケース。ギリギリ始動できたとしても、電圧が不安定な状態ではツーリング先で再始動できなくなる可能性もある。また、3年以上使用しているバッテリーは注意したいところ。充電しても本来の性能まで戻らず突然寿命を迎えることも。最近は診断機能付き充電器も増えているので、1台持っておくとかなり便利。一度しっかり電圧チェックしておきたい。

サルフェーション除去機能が付いた充電器を使うと低下した性能が取り戻せることも。買うなら診断機能のある充電器がおすすめだ。

最近では密閉式のMFバッテリーが主流だが、バッテリー液を注入するタイプの場合、液量のチェックを忘れずに。少なければ「バッテリー補充液」を入れよう。

CHECK 【スパークプラグ】プラグ1本でバイクの調子はかなり変わる

久しぶりに走り出したら「なんだか吹け上がりが悪いな……」なんてときに疑いたいのがスパークプラグ。普段あまり気にしないパーツだけど、意外と消耗していることが多い。一般的なノーマルプラグなら5000km程度が交換の推奨目安。電極が丸く摩耗していたり、黒いススが大量に付着している場合は交換したいところだ。また、白く焼けている場合は燃調や吸気系などに異常があるケースも。久々始動で調子がイマイチなら、一度プラグを見てみると原因が見えてくることも多い。

新品時にはエッジが角ばっていた中心電極は、点火を続けていると角が丸く摩耗して火花が飛びにくくなり、パワーや燃費が低下する。

CHECK 【エンジンオイル】交換して気分もリフレッシュ!

続いてエンジンオイル。量が適正かはもちろん、汚れや劣化具合も見ておきたい。「そんなに走ってないし大丈夫でしょ?」と思いがちだけど、オイルは走らなくても劣化していく。特に半年以上交換していない場合は、久々始動のタイミングで交換してしまうのが理想だ。また、オイルが白っぽく濁っている場合は要注意。水分混入やエンジントラブルの可能性もあるので、一度しっかり点検しておくこと。オイル交換は“保険”みたいなもの。気持ち良く走り出すためにも重要なのだ。

エンジンオイルは規定量まで入っているかをチェック。少ないのはもちろんNGだが、多すぎてもトラブルの元になるので注意を。

オイル量の確認とともにオイルの汚れ具合もチェック。見た目は綺麗でも6か月以上経過しているなら交換をオススメする。

CHECK【ガソリンタンク】内部が結露して水が発生!?

エンジンも掛かり走れたとしても、気にしたいのが燃料関連。特に長期間動かしていなかったバイクは、ガソリンタンク内に結露が発生して水分が溜まっていることもある。これが原因でタンク内部にサビが発生するケースも少なくない。とはいえ、数週間〜1カ月程度ならそこまで神経質になる必要はない。ただし数カ月以上放置していた車両や、屋外保管だった車両は要注意。ガソリン自体が劣化していることもあるし、キャブレター車ではフロート室に古いガソリンが残って調子を崩すこともある。「普通に掛かったからOK!」ではなく、一度タンク内の状態やガソリンのニオイ、色などを確認しておきたいところ。長期間放置していたガソリンは思い切って入れ替えるのも手だ。

保管前に満タンにしておけば結露の発生は防げる。水分が気になるなら水抜き剤などの添加剤で燃焼させてやろう。

キャブレター車の場合、燃料コック下のストレーナー(写真)や、キャブレターのフロート室に溜まったガソリンや水を抜いておくといい。

CHECK 【エアーエレメント】汚れたままだと調子もイマイチ

エアクリーナーエレメントは長期保管と直接関係ないように思えるけど、久しぶりに乗るタイミングだからこそ一度チェックしておきたい部分。汚れたエレメントをそのまま使っていると、燃費や吹け上がりにも影響が出てくる。乾式タイプならエアブローで清掃、汚れが酷ければ交換してしまうのもアリだ。普段あまり気にしない部分だけど、こういう細かいメンテナンスが“なんか調子良い!”につながってくる。

主流となっている乾式タイプのエレメントは10000km毎に交換。スポンジの湿式タイプであれば水洗いして再利用が可能だ。

CHECK 【ドライブチェーン】久々始動前に洗浄・注油で気持ち良く!

