名前からして攻めていた! スズキは昔から「変化球」の名手だった

今振り返ると、スズキって昔からちょっと変わったメーカーだった。もちろん、それは悪い意味じゃない。むしろ「そんな発想アリ!?」を本気でカタチにしてしまう、いい意味での“変化球”メーカー。ホンダやヤマハが王道を磨き上げていた時代でも、スズキだけは少し違う角度から勝負してきた。しかも面白いのは、その個性をそのまま車名にしてしまうところ。ギャグ、ストリートマジック、チョイノリ……どれも一度聞いたら忘れられない名前ばかりだけど、不思議と中身もその名前に負けていない。むしろ、「こんなバイク作っちゃったの!?」という驚きごと、ネーミングに詰め込まれているように感じる。

80年代のスズキ変化球といえば、やっぱり1986年に登場したGAGだろう。GSX-R風のフルカウルをまとったミニサイズレプリカ……なのだが、実車を前にすると「ちっちゃいよねぇ〜!」と言いたくなるサイズ感がたまらない。体格の良い人には少々厳しそうだけど、専用設計のフレームやアルミステップ、フロントディスクブレーキなど、車名と違って作り込みはしっかり本気。空冷4サイクル単気筒SOHCエンジンは最高出力5.2psで、マニュアルクラッチ付き4段リターンを組み合わせる。速さだけで勝負するのではなく、「小さくても本気で遊べるプレジャーバイク」を作ってしまうあたりが、実にスズキらしい。

さらにGAGはカラーも濃かった。青/白の定番レプリカ色だけでなく、「バトルプレーン」色、ピンクス、ポップアートといった個性派カラーまで用意され、シートやホイールの色まで凝っていたのだから抜かりない。中には不人気だった色もあったけれど、今となってはそのクセの強さも魅力である。赤ベースのポップアートにヨシムラ製キットを組んだらカッコ良さそうだし、カタナ外装の「ギャガタナ」なんて遊び方まであった。エンジンが4ストバーディー系ではなく、もし2ストだったら歴史が変わっていたかも……なんて考え出すと悔しくて夜は8時間しか眠れないが、GSX-Rがモチーフなら4ストであることにも妙な納得感がある。

とはいえ、GAGの立ち位置は単なる小さなレプリカでは終わらない。見方を変えれば、スズキ版モンキーを作りたかったのでは? なんて推理もしたくなる。いやいや、それならエポがあるじゃないか、バンバン50だって対等に戦えたはず、ウルフ50の二代目も忘れちゃ困る、マメタンは……少し違うかな? そんなふうに過去のスズキ原付まで引っ張り出したくなるのも、GAGという存在がいかに“スズキらしさ”を濃縮していたかの証拠だろう。結局、GAGのレプリカ路線は後のYSRやNSRに主役を奪われたが、ミニバイク好きの記憶に残る一台であることは間違いない。

SUZUKI GAG

[SPECIFICATIONS]
全長×全幅×全高:1540mm×610mm×870mm
ホイールベース:1080mm
シート高:610mm
車両重量:64kg(乾)
エンジン種類:空冷4スト2バルブ単気筒
総排気量:49cc
最高出力:5.2ps/7000rpm
最大トルク:0.57kgm/6000rpm
燃料タンク容量:7L
燃費:121km/L(30km/h定地走行)
変速機形式:4速リターン
ブレーキ(前・後):ディスク・ドラム
タイヤ(前・後):3.50-10・3.50-10
価格:18万3000円
※スペックは86年モデル

むしろ笑ってほしい? 当時のカタログ

GSX-R風フルカウルをまとったミニサイズレプリカ……だけど目指しているのは速さではなくみんなの笑顔! 根っこはモンキーといっしょだね。


「待ってました!」を形にしたストリートマジック

GAGのレプリカ路線が80年代のスズキらしさなら、90年代後半のストリートカルチャーにドンピシャで刺さったのが1997年登場のストリートマジック(略してストマジ)だ。「無段変速で、こういう車両があったらなぁ」と想像していた人の前に、本当に出てきてしまった一台。スクーターの手軽さに、バイクらしいルックスとニーグリップできる車体構成を組み合わせた発想は、まさに「待ってました!」である。公式には「速い、カンタン、カッコいい」を提案する新しい形のスポーツスクーターで、50cc 2サイクル強制空冷エンジンは最高出力7.2ps。Vベルト無段変速だからATでラクチン、それでいてツインチューブフレームや前後12インチタイヤ、フロントディスクブレーキなど、走りの雰囲気はかなり本格派だった。

しかもストマジは、単に変わったスクーターではない。遊べるバイクというか、ある意味では「最強のウイリーマシン」。ZZのエンジン部品を使えたのもありがたかったし、NSR50のフロントフォークを移植するカスタムも理に適っていた。エンジンを車体中央寄りに置いたマス集中感のあるレイアウトや、後方にバッテリーを積むパッケージングも、見た目の奇抜さだけではない“ちゃんとした理由”を感じさせる。初期のストリート感ある姿も良いけれど、気づけばオフテイストを強めたストリートマジックIIが主流になっていったのも、このバイクのキャラクターをよく表している。

