ノーマル以上・タイプR未満のちょうどいいスポーティさが「RS」の持ち味

代を重ねるごとにボディサイズを拡大し、大人びた成長を遂げてきたホンダ・シビック。11代目となる現行型は「爽快シビック」を開発コンセプトに掲げ、「質感の高い軽快感」を目指したという。実際に運転席に収まり走り出すと、思わず「いいクルマだな〜」と声が漏れるほどしみじみ快適なのだが、その走りの質を表現するならば「キビキビ」というよりは「しっとり」という言葉のほうが似合う。初代シビックが誕生したのが1972年のことだから、人間に置き換えれば50歳超。昔はヤンチャもしたけれど、今はすっかり落ち着いた“イケオジ”といったところだろうか。

ホンダ・シビックe:HEV RS。6月の発売が予定されており、現在はディーラーで先行予約の受け付け中だ。

もちろん、究極のスポーティな走りを楽しみたいユーザーのためには「タイプR」という選択肢が用意されているが、あちらは生粋のサーキットウェポンと呼ぶべきピュアスポーツ。その気になったときの速さは圧倒的だが、万人の日常に寄り添うモデルではない。そこで、ノーマル以上・タイプR未満のスポーティさを楽しめるグレードとして2024年9月に追加されたのが「RS」だ。

シビックのラインナップは、1.5Lガソリンターボ+CVTの「EX」「LX」、1.5Lガソリンターボ+6速MTの「RS」、2.0Lハイブリッドの「e:HEV LX」「e:HEV EX」。そこに6月から加わるのが、2.0Lハイブリッドの「e:HEV RS」だ。

タイプRとともにシビックのスポーティイメージを牽引するRSは、最高出力182PS/最大トルク240Nmを発生する1.5L直噴VTECターボと6速MTの組み合わせで登場。専用チューニングのサスペンション&ステアリング、素早い回転落ちを実現する軽量フライホイール、シフトダウン時にエンジン回転数を自動制御するレブマッチシステムも備わり、操る楽しさと実用性を兼ね備えたモデルとして好評を博してきた。

直近のシビックの販売割合は、ガソリン車が54%、ハイブリッド車(e:HEV)が46%。ガソリン車のうち、RSが38%を占めているのだから販売は好調と言っていい。その一方で、「家族と共有するためMTではなく2ペダルがいい」「RSのスポーティなテイストをハイブリッドでも味わいたい」というニーズも見えてきた。さらにシビックシリーズ全体として、e:HEVの販売比率をもう少し伸ばしたいというビジネス上の課題もある。そうした背景と、社会的に高まるハイブリッド需要を踏まえて追加されたのが、今回の「e:HEV RS」というわけだ。

シビックe:HEV RSのボディカラーは5色。写真のソニックブレー・パールのほか、 プラチナホワイト・パール、クリスタルブラック・パール、プレミアムクリスタルレッド・メタリック、シーベッドブルー・パールがそろう。

ハイブリッドで操る喜びを実現する「Honda S+ Shift(エスプラスシフト)」

e:HEV RSのコンセプトは「爽快シビックEVO」。既存のシビックユーザーやSUVからの乗り換えを含む新規顧客、とりわけファミリー層も視野に入れている。年齢軸では実購買層として50代〜60代の夫婦を想定しつつ、チャレンジターゲットとして30代〜40代の若年層の取り込みも狙う。

e:HEV RSの心臓部は、主に発電を担う2.0L直噴エンジン(最高出力141PS/最大トルク182Nm)と、その電力を利用してタイヤを駆動するモーター(最高出力184PS/最大トルク315Nm)の組み合わせで、標準グレードのe:HEVからスペック上の変更はない。しかし、e:HEV RSにはひとつ、大きな武器がある。それが「Honda S+ Shift(エスプラスシフト)」である。

