スーパーカブにハマっても、ジェンマ愛は薄れなかった

その後、スーパーカブの楽しさにハマってショップをオープンさせるまでになるのだが、ジェンマに対する想いは薄れなかった。
「免許を取ったばかりの私が直して乗り始めたバイクだったってこともあるんでしょうが、和製ベスパと呼ばれていたスタイルはいま見ても魅力的だし、エンジンなどのメカニズムからは昭和のエンジニアの〝良いものを作ろう〞という気持ちが伝わってくるんです」。確かにいま見ると昭和レトロというワードがピッタリの出立ちや、ポンポンと響く独自の排気音は雰囲気ばっちり。
出会ったら「手に入れる」

それにしてもジェンマ50をはじめ、デザインは似ているが専用設計のジェンマ125やジェンマ80まで、単純にこれだけの台数を所有していることがスゴい。先に話したように近所の解体屋さんやバイクショップに声をかけていたからという理由もあるのだろうが、実際の流通状況はどんな感じなのだろうか。
「人気があまりないので現存台数はそれほど多くないですが、ジェンマは海外であまり売れないため比較的安価で手に入れることができるレトロスクーターといえるのではないでしょうか。ただし純正部品は一切出ないので、修理するとなると難しい面もあります」。
そう、若尾さんがジェンマを数多く持っているのは部品が手に入らないからでもあるのだ。現にエンジンの一部が壊れたとき、丸ごと載せ替えたこともあるという。そのため不動車を修理して走らせるというのはかなりハードルが高いそうだ。
長持ちさせるためには「定期的に乗る」ことが大事

「もし買うならエンジンが動く個体をお勧めします。そして長持ちさせるには定期的に乗ってあげたほうがいい。それでもいつ壊れるか分からないんですからね」と苦笑い。
若尾さんはジェンマに関するグッズもたくさん持っている。「実は不思議なことがありまして。今回、取材依頼があった直後に解体屋さんからキレイなジェンマが出たよって連絡があって、今朝引き取ってきたんですけど、塗装はツヤがあってオリジナルのバックミラーやタイヤまで着いている極上車なんです。このタイミングにすごいなあって」。
さすが若尾さん。ジェンマには相当愛されているようだ。では、実際にジェンマとはどんなスクーターなのか。若尾さんのコレクションを見ながら、50cc、80cc、125cc、そしてクエスト90まで見ていこう。
1981年 ジェンマ50|スズキスクーターの原点

ジェンマ50はいま見てもデザインが独特。エンジンパートをフルカバーで覆った外装、フルサイズのレッグシールド、片持ち式フロントサスペンション。ファミリーバイクとはひと味違う、“本格スクーターを作るぞ”というスズキの気持ちが感じられる。
搭載するのは最高出力3.5psの50cc空冷2スト単気筒エンジン。自動パワーシフト機構付きのオートマチック3段変速を採用しているあたりも時代を感じるポイントだ。スズキ初の本格スクーターとして登場した一台だけに、初球からこだわっていた。
若尾さんに聞いてみると、乗り味もやっぱり一筋縄ではいかないらしい。
「サスペンションの構造上、フロントブレーキをかけるとフロントがガクンと急激に沈み込むんですよ」
初めて乗った人はビックリするほどの挙動だという。そのためジェンマ乗りは、先にリヤブレーキを使って十分減速してから、フロントブレーキをかけるのだそうだ。こういう“乗り方の作法”まで含めて、ジェンマは味わい深い。
さらに搭載されているオートマチック3段変速は、ギヤの切り替わりにクセがあったり、外装を外すのが難しくてキャブレターの脱着にも手間がかかったりと、整備面でもなかなか手ごわい。でも、そこまで含めてジェンマらしさなのだろう。

センターボックス、リヤキャリア、左ミラーとともに、標準装備されているフロアマットも美しくコンディション抜群。

シート下端に配された金属製のモールによって高級感のあるシート。
主要諸元|1981年 ジェンマ50
全長×全幅×全高:1690×665×1040mm
軸間距離:1155mm
乾燥重量:65kg
エンジン:空冷2サイクル単気筒
総排気量:49cc
最高出力:3.5ps/5500rpm
最大トルク:0.5kgm/4500rpm
変速機:常時噛合式オートマチック3段
タイヤ:前後3.00-10
価格:13万9000円
1983年 ジェンマ80|現存数もかなり少ないレアモデル

50ccや125ccをはじめ、ジェンマは排気量違いのモデルも展開された。その中でも、現存数がかなり少ないと言われるのがジェンマ80だ。基本的な構造は50ccモデルから受け継ぎつつ、外観も大差なし。しかし中身は、50ccの排気量アップ版で済ませたような単純なものではない。エンジンマウントのシャフト径やショックなどもサイズの大きなものが採用されており、ホイールのPCDも異なるという。
車重と速度レンジのアップを鑑みてだろうか。50ccモデルと大きく異なる仕様として、フットブレーキも備わっている。装備は50ccのスーパーデラックスに準じてほぼフル装備。見た目は似ていても、実はしっかり80ccモデルとして作り込まれていたのだ。ただし、こうした専用部品が多いからこそ、現代で維持するのはかなり大変だという。

