フロントからリヤまで曲線基調のフルカバードフォルム
80年代スクーター史を振り返ると、ときどき「なんでコレ発売した?」としか思えないバイクが存在する。スズキ「モードGT」もその1台だ。フルカバードの近未来デザインに、異様に長い車体。どう見てもショーモデルのようなこの原付、実は後のスクーターレイアウトを決定づけた“超重要車”だったのである。
1980〜90年代にかけてのスクーター群のなかには、ユーザーに認知された売れ筋のモデルに対し、一見繋がりのないような、すさまじいモデルが存在する。
ホンダなら、80年代にも関わらず2ストローク24㏄の極小エンジンを搭載した自転車型原付「ピープル」。ヤマハなら世界がDOHCに移行するなか、OHVエンジンをあえて搭載したスクーター「シグナス180」。そしてスズキはといえば、フロントからリヤまでフルカバードされた今回紹介する、筆者が好きな「モードGT」である。
当時スズキの原付ラインナップには、ライト&カジュアル路線のカーナ/ハイ/薔薇。アダルト&レトロ路線のジェンマがあった。われらがモードGTは、そのどちらの路線の延長上にもない、まるでショーモデルのような近未来感をまとって登場したのだ。どこにも属さない立ち位置ゆえユーザーは「?」マークを頭の上に付けるしかなかった。だがこれはある意味正解。実はモードGTは、80年代スズキ原付革新の象徴、フラッグシップとして作られたのである。ホンダに例えれば楕円ピストンを搭載したNRのようなマシンなのだ。
スズキは過去にもチャレンジスピリット溢れる意欲作を出している。ロータリーエンジンを積んだRE-5、コンセプトモデルをそのままのかたちで出した意欲作、GSX1100S(刀)、「外装を徹底的にレーサーに似せる」という離れ業をやったRG250ガンマなどがソレだ。ではモードGTはいったい何が革新なのか? 確かにエアロフォルムは斬新だが、これは当時のフルカバードブームで説明できる。テレスコフォークやディスクブレーキも新鮮ではない。では何が? そう、エンジンなのである。
横型エンジンは“今の当たり前”を作ったレイアウト革命
スズキは80年代のスクーターにおいて、蘭(83年)に端を発する「CA1」シリーズという、前方吸気・後方排気エンジンを開発(もともとは吸排気系のコンパクト化を目指したレイアウトと思われる)。同エンジンは85年末に発売されたハイ(CA19)で、48㎏の軽量ボディに6.5㎰/0.72kgmという、当時原付一種トップのパワー&トルクウエイトレシオを叩き出すに至った。
前述のように「CA1」系エンジンはキャブレターが前側(シリンダーヘッドの斜め上)にあり、後方へほぼストレートに抜けるマフラーでは低速時のトルクが足りず、結果、排気管長を稼ぐため、エキパイをぐるりと回り込む凝ったレイアウトを採用した。そのため、当時のライバル車のように、エンジン前方のスペースにシート下収納を設けることが困難だったのだ。
ここで、スズキ社内に発想の飛躍が生まれた。シリンダーを完全に寝かせた横型レイアウトの誕生である。
この新型エンジンは「CA1」シリーズとして、未来を指し示すこのモードGT(CA1B)に搭載。間髪入れず同年末に発売されたスズキ初のシート下収納スペース付きスクーター、アドレス(CA1C)がこのエンジンを採用した。これがセピア、ZZへと進化していくわけだ。ちなみにホンダが原付スクーターに横型エンジンを採用したのは94年。ヤマハは89年である。1年毎にモデルチェンジをする異常な開発サイクルだった当時としては、目を見張る先進性である。
そんなモードGTは、横型エンジンを搭載しながらもシート下収納というトピックはアドレスに譲った。これは、モードGTがスタイルも含め、スズキ原付の未来を指し示すフラッグシップだったから、というのが筆者の見解だ。横型エンジンはその後、フロアタンクが合わさり、スクーターの車体レイアウトにおいて極限の進化を遂げる。そのビッグバンとなったのがモードGTだったというわけだ。
NRの楕円ピストンは、革新的であったが結局今に生き残らなかった。しかし横型エンジンの革新は、その後のスタンダードとなった。これほどの革新モデルを、手の届く範囲で買えるものとしたということが、スズキというメーカーの偉大さを示している。ちなみにエンジンは、セピア系のパーツが流用できるので、中古車を手に入れたとしても、そこそこ延命はしやすいだろう。
SPECIFICATIONS
■エンジン:空冷2スト単気筒(49㏄)
■最高出力:6.5㎰/6500rpm
■重量:66㎏
■当時価格:17万5000円
※この記事は月刊モトチャンプ2022年7月号を基に加筆修正をしています


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