先生(右):損 保太郎

某損保サービスセンターに勤務。肌感ではバイクが全損になってしまう割合は50% 近く。今回は全損と言われた時の交渉術をレクチャー。

生徒(左):モン太

事故は未経験。全損ってナニ?って感じのバイク歴3年のライダー。今回も教えて!保太郎さん!

バイク事故で突然やってくる「全損」とは?

モン太 聞いたことはあるけど全損ってどうなったらなるモンか?

損 保太郎(以下 保太郎)全損とは、事故で壊れた部分の修理費用が車両の時価額を超えてしまったことを指す。加害者の賠償責任は時価額までという考え方は、過去の判例で確立されてしまっているため、元通りにするための修理費用を満額受け取れないことがあるんだ。
モン太 そんなご無体な~
保太郎 そうだよね、完全な被害事故でも全損であればそうなってしまう場合もあるんだ。被害者からしたらとうてい納得できないね。僕もバイク乗りとしてその気持ちが分かるから全損の通知をする時は複雑な心境でいるよ。
モン太 なるほど~。そういうモンか~。でも、全損って言葉の響きだと、相当ひどい事故じゃないとならないんじゃないモンか?
保太郎 それがそうとも限らないんだ。例えば相手のクルマとの接触は軽かったとしても、バイクはそのあと転倒してしまうことが多い。そうすると転んで路面を滑走することで、損傷を受ける範囲が広くなる。また軽く転んだだけでも、メインフレームに傷がついてしまたり、エンジンの部品が割れてしまったりすることもある。クルマなら外板交換だけで済むような事故でも、バイクはフレームやエンジンケースなど高額な部品までダメージが及ぶことが珍しくないんだ。こんな理由から、バイクの修理費用は高額になってしまうことが多い。また、もともとの車両価格が車に比べると低いのも全損扱いになってしまう理由のひとつだね。

「時価額15万円です」はどう決まる? 全損査定の仕組み

モン太 バイクは割と全損扱いになりやすいっていうのは分かったけど、時価額ってどうやって決められるモンか?高級なお寿司やさんで値段が時価って書いてあったりするけど、そういう感じモンか?
保太郎 近いようなそうでもないような。簡単に言うと、「今そのバイクと同じような車両を中古で買うといくらぐらいか?」という考え方に近いかな。賠償責任が時価額限度であることは変わらないけど、時価額の算定の仕方はいろいろある。保険会社ではクルマやバイクの流通価格がまとめられたオートガイド社の発行している資料(レッドブック※)を使うことが多いかな。ほかにも、インターネットの中古車販売サイトで同じぐらいの中古車両を検索してその平均値をとったり、新車価格から耐用年数で償却していくという算出方法もある。
モン太 ようは全損って100万円の修理費がかかるくらい壊されても、15万円で同じくらいの中古のバイクが買えるなら、そっち買った方がいいじゃん! ってことモンか?
保太郎 ざっくり言うとそういうこと。あと、たびたび問題になるのがカスタム車両の時価額だね。お金をかけてカスタムしたからといても、カスタム費用がそのまま時価額にプラスされるとは限らないんだ。例えば10万円のマフラーに変えてある場合、外したノーマルマフラーが5万円だったとすれば、それを相殺して5万円アップと考える事もある。それともう一つ、賠償は普通に考えて適切か?という観点があるから、一般の人が見てどうか?という点も問題になる。数百万円かけてカスタムを行っても、一般的に見て妥当だと思える範囲を超えているようなカスタムや違法改造に対し時価額には反映しないこともあるんだ。そのバイクへの思い入れや愛情なんかも金銭には勘案できない。
モン太 まさにプライスレス。
保太郎 マイナス面ばかり言ってしまったけれど、時価額のほかに新たに購入するバイクにかかる登録費用等の諸費用の一部が賠償の対象となる場合もあるから、交渉してみるのも手だよ。

※保険会社が中古車・中古バイクの市場価格を調べる際の参考資料のひとつが「レッドブック(オートガイド自動車価格月報)」だ。

全損宣告でも諦めない! 「修理差額費用特約」という選択肢

保太郎 以前も触れたことがあるけど、全損と相手の保険会社から通知されたけど、どうしても修理したい場合には、「対物全損時修理差額費用(以下、修理差額費用特約)」の対象になるか相談してみよう。この特約は修理する場合に限り、時価額を超える修理費用の一部を補償してくれる特約なんだ。補償限度額や条件は保険会社によって異なるから確認してみよう。この特約は保険会社によっては自動的に付帯されていたり、オプションであったとしても、個人向けの自動車保険での加入率は結構高いよ。
モン太 分かったモン。事故には遭いたくないけど、もしもの際は交渉してみるモン。
保太郎 そうだね。大事な愛車が壊れてしまうなんて想像もしたくないけど、イザという時は参考にしてみてね。

※本記事では一般的な自動車保険・自賠責保険について解説しています。契約内容や各社の約款により、補償内容や対応が異なる場合があります。

※この記事は月刊モトチャンプ2023年9月号を基に加筆修正をしています

【モトチャンプ編集部】