長期間保管していてもチェーン自体が伸びるわけではないけれど、汚れや古いチェーンルブの硬化で動きが悪くなっていることは多い。特に屋外保管だった車両は、ホコリや湿気でチェーンの状態が悪化しているケースもある。久しぶりに乗る前には、一度チェーンクリーナーで汚れを落として、新しいチェーンルブを塗布しておきたい。チェーンがキレイだと走りもスムーズになるし、何より静かで気持ち良い。こうした小さな積み重ねが、久々始動バイクを快適に復活させるコツだったりする。

保管中に汚れの付着や古いチェーンルブの劣化もあるので、チェーンクリーナーでキレイにしてから新しいチェーンルブを塗布してあげよう。

チェーンの張りは中央部で20~30mm の遊びができるように調整する(車種によって数値の違いアリ)。チェーンの状態やスプロケットの摩耗もチェックしておこう。

CHECK 【ラジエター液】気付いたときには減ってることも

水冷エンジン車で忘れちゃいけないのが冷却水(クーラント)。リザーバータンクは完全密閉ではないので、保管中に少しずつ量が減っていることもある。しかも冷却水不足って普段は気付きにくく、渋滞や長距離走行で一気に症状が出るケースもあるので、久々始動時にはしっかり確認しておきたい。またウォーターポンプやホースまわりに白い粉が付いていたら、漏れのサインの可能性大。年式が古い車両はゴムホースの劣化もあるので、一度しっかりと見ておこう。

クーラントは緑だけでなく、赤、長寿命の青、ピンクなどがあり、メーカーや車種により異なる。指定のものを使用すること。

ウォーターポンプのシールやホースの劣化により漏れが発生することも。粉がふいている際は漏れを疑った方がいい。

CHECK 【ブレーキフルード】「止まる」は最優先チェック!

エンジンが掛かっても、ちゃんと止まれなければ意味がない。だからこそ、久々始動車で特に重要なのがブレーキ周りの確認だ。ブレーキフルードは時間とともに劣化していくし水分も吸収する。色が濃く変色していたり、レバーのタッチがフワフワしている場合は要注意。また、フルードが減っている場合はパッド残量も減っている可能性が高い。見た目だけでは分かりにくい部分だからこそ、久しぶりに乗るタイミングでしっかり確認しておきたい。

ブレーキフルードはアッパーレベル(MAX)の位置まで入っていることを確認する。液が濁っている場合には全量の交換を。

本来ブレーキフルードは無色透明。黄色や褐色に変色していたら劣化しているので交換。右が3年間使用したブレーキフルード。

CHECK 【アクスルシャフト】ブレーキの違和感、実は緩みかも?

久しぶりに走り出したとき、「なんかフロントが落ち着かないな……」とか、「ブレーキの効きにムラがあるな……」と感じたら、一度確認しておきたいのがアクスルシャフト周り。運行前点検にも含まれている部分だけど、正直そこまでチェックしている人は少ないはず。でも、長期間乗っていなかった車両や、以前整備したまま時間が経っている車両は、一度確認しておくと安心だ。特にフロントアクスルシャフトやスイングアームピボット、サスペンションマウントなどは、定期的に締め付け確認をしておきたい部分。大きく緩むことは少ないけれど、“少しの違和感”が走行フィーリングに影響することもある。久しぶりに乗るタイミングだからこそ、各部を一度見直しておきたいところ。オイル交換やタイヤ空気圧チェックと一緒にやっておくと忘れにくい。

90年代のカブの場合、フロントのアクスルナットは締め付けトルク29~39Nm、リヤは39~49Nm。

サスペンションのマウント部も緩みやすい。この部分の指定トルク値は上下ともに29Nm。トルクレンチがない場合は体重を掛けずにグッと締め込む程度が目安。

CHECK 【錆び】小さな点サビが高額修理の原因に!?