風防の内側には、スピーカー設置用のスペースが設けられたインナーパネルが備わっていた。さりげなく右だけのモノラル仕様。

車重と速度レンジのアップを鑑みてだろうか。50ccモデルと大きく異なる仕様として、フットブレーキが備わっている。
主要諸元|1983年 ジェンマ80
全長×全幅×全高:1710×650×1020mm
軸間距離:1155mm
乾燥重量:73kg
エンジン:空冷2サイクル単気筒
総排気量:79cc
最高出力:6.7ps/6500rpm
最大トルク:0.81kgm/4500rpm
変速機:常時噛合式オートマチック3段
タイヤ:前後3.00-10
価格:17万4000円
YUKI WAKAO’S GEMMA COLLECTION






若尾さんはジェンマに関するグッズもたくさん持っている。しかも、その内容がまた濃い。
背面の希少タイヤカバーは、ジェンマ純正オリジナルデザイン。探したところで簡単に見つかるものではないし、状態も極めて美しい。ジェンマ販促用看板は、中に蛍光灯が仕込まれている宣伝用の照明看板。しかもニ種類あって、保存状態もかなり良いというから驚く。プラモデルも有名なアオシマ製だけでなく、イマイやオタキなどの国産プラモデルメーカーからジェンマは発売されていた。つまり当時から、模型にしたくなるほどキャラの立ったスクーターだったということだろう。店内にぶら下げる宣伝用フラッグなども所有しており、若尾さんのジェンマコレクションは車両だけでは終わらない。ここまで来ると、ジェンマ文化の保存活動である。
1982年 ジェンマ125|ボリューミーな車体はオシャレさピカイチ

ジェンマ125は、50ccから始まったジェンマシリーズの長兄モデル。空冷4サイクル単気筒125ccエンジンを搭載し、ジェンマシリーズで唯一の4サイクル車だ。
最高出力は8ps。安定したトルクと好燃費を実現するため、燃焼室にはスズキ独自のSTDCC※1を採用していた。ダブルシート仕様とタンデムシート仕様の2タイプが用意されていたのも、シリーズの上級モデルらしいところ。
50ccや80ccモデルのような小さなクセの強さとはまた違い、125ccモデルには大人っぽいゆとりと上級感がある。大きめの角張ったテールランプと、その周囲に配された金属モールのあしらいなどは、まんま自動車の流儀と言えるくらいの仕立てだ。
※1 STDCC(Suzuki Twin Dome Combustion Chamber=スズキ・ツイン・ドーム・コンバスチョン・チャンバー=2ドーム形燃焼室)
吸入された混合気はシリンダーヘッドに設けられた2つのドームにより渦流(スワール)を発生し、スキッシュ効果によりさらに燃焼しやすい理想的な状態になる。この独自のシステムにより、スピーディーな燃焼が可能となり、ハイパワーと抜群の燃費特性を実現する。

「センターボックス」と表現されるトランクの中には、黒い樹脂で包まれたホーンの後端部分が見える。空気圧の指定値シールも貼付。

大きめの角張ったレンズと周囲に配された金属モール。テールランプのこのデザインのあしらいは、自動車に通じる部分だ。
主要諸元|1982年 ジェンマ125
全長×全幅×全高:1770×675×1070mm
軸間距離:1250mm
乾燥重量:92kg
エンジン:空冷4サイクル単気筒 SOHC2バルブ
総排気量:124cc
最高出力:8ps/7500rpm
最大トルク:0.91kgm/4000rpm
変速機:常時噛合式オートマチック3段
タイヤ:前後3.50-10
価格:23万9000円
1986年 ジェンマ・クエスト|ふくよかな二代目は、また別のオシャレ感

1986年にはジェンマがフルモデルチェンジし、ジェンマ・クエストへ進化した。初代ジェンマの直線的でレトロな雰囲気から一転、曲線を用いたふくよかなボディラインが特徴。誌面の言葉どおり、ボリューミーな車体はオシャレさピカイチだ。
50cc版では最高出力が6.5psまで一気に引き上げられ、変速もそれまでのオートマチック3段からVベルトによる無段変速方式へ変更された。初代よりも近代的で、扱いやすく、少し大人っぽい。かわいいだけでは終わらない、80年代中盤らしい上質さが漂っている。
なお、クエストには90ccクラスの姉妹車も存在した。クエスト90は実排気量82ccで、最高出力7.2ps/6500rpm、最大トルク0.87kgm/5500rpmを発揮するモデル。写真は50ccモデルだが、こうした排気量違いの展開も含めて、ジェンマシリーズらしさを感じさせる。

アナログ指針式ながら、近未来的なメーターデザインが特徴のクエスト。速度表示のほかにウインカーインジケーター、ハイビームインジケーターランプがあり、当時の原付モデルらしく30km/h以上速度が出ると点滅する「速度警告灯」も装備。
主要諸元|1986年 ジェンマ・クエスト
全長×全幅×全高:1640×645×995mm
軸間距離:1150mm
乾燥重量:60kg
エンジン:空冷2サイクル単気筒
総排気量:49cc
最高出力:6.5ps/6500rpm
最大トルク:0.72kgm/6000rpm
変速機:Vベルト無段変速
タイヤ:前後3.00-10
価格:13万9000円
グッドセンスがたくさんのファンを呼ぶ「ガレージ521」

GARAGE 521
あふれんばかりの遊び心でスタリッシュなカスタムカブを世に送り出す「ガレージ521」。ショップにはバイクの数よりも多いホビーアイテムがところ狭しと並べられている。
群馬県太田市世良田町1130-2
tel 0276-55-0399
www.garage521.com
※この記事は月刊モトチャンプ2025年6月号を基に加筆修正を行っています
【モトチャンプ編集部】
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