原付にもアメリカンブーム到来! 二度の流行が生んだ個性派ジャンル

1970年代後半から90年代にかけて、日本では二度にわたるアメリカンブームが巻き起こった。その人気は大型車だけにとどまらず、原付や125ccクラスへも波及。小さな排気量でもアメリカンスタイルを楽しみたいというライダーが増え、各メーカーは個性豊かなモデルを次々と投入していった。
その始まりとなったのが、1977年に登場したスズキ・マメタン50だ。RG50系エンジンにチョッパー風デザインを組み合わせた異色の一台で、それまでの原付にはない世界観を打ち出した。1980年にはヤマハがRX50スペシャルを投入し、1982年にはカワサキAV50、ホンダMCX50も登場。各メーカーが参入したことで、原付アメリカン市場は一気に活気づいていく。
ただ、この頃は既存モデルをベースにハンドルやタンク、シートなどを変更した派生モデルも多く、「アメリカン風」の雰囲気を楽しむモデルが中心だった。そんな流れを大きく変えたのが、1986年に登場したジャズである。
それまでの”アメリカン風”から、一気に”本格派”へと進化。ティアドロップタンク、寝かせたフロントフォーク、ロングホイールベース、ローシート、クロームメッキパーツなど、本格アメリカンのエッセンスを50ccへ凝縮し、「小さくても本物らしい」という新しい価値を作り上げた。
そして90年代に入ると、日本は第二次アメリカンブームを迎える。大型ではスティードやドラッグスター、バルカンなどが人気を集め、その熱気は原付や125ccクラスにも波及。1995年にはマグナ50、125ccではエリミネーター125やマローダー125など、本格派スタイルを追求したモデルが続々と誕生した。80年代が「アメリカン風」を楽しむ時代なら、90年代は「本物らしさ」を追求した時代だったのである。

ホンダ・ジャズ(1986)
原付アメリカンを”本格派”へ押し上げた立役者。ロング&ローのフォルムにティアドロップタンクやクロームメッキパーツを採用し、大型アメリカンさながらの雰囲気を演出した。写真はメッキタンクを装着した希少な「ジャズ・スペシャル」で、マグナ50登場後も併売されるほど高い人気を誇った。
スペック:・エンジン:空冷4ストローク単気筒 49cc・最高出力:4.0ps・最大トルク:0.43kgm・タイヤ:F2.50-16/R4.50-12

小さいのに本気! 贅沢すぎる作り込み!

改めて見て驚かされるのは、その作り込みだ。当時は車種ごとに専用タンクや専用フレーム、専用外装を与えることも珍しくなく、「このモデルだけ」のためにコストを掛ける余裕があった時代でもある。だからこそ30年以上経った今でも、他にはない存在感を放っている。
マグナ50はタンク上メーター、クロームメッキパーツ、ワイドハンドル、ローシート、メガホンマフラーなど、大型アメリカン顔負けの装備を惜しみなく投入。フロントにはディスクブレーキまで採用され、「50ccだから」という妥協をまったく感じさせない。ジャズも負けていない。ロングホイールベースに寝かせたフロントフォーク、細身のスポークホイールなど、どこから見ても本格派。メッキタンクを採用した「ジャズ・スペシャル」は、今見ても思わず見惚れてしまう存在感を放つ。
さらに驚くのは、スクーターにまでアメリカンという世界観が広がったことだ。ホンダ・ジョーカーはリード系スクーターをベースにしながら、ロー&ロングなシルエットやベイツ風ヘッドライト、ディッシュホイール、クロームメッキパーツを採用。「スクーターでもアメリカンは成立する」という遊び心あふれる一台だった。そのほかにもAV50、MCX50、ランナウェイ、ポップギャル、エリミネーター125、マローダー125、CBX125カスタムなど、各メーカーが個性豊かなモデルを展開。「ミニバイクだから手を抜いてOK」ではなく、ちゃんと満足できるモデルが多く、自分らしいスタイルを楽しめる土壌がそこにはあった。もちろん現在ではノーマル車は年々少なくなっているが、中古市場にはまだ比較的コンディションの良い個体も残っている。人気モデルは純正部品や社外パーツにも比較的恵まれているため、「育てながら乗る」という楽しみ方ができるのも、この世代ならではの魅力ではないだろうか。やっぱすごいよね?日本のミニバイク文化って。

ホンダ・マグナ50(1995)
第二次アメリカンブームを象徴する一台。タンク上メーター、メッキパーツ、フロントディスクブレーキなどを惜しみなく採用し、50ccとは思えない本格的なスタイルを実現。現在も人気が高く、カスタムベースとしても定番の存在だ。
スペック:・エンジン:空冷4ストローク単気筒 49cc・最高出力:4.5ps・最大トルク:0.38kgm・タイヤ:F80/100-16/R4.50-12