ホンダ自慢のハイブリッド「e:HEV」はエンジンで発電機を回し、その電力でモーターを駆動するシリーズ式を基本としながら、エンジンを直結して駆動するためのクラッチが備わるのが特徴だ。

e:HEVは高速道路での巡航時などを除き、基本的にはモーター駆動となる。しかしこのエスプラスシフトは、あたかも有段変速機が存在するかのようにエンジンの回転を上下させる機構だ。ハイブリッドというと、アクセルを踏み込んでも回転数と車速の変化がシンクロせず、ダイレクト感に欠けるドライブフィールになりがちだが、エスプラスシフトはそんなハイブリッド車でも「操る喜び」をドライバーに提供するための新技術なのだ。

従来のハイブリッド車にはない痛快なレスポンスとサウンド

今回のe:HEV RSの試乗会は発売前ということもあり、クローズドコースで行なわれた。高低差が100mあり、大小さまざまなコーナーで構成された走りがいのあるテクニカルなレイアウトだったのだが、ここでエスプラスシフトの効果を存分に実感することができた。

正直なところ、試乗前はその効果に半信半疑だった。「どうせ音だけのギミックでしょ…」と斜に構えていたのだが、試乗を終えた今は、己の不明を恥じたい気分である。エスプラスシフト、思わず顔がほころぶほど底抜けに楽しいのだ!

水平基調で視界も良好なインパネ。RSではエアコンのアウトレット部にレッドのピンストライプをあしらってスポーティさを演出。e:HEV RSではステアリングホイールもプレリュード譲りのDシェイプとなり、金属のパドルも備わる。
センターコンソールに備わるドライブモードと「Honda S+ Shift(エスプラスシフト)」の操作スイッチ。

ホンダのハイブリッド車ではこれまでも、加速時に車速の伸びとエンジン回転数を連動させ、擬似的なシフトチェンジも行なうリニアシフトコントロールを採り入れていたが、エスプラスシフトは減速時にもダウンシフトのように回転が上下するのがキモだ。8段の仮想ギヤ比を用いた変速制御により、コーナー進入前にブレーキングすると、DCT搭載車でパンパン!とパドルシフトを弾いたときのように、最適な仮想ギヤへと素早くギヤを落としてくれる。

物理的なギヤを切り替えるわけではないので、変速もレスポンスが超速なのも快感だ。e:HEV RSにもパドルシフトは備わっており、マニュアルでの(疑似)変速操作は可能だが、クルマ任せのダウンシフトの方がスピーディかつ的確な印象だった。

サーキットのラップタイムを競うのではなく、ワインディングロードを自分のペースで気持ち良く流す…そんな走り方が似合うのがシビックe:HEV RSだ。絶対的なスピードを追わずとも、クルマとの濃密な対話を楽しませてくれる。

エスプラスシフトはコーナリング中にも威力を発揮する。ダウンシフト後、アクセルがパーシャル状態でもギヤをホールドして高回転をキープしてくれるため、コーナー出口に向けてアクセルオンする際もレスポンス良く反応してくれて実に快感だ。点火コントロールによってエンジントルクを素早く変化させ、変速時のサウンドに“キレ”をもたせたり、回転数の変化に合わせてモーターのトルクを高レスポンスで制御して鋭い加減速を実現したりと、ドライバーの感性に寄り添う緻密なセッティングの賜物と言えるだろう。

さらなる走りの気持ち良さに一役買っているのが、エンジンサウンドの演出だ。アクティブサウンドコントロールにより、低回転域では迫力感、中回転域では軽快感、そして高回転域では伸び感を表現。ダウンシフト時のブリッピング音も「ブォブォン!」といった威勢の良い音を奏でて、気分を大いに盛り上げてくれる。完全な人工音ではなく、あくまでも実際のエンジンサウンドがベースとなっているので、リアル感も高い。音響を出力するスピーカーを、標準のe:HEVの2個から4個に増設したことで、より臨場感のあるサウンドが楽しめるようになったのもe:HEV RSの特権だ。

快適性を犠牲にしていないのもe:HEV RSの美点。テールゲートのヒンジを小さくしてヘッドクリアランスを確保されているのはシビック共通の長所だ。
RSはコンビシート(プライスムース×ウルトラスエード)はレッドのステッチが施されているのが特徴。シートヒーターはシビック全車に標準だ。

