CR110の魂を受け継いだ、美しすぎる50cc

90年代後半は、往年の名車を現代によみがえらせる“復刻モデル”がひとつのブームになっていた。2スト世代なら、同じ頃に復活したヤマハRZ50(5FC)に目を奪われた人も多かったはず。でも、そんな時代にホンダが送り出したのは、やっぱり「4ストのホンダ」を感じさせる一台だった。
モチーフになったのは、1962年に登場したホンダCR110カブレーシング。ロングタンクにシングルシート、左右2本出しメガフォンマフラーという60年代レーサーらしいスタイルを、現代の50ccロードスポーツとして丁寧に再構成している。しかも、このバイクは見た目だけではないのだ。
エンジンを見れば、左右に大きく張り出したDOHC4バルブヘッドの存在感に目を奪われる。ファンの間では、その独特な形から「ミッキー〇ウス」なんて愛称で呼ばれることもあったが、可愛らしいニックネームとは裏腹に、中身はとんでもなく本気だ。60年代レーサーへの憧れと、ホンダが積み重ねてきた4スト技術。その両方を小さな車体に凝縮した、まさに威信作だったのである。
世界最小クラスのDOHC4バルブエンジン、その贅沢すぎる中身
ドリーム50最大の見どころは、やはり空冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒エンジンだろう。最高出力は5.6ps/10500rpm。50ccとは思えない高回転までストレスなく吹け上がり、クロスレシオ化された5速ミッションとの組み合わせによって、街中でもワインディングでも気持ち良く走ることができる。
しかし、このバイクの魅力は数字だけでは語れない。縦型エンジンということで、後年登場するエイプとどこか雰囲気が似ているようにも見えるかもしれないけれど、実際にはオイルラインまで専用設計。さらに車体側も、クラシカルなクレードルフレームに見えるようエンジンマウントの造り込みまで徹底している。昔の名車をイメージしました――で終わらせず、その空気感や機能美まで現代によみがえらせようとしたホンダの本気が、こんな細かな部分からも伝わってくるのである。
世界最小クラスのDOHC4バルブエンジンを新たに起こし、専用設計のエンジンを与え、車体もCR110らしさを追求して細部まで作り込む。ドリーム50は、昔の名車をモチーフにしたバイクではない。CR110という夢を現代によみがえらせるために、一つひとつを新しく作り上げた、まさに専用設計の塊だった。しかも当時はワンメイクレースも開催され、HRCからはレースキットやコンプリートレーサーの「Dream50R」まで登場。乾式クラッチ風ステッカーなどのマニアックなアイテムも人気を集め、各地の4MINIミーティングやエコラン競技でサーキットを走る車両が存在するなど、コアなファンに愛され続けている。
「4ストのホンダ」を感じるパワーユニット




量産市販車としては世界最小のDOHCエンジンは、過去の名車を参考にして、現代の技術に落としこまれたもの。10000rpmまでストレスなく吹け上がり、5速クロスミッションとの組み合わせで市街地でも扱いやすい味付けになっている。バフ仕上げとクリア塗装を施したシリンダーヘッドサイドカバーにクロームメッキ仕上げの専用ボルトを採用するとともに、フローティング構造とすることで静粛性も向上させている。
HRC Dream50R(レーシングモデル)

ドリーム50をベースに、HRCのレース専用キットが組み込まれた生粋のレーサー。保安部品は外され、ゼッケンプレートや、専用オイルタンクを備える。ワンメイクレースも開催された。
時代を超えて愛される、眺めても楽しいという幸せ
発売当時の価格は32万9000円。同じレトロ系のベンリィ50SやYB-1と比べると二倍弱、学生には少し手が届きにくかったかもしれない。正直、「これはオジサン狙い撃ちだよね」と感じた人もいたはずだ。でも、高価なのも、この機能と美しいスタイルを知れば納得できる。
世界最小クラスの量産空冷DOHC4バルブエンジン、前後ディスクブレーキ、専用設計の車体、そしてCR110を思わせるディテールの数々。既存部品を寄せ集めたレトロバイクではなく、「このバイクを作るため」に新しく設計されたパーツの集合体だったのである。
だからこそ、今でもドリーム50は“名車”として大切にされている。乗るだけではない。ガレージで磨き、眺め、ときどきエンジンに火を入れて1万回転まで気持ち良く回してやる。そんな付き合い方をしているオーナーも少なくないだろう。未使用車や極上車が100万円を超える価格で流通しているのを見ると、高嶺の花になってしまった感はあるけれど、それでも欲しくなるだけの魅力がこのバイクにはある。
商業的に大成功を収めたモデルとは言い難いのかもしれない。それでも、50ccクラスに空冷DOHC4バルブエンジンを与え、CR110の精神を現代へ受け継ぐためだけに、ここまで専用設計を貫いた市販車は他にない。その機能美と美しいスタイルを知れば知るほど、「この価格でも欲しかった」と思えてしまう。ホンダ・ドリーム50は、まさに“時代が生んだスペシャルな一台”。二輪史に残る偉業として、これからも語り継がれていくはずだ。
主要諸元

[SPECIFICATIONS]
全長×全幅×全高:1830mm×615mm×945mm
ホイールベース:1195mm
シート高:740mm
車両重量:88kg
エンジン種類:空冷4スト4バルブ単気筒
総排気量:49cc
最高出力:5.6ps/10500rpm
最大トルク:0.42kgm/8500rpm
燃料タンク容量:6.2ℓ
燃費:83.3km/L(30km/h定地走行)
変速機形式:5速リターン
ブレーキ(前・後):ディスク・ディスク
タイヤ(前・後):2.50-18・2.50-18
価格:32万9000円
※スペックは97年モデル
※この記事は月刊モトチャンプ2025年3月号を基に加筆修正を行っています
【モトチャンプ編集部】