そしてストリートマジックといえば、やっぱり長瀬智也さんが出演したCMだ。「オレマジ、ストマジ」というインパクト抜群のコピーは、当時を知る人なら今でも耳に残っているはず。泣く子も黙る長瀬くんに、ちょっとオヤジギャグみたいなコピーを言わせてしまうスズキ、やっぱり素晴らしい。実際に新車で買った人の中には「大幅値引きしてくれたのを覚えている」なんて記憶もあるだろう。そう、リーズナブルに面白いバイクを届けてくれるのもまたスズキの魅力なのだ。ちなみにオーナー目線で見ても、軽くてパワフル、アップライトなポジションで通学快速としても優秀。独特のツインスパーフレームは外車っぽく見られることもあり、「これって原付なの?」と言われることも多かったというのだから、やっぱり普通じゃない。

SUZUKI STREET MAGIC

[SPECIFICATIONS]
全長×全幅×全高:1635mm×710mm×965mm
ホイールベース:1080mm
シート高:610mm
車両重量:73kg(乾)
エンジン種類:空冷2スト単気筒
総排気量:49cc
最高出力:7.2ps/6750rpm
最大トルク:0.82kgm/6000rpm
燃料タンク容量:6.4L
燃費:47km/L(30km/h定地走行)
ブレーキ(前・後):ディスク・ドラム
タイヤ(前・後):110/80-12・120/80-12
価格:17万9000円
※スペックは97年モデル(STREET MAGICⅡ)

当時のカタログ&誌面広告

・忘れもしない名コピー「オレ、マジ スト、マジ」。むちゃくちゃカッコ良かった長瀬智也くんにオヤジギャグを吐かすスズキって、素晴らしい。 ・バイクのルックス+スクーターの駆動。「こんなバイクがあったら楽しいだろうな~」がカタチになったのがストマジだった。待ってた人、多し!

チョイノリは5万9800円だけじゃない。究極の引き算だった

リーズナブルなスズキの魅力、その最たる存在が2003年に登場したチョイノリだ。新車価格は、衝撃の5万9800円。ゴーキュッパで原付が買えるというインパクトは絶大で、「コスパ重視とはいえ、こっちが引いちゃうほど安い」と思った人も多かったはずだ。しかし、チョイノリの凄さは単に安かったことではない。50ccスクーターの主用途である通勤、通学、買い物など近距離移動に機能を絞り込み、軽量化、合理化、低コスト化を突き詰めた結果として生まれた安さだったのである。

もちろん、その割り切りっぷりはかなり強烈だった。エンジンは21世紀のスクーターとしては珍しい空冷4サイクルOHV単気筒で、最高出力は2.0ps。駆動は一般的なスクーターのVベルト無段変速ではなくチェーンを採用し、車体も乾燥重量39kgという軽さを実現していた。カムが樹脂製だったため、カム山がすり減ってしまうという話もあり、後に対策品が出たのも有名なところ。リジッドサスも思い切った割り切りだし、初期型には距離計すらなかったはず。良くも悪くも簡素。でも、そこまで徹底したからこそ、チョイノリはチョイノリたり得たのだ。

さらに面白いのは、海外生産全盛の時代に国内生産でこの価格を実現したこと。部品点数を減らし、ボルトやナットの数まで合理化させて必要なものだけを残す。そうして「下駄に徹した」結果、10万台以上を売るヒット作になったのだから、まさに企業努力の賜物である。チョイノリSSのような派生モデルが登場したのも、その存在感が大きかったからだろう。ちなみにチェーン駆動と聞くと初代ジェンマ50を思い出す人もいるかもしれないし、ジャンクヤードで5000円均一のチョイノリを見かけたら「ちょっと欲しいな、それ」と思ってしまうのも、またスズキ好きの性なのだ。

GAGは小さなレプリカを本気で笑えるバイクにした。ストリートマジックは「こんな原付あったら楽しい」をそのまま形にした。チョイノリは便利さを極限まで削ぎ落とし、生活の足としての原付をゼロから考え直した。どれも王道ではない。でも、だからこそ記憶に残る。速いだけでも、便利なだけでもない。「面白い」を本気で商品化してしまうメーカー。それがスズキだった。そして、こういうバイクを面白がってしまうと、気づけばあなたも”スズ菌”に感染しているのかもしれない。GAGも、ストリートマジックも、チョイノリも。SUZUKIの変化球は、いつの時代もやっぱりサイコーなのだ。

SUZUKI CHOINORI

[SPECIFICATIONS]
全長×全幅×全高:1500mm×620mm×975mm
ホイールベース:1055mm
シート高:680mm
車両重量:39kg(乾)
エンジン種類:空冷4スト2バルブ単気筒
総排気量:49cc
最高出力:2ps/5500rpm
最大トルク:0.3kgm/3500rpm
燃料タンク容量:3L
燃費:76km/L(30km/h定地走行)
ブレーキ(前・後):ドラム・ドラム
タイヤ(前・後):80/90-10・80/90-10
価格:5万9800円
※スペックは03年モデル

ある種の極限モデルである

スクーターという乗り物を極限までシンプルにしたらどうなる? そのことをポップに体現したチョイノリ登場のインパクトは、5万9800円という価格とともに絶大だった。

こんなバリエーションやモデルもありました

可愛すぎたチョイノリを、男性向けにアレンジしたのがチョイノリSS。2003年登場で価格は1万円アップのロッキュッパ。ヤスッ!

「WOLFってこれだっけ?」なアナタは正常! こちら1982年登場のウルフ50は5.40-10の極太タイヤを履くバンバン50の後継機だ。

1986年登場のモレはカゴと平坦な荷台、バーステップ&レッグガードでビジネスにも大活躍。のちのスーパーモレは新聞配達仕様だ。

※この記事は月刊モトチャンプ2025年3月号を基に加筆修正を行っています

【モトチャンプ編集部】