カブ屋さんの裏側に、ジェンマが1匹、2匹、そして21台!?

群馬県太田市にある521ガレージといえば、スタイリッシュなカスタムスーパーカブや雑貨類が並ぶ、グッドセンスあふれるショップとして知られている。ところが案内されるまま店舗の裏側へまわると、そこには若尾さんの趣味の世界がどーんと広がっていた。

レトロ車やスクーターがぎっしり並ぶ中で、ひときわ濃い存在感を放っているのがスズキ・ジェンマシリーズ。しかも1台や2台じゃない。部品取り車まで含めると、なんと21台もあるという。

「これは何台あるのかな……。近所の解体屋さんに“ジェンマが入ったら全部買うから”って伝えていたら、こんなに集まっちゃって」。いや、笑いながら言う台数ではない。カブ屋さんの裏側に、カブより多いんじゃないかと思うほどのジェンマが眠っていたのだ。スーパーカブ専門店は仮の姿……ではないけれど、若尾さんの中でジェンマがかなり特別な存在なのは間違いない。

原点は、お母さんのために買われた一台だった

なぜ若尾さんは、なぜここまでジェンマに傾倒しているのだろうか。きっかけは、家にあった一台のジェンマだった。「発売当時、父が母のためにジェンマを買ったんですが、ほとんど乗らずに軒先に放置されていたんです。それをバイクの免許を取ったばかりの私が直して乗り始めたのが原点ですね」

ネットなどない時代である。分からないことを検索して一発解決、なんてできるはずもない。若尾少年はモトチャンプなどの雑誌記事を見て修理したという。ただし当時は正解が分からなかったから、なかなか思うようにはいかなかった。それでも、最初に向き合ったバイクがジェンマだったことは大きい。後にスーパーカブの楽しさにハマり、521ガレージをオープンさせるまでになる若尾さんだが、ジェンマに対する想いは薄れなかった。

「ボクにとってのレジェンドマシン!」そのひと言に、ただ古いスクーターが好きというだけではない、若尾さん自身の半生とともにあるジェンマへのLOVEが詰まっている。

ガレージ521代表
若尾祐基さん
バイクのカスタムを生業としつつ、一方で映画やドラマなどで使用するいわゆる“劇用車”のレンタルやリースも行っている若尾さん。納屋ガレージにはものすごい数の旧車がぎっしりと詰めこまれている。好きこそものの上手なれ──を地で行く無類のホビーストだ。

80年代が好き、ジェンマが好き!

いま見ると、ジェンマには“昭和レトロ”という言葉がピッタリだ。和製ベスパと呼ばれていたスタイルはいま見ても魅力的だし、ポンポンと響く2スト独自の排気音も雰囲気ばっちり。エンジンなどのメカニズムからは、昭和のエンジニアが「良いものを作ろう」としていた気持ちが伝わってくるという。

もちろん弱点がないわけではない。むしろ古いバイクだから、修理や維持には手間がかかる。それでも若尾さんにとってジェンマは、最初のバイクであり、80年代の空気をそのまままとった存在でもある。

521ガレージの店内には、バイクの数より多いのでは? と思うほどホビーアイテムがところ狭しと並んでいる。カブも好き。雑貨も好き。80年代が好き。そしてジェンマが好き。あふれんばかりの遊び心でカスタムカブを世に送り出す若尾さんの感性は、このあたりの趣味の濃さにもつながっているのだろう。

若尾さんのところには、なぜかジェンマが寄ってくる!?

今回の取材でも、不思議なことがあったという。取材依頼があった直後、解体屋さんから「キレイなジェンマが出たよ」と連絡が入り、若尾さんはその車両を引き取ってきたばかりだった。

「今朝引き取ってきたんですけど、塗装はツヤがあってオリジナルのバックミラーやタイヤまで着いている極上車なんです。このタイミングにすごいなあって」これはもう、ジェンマのほうから若尾さんの元へ来ているのかもしれない。さすが若尾さん、ジェンマには相当愛されているようだ。

もちろん現存台数は多くない。若尾さんによれば、ジェンマは海外で売れないため比較的安価で手に入るレトロスクーターともいえるが、人気があまりないぶん現存数は少なめ。しかも純正部品は一切出ないので、修理するとなると難しい面もあるという。

「もし買うならエンジンが動く個体をおすすめします。それでもいつ壊れるか分からないんですからね。長持ちさせるには定期的に乗ってあげたほうがいい」

集めるだけではなく、直して、動かして、付き合っていく。若尾さんのジェンマ愛は、そこまで込みなのだ。

ジェンマ小物まで集まるのが本物のマニア!

若尾さんのジェンマ愛は、車両だけでは終わらない。カタログやサービスマニュアルはもちろんのこと、コレクターズアイテムもかなり濃い。

まずは背面の希少タイヤカバー。ジェンマ純正オリジナルデザインのタイヤカバーは、探したところで簡単に見つかるものではない。しかも状態も極めて美しいというから、ジェンマニア垂涎のアイテムだ。

さらに「ジェンマ」宣伝用の照明看板。中に蛍光灯が仕込まれている販促用の看板でこれはかなりレア。しかも二種類あって、保存状態もかなり良いというから恐れ入る。

純正アクセサリー系もすごい。「SGA(SUZUKI Genuine Accessories)」の表記も誇らしい専用純正ウインドシールドは、なんと袋入りの新品。風防の文字が誇らしげで、当時の空気までパッケージされているようだ。

プラモデルも外せない。有名なアオシマ製だけでなく、イマイやオタキといった国産プラモデルメーカーからもジェンマは発売されていた。つまり当時は、ミニチュアになってもおかしくないくらい“キャラ立ち”したスクーターだったのである。

そして店内ディスプレイ用と思われる販促フラッグ。これも一部で、若尾さんは他のPOPも所有しているという。ここまで来ると、趣味というよりジェンマ文化の保存活動。好きだから集める、好きだから直す、好きだから残す。若尾さんのジェンマ愛、やっぱり濃すぎる!

カブだけじゃ語りきれない、521ガレージの裏側

521ガレージといえば、カブカスタムのショップというイメージが強い。けれど、その裏側には、若尾さんの80年代好きとジェンマ愛がぎっしり詰まっていた。

古いスクーターだから手間はかかる。部品も出ない。修理も簡単ではない。それでも「良いものを作ろう」という時代の空気があり、和製ベスパと呼びたくなるスタイルがあり、ポンポンと響く昭和の音がする。若尾さんが21台も集めてしまった理由は、きっとその全部なのだ。

GARAGE 521
あふれんばかりの遊び心でスタリッシュなカスタムカブを世に送り出す「ガレージ521」。ショップにはバイクの数よりも多いホビーアイテムがところ狭しと並べられている。群馬県太田市世良田町1130-2 www.garage521.com

※この記事は月刊モトチャンプ2025年6月号を基に加筆修正を行っています

【モトチャンプ編集部】