初期アメリカンはチョッパースタイルが基本

カワサキ・AV50(1982)
カワサキ初の本格原付アメリカン。新設計4ストロークエンジンを水平レイアウトした意欲作で、当時としてはかなり個性的な一台だった。
スペック:・エンジン:空冷4ストローク単気筒 49cc・最高出力:6.1ps・最大トルク:0.67kgm・タイヤ:F2.75-14/R4.00-10

ホンダ・MCX50(1982)
ハイパワーな2ストロークエンジンと鋭角的なスタイリングが特徴。当時のアメリカンとしては珍しく、スポーティな雰囲気を色濃く残していた。
スペック:・エンジン:空冷2ストローク単気筒 49cc・最高出力:7.0ps・最大トルク:0.65kgm・タイヤ:F70/90-19/R100/90-16

ハズシでいくか本格派で攻めるか アメリカンスクーター

ホンダ・ジョーカー(1996)
「スクーターなのにアメリカン」という発想で話題になった異色作。リードをベースにベイツ風ヘッドライトやワイドハンドルを採用し、ロー&ロングなスタイルを実現。今見ても唯一無二のキャラクターだ。
スペック:・エンジン:空冷2ストローク単気筒 49cc・最高出力:4.9ps・最大トルク:0.62kgm・タイヤ:前後100/90-10

ホンダ・ランナウェイ(1982)
ベンリィ系エンジンをベースに、チョッパースタイルへ仕立てた個性派。アップハンドルではなく、寝かせたフロントフォークなどでアメリカンらしさを演出した。
スペック:・エンジン:空冷2ストローク単気筒 49cc・最高出力:3.1ps・最大トルク:0.43kgm・タイヤ:F2.25-16/R2.50-14

ヤマハ・ポップギャル(1982)
女性向けモデルながら、寝かせたフロントフォークやシート形状でアメリカンらしさを演出。名前までインパクト抜群な、80年代らしい遊び心あふれる一台。
スペック:・エンジン:空冷2ストローク単気筒 49cc・最高出力:3.0ps・最大トルク:0.42kgm・タイヤ:F2.25-14/R3.00-12

125ccモデルは車格も重厚感もUP!

カワサキ・エリミネーター125(1997)
250譲りの迫力あるスタイルで人気を獲得。二輪教習車にも採用されたほど扱いやすく、小排気量アメリカンの代表格として長く愛された。
スペック:・エンジン:空冷4ストローク単気筒 124cc・最高出力:13ps・最大トルク:1.0kgm・タイヤ:F90/90-17/R130/90-15

スズキ・マローダー125(1998)
GN125譲りのエンジンを搭載したクルーザー。大きめの燃料タンクによる航続距離の長さも魅力で、ゆったりツーリングを楽しみたいライダーから支持された。
スペック:・エンジン:空冷4ストローク単気筒 124cc・最高出力:12ps・最大トルク:1.0kgm・タイヤ:F110/90-16/R130/90-15

ホンダ・125Tカスタム(1982)
ベンリィ系譲りの空冷並列2気筒エンジンを搭載した異色のアメリカン。ティアドロップタンクやアップハンドルなどでクルーザーらしい雰囲気を演出しながら、2気筒ならではのスムーズな吹け上がりと扱いやすさも魅力だった。
スペック:・エンジン:空冷4ストロークOHC並列2気筒 124cc・最高出力:12ps・最大トルク:0.96kgm・タイヤ:F3.00-17/R3.50-16

ホンダ・CBX125カスタム(1984)
CBX125Fをベースにツーリング志向へアレンジした異色のモデル。ロードスポーツの軽快さとアメリカンテイストを融合させた、当時らしい一台だった。
スペック:・エンジン:空冷4ストローク単気筒 124cc・最高出力:15ps・最大トルク:1.1kgm・タイヤ:F90/90-18/R110/90-16

小さな排気量でも、大きなアメリカンへの憧れは本物だった。だからこそメーカーはメッキパーツを惜しみなく使い、専用タンクや専用フレームまで用意し、「50ccだから」と妥協しない一台を作り上げたのである。今では新車で味わえない世界観だが、中古市場にはまだその魅力を体感できる車両が残っている。「いつか乗ってみたい」と思っていたなら、探し始めるには今がちょうどいいタイミングかもしれない。

※この記事は月刊モトチャンプ2020年10月号を基に加筆修正を行っています

【モトチャンプ編集部】