2.0Lハイブリッドということで、e:HEV RSは驚くほど速い…というわけではない。しかし、パワーがありあまっていないおかげ(?)で、アクセルを積極的に踏み込める場面が多く、そのぶん、エスプラスシフトとアクティブサウンドコントロールの効果も体感しやすい。実際に走っている速度以上にスポーツドライビングをしている感覚を得られたのが何よりも楽しかった、というのが正直な感想だ。

しなやかで上質な足まわりと程良くスポーティなルックス

ちなみに、エスプラスシフトが市販車に初搭載されたのはプレリュードだが、第二弾となるシビック e:HEV RSでは操作ロジックに小変更が加えられた。プレリュードでは4つのドライブモードすべてで機能したが、シビックでは「スポーツ」モード専用の機能となった。どのモードからでもエスプラスシフトをオンにすれば自動的にスポーツモードになり、オフにすれば元のモードに復帰するというシンプルな仕組みだ。この割り切りの恩恵で、より効果を実感しやすくなったと思う。

パワートレーンばかりをクローズアップしてきたが、足まわりの仕上がりも見事だ。標準のe:HEVに対し、ショックアブソーバーの応答性を107%アップ、スプリングとスタビライザーによるロール剛性を11%高めているというが、しなやかさを損なうことなく適度に引き締められていることが伝わってくる。タイプRほどサスペンションが硬いと家族を乗せるのはためらわれるかもしれないが、e:HEV RSなら同乗者から不満が出ることもないはずだ。

e:HEV RSは新規開発のタイヤ(グッドイヤーEAGLE F1 ASYMMETRIC 6)を履く。e:HEVのASYMMETRIC 2と比べると、転がり抵抗は20%、ロードノイズは8.8%低減する一方、ドライでのブレーキ性能は3.4%向上しているという。

エクステリアの差別化が最小限なのも渋い。専用エンブレムやマットベルリナブラック塗装が施された18インチホイールのほかは、ヘッドライトリングやシャークフィンアンテナ、一部のガーニッシュ類がブラック化された程度。「羊の皮をかぶった狼」的なキャラクターが、このクルマにはよく似合っている。

ホンダは今後、エスプラスシフトの対応車種を順次拡大していく予定だという。エコカーの代名詞だったハイブリッドに、新たな走りの歓びを付与してくれるこの新技術。ハイブリッド嫌いを自認するクルマ好きにこそ、ぜひ一度味わってみてほしい。間違いなく目から鱗が落ちるはずだ。

これまではシビック タイプRを担当していた柿沼秀樹さん(本田技術研究所 四輪研究開発センター)だが、現在はシビック全体の開発責任者を務めている。e:HEV RSについては「何秒を出すか、何に勝つかではなく、『日常の延長線上でタイプRに通じる走る楽しさを感じてもらう』ためのポジション。特別な運転スキルは不要で、2ペダルで気軽に『クルマと対等の立場』で肩肘張らずに楽しめる等身大のモデルです。私自身、かつて『ガチガチでうるさい、一部の人に向けたクルマ』だったタイプRにコンフォートモードを付けたり、デザインを受け入れやすくしたりして、間口を広げてきた経緯があります。尖ったマニアックな方向へばかり走るのではなく、『せっかくの楽しいクルマをより多くの人に体感して喜んでもらう』こともホンダの目指すべきひとつの姿だと考えています」と語る。
e:HEV RSに込めた「かつての元気なシビック」という思いを最も端的に表現するために仕立てられた、JACCSカラーをイメージしたデモカーが試乗会場に展示されていた。柿沼氏自身、約35年前のグループAやJTCCで活躍したJACCSカラーの「EGシビック」を見てクルマが好きになり、ホンダに入社したという原体験があるという。復刻にあたっては、当時のカラーデザインを手掛けた由良拓也氏(ムーンクラフト)にも直接許可をもらい、快諾を得たそうだ。
JACCSは大手信販会社の名称。今回のモデルではロゴがCIVICに変更されている。
リアウインドウには当時のレーシングドライバー名のパロディとして開発責任者である柿沼氏の愛称が入れられている。