まずはトヨタ・ハイエース用から発売、価格は26万9500円

カヤバは2026年1月の「東京オートサロン2026」で次世代サスペンションシステム「ActRide(アクトライド)」の発売を発表した。ActRideはスマホアプリで減衰力の設定を調整できるセミアクティブ式の減衰力可変ダンパー(ショックアブソーバー)である。対象車種は現在のところトヨタ・ハイエース/レジアスエース(200系全グレード2WD/4WD)のみ。メーカー希望小売価格は26万9500円(税込)。カヤバの他商品と同様に国内の小売店またはECを通じての販売となる。

 スマホで乗り心地を操作できる電子制御サスペンション「ActRide(アクトライド)」。

「なぜ、ハイエースから?」の質問にカヤバは、「積載量の変化が非常に大きい点。仕事だけでなく趣味でも使われるなど、使われ方が非常に幅広く、ActRideの性能を充分に活かせるとの考えから」と回答している。

ActRideは4本のダンパーとコントローラー、それにダンパーとコントローラーをつなぐハーネスで構成されている。コントローラーにはIMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)が内蔵されている。いわゆる6軸センサーで前後(X軸)、左右(Y軸)、上下の加速度と、各軸まわりの角速度(ロール、ピッチ、ヨー)を計測する。ActRideはIMUで車両の動きを検知。その情報をもとに最適な減衰力をコントローラーが演算し、ダンパー減衰力を可変制御する。セキュリティの観点から、車載ネットワークにはつながっておらずスタンドアローンで機能する。また、スマホに内蔵するGPS情報から得た車速を制御パラメーターとして利用する。

ダンパー
コントローラー

減衰力可変ダンパーを標準で搭載するクルマはいくつも存在する。その多くはコンフォート、ノーマル、スポーツといったように、基準となる設定をベースに硬めか柔らかめに切り換える方式だ。この場合、ソフトだと乗り心地はいいが、強めの加速や減速、あるいは旋回シーンでは車体の揺れが大きくなりがち。スポーツは逆で、車体の揺れは少なく収まりもいいが、乗り心地は悪くなる方向である。

ActRideは車両挙動に応じて減衰力をリアルタイムに制御できるため、コンベンショナルなダンパーでは背反する性能を両立することが可能。快適な乗り心地を担保しながら、制動時のノーズダイブを抑えたり、旋回時のロールを抑えたりできるようになる。「常に制御を入れるわけではなく、必要なときに介入する。制御しすぎないところがポイントです」とは、開発に携わる技術者の弁。

ソレノイドバルブが生む高い応答性

高い応答性を実現できる理由は、減衰力の調整にソレノイドバルブを使っているから。カヤバは1982年にステッピングモーター式の減衰力調整ダンパーを実用化している。ダンパーの頂部に搭載するモーターでロータリーバルブを回転させると、オイルが通る面積が変わって減衰力を変化させる仕組み。減衰力は32段階に調整できた。

いっぽう、2016年に実用化したソレノイド式は、減衰力調整部に設けたバルブを押さえる力を電気的に制御する仕組み。電流を多く流すと圧が高くなってオイルが通りにくくなり減衰力は上がる。反対に、電流を弱くすると圧が低くなってオイルが通りやすくなり、減衰力は下がる仕組み。ステッピングモーター式のようにバルブを回転させる必要がなく、電気的に制御するため応答性は高い。ステッピングモーター式の応答時間が80ミリ秒(0.08秒)程度なのに対し、ソレノイド式は10ミリ秒(0.01秒)程度で、応答性は8倍。しかも、無段階で調整が可能だ。

ソレノイド部のアップ

スマホアプリで減衰力をチューニング

減衰力のセッティングと調整はスマホアプリの画面で簡単にできる。「チューニング」画面にはカヤバがあらかじめ設定した「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」の3種類のモードが用意されている。各モードの右側にある歯車のアイコンをタップすると、「カスタム」画面に移行し、「ライドコントロール(乗り心地制御)」「ハンドリングコントロール(操縦性制御)」「スピードアダプト(車速連携)」の3領域の制御を自分好みに調整できる。チューニング画面にある「Custom(カスタム)」のメニューも同様だ。

「カスタム」では最大6つのオリジナルの設定が保存できるようになっている。ここではまず、制御が介入しない状況での「ベース減衰」(コンフォート