屋外保管車両や、湿気の多い場所で保管していたバイクは、フロントフォークのインナーチューブに点サビが出ていることもある。「これくらいなら平気でしょ」と思いがちだけど、その小さなサビがオイルシールを傷付け、フォークオイル漏れにつながることもある。しかもフロントフォークのOH(オーバーホール)となれば出費も大きい。だからこそ、久々始動時には軽い点サビの段階で対処しておきたい。軽度なら潤滑油とウエスで落とせるケースもあるので、まずはチェックしてみよう。

フロントフォークにできた小さな浮き。軽度であれば潤滑油を吹き付けてウエスで擦れば除去できる。乗る前にチェックを。

長期間保管しているとオイルシール自体が劣化してしまうことも。この状態で走れば確実にオイル漏れするので要交換だ。

CHECK 【クラッチ】ガコン!と飛び出したらシャレにならない

長期間動かしていなかったバイクは、クラッチプレートの張り付きやワイヤー固着が起きていることもある。だから久々始動時はいきなりギヤを入れず、まずはクラッチレバーの感触を確認したい。いつもより重い、軽すぎる、動きが渋い……そんな違和感があれば要注意だ。クラッチがちゃんと切れていない状態でギヤを入れると、いきなり車体が前に飛び出すこともある。久しぶりだからこそ、焦らずひとつずつ確認しながら走り出したい。

クラッチレバーを握って手応えを確認。いつもより重かったり、軽すぎたりするときにはクラッチ周りにトラブルがある可能性アリ。

CHECK 【グリスアップ】動きが渋いならまず潤滑!

レバーやペダル、ワイヤーなどの可動部も、長期間動かしていないと動きが渋くなってしまう。特に古いグリスにホコリが付着している場合、そのまま動かすと余計に動きが悪くなることも。まずはパーツクリーナーで汚れを落としてから、新しいグリスや潤滑油を使ってメンテナンスしておきたい。こういう部分って地味だけど、実際に乗り出すと操作感がかなり変わる。久々始動だからこそ、“いつもの感覚”を取り戻すためにも大事なポイントだ。

ブレーキ、クラッチなどのワイヤーには潤滑油を。筆者は防錆効果の高いマリーン用の「6-66」を愛用している。

レバーのピボット部は、粘度が高く乾燥しにくいスプレーグリスを吹き付けておくといい。塗り過ぎたらウエスで拭き取っておこう。

レアケース 【ハンドルグリップ】久々始動で気付く“ゴムの劣化”

久しぶりにバイクを引っ張り出して、「あれ?グリップ割れてる!」「ベタベタする」なんて経験がある人もいるかもしれない。実はグリップのようなゴムパーツって、長期間乗らなくても紫外線によって劣化が進行する。極端に言えば製品が出来上がった瞬間から劣化がスタートしている。特に屋外保管や、寒暖差が大きい環境で保管していた車両は要注意。表面が硬化してヒビ割れたり、握ったときにベタついたり、最悪の場合はアクセル側が空転してしまうケースも。久しぶりに乗るタイミングだからこそ、“触った感触”もチェックしておきたいところだ。「まだ使えるかな〜」と思っていても、実際に乗ると操作感の悪さがかなり気になることもある。値段的にもそこまで高価なパーツではないので、気になるならサクッと交換してしまうのもアリですよ。

CHECK 【洗車】じっくり点検しながら洗おう

久々始動でテンションが上がると、最初に洗車したくなる気持ちも分かる。でも実は、洗車は点検や整備が終わってからの方が良い。というのも、整備前に洗ってしまうとオイル漏れや冷却水漏れの痕跡が分かりにくくなってしまうから。まずは各部をじっくり点検して、問題がないことを確認。それから愛車をキレイに洗ってやれば、気分もスッキリする。久しぶりに復活した愛車、せっかくなら気持ち良く乗りたいしね。

※この記事は月刊モトチャンプ2023年3月号を基に加筆修正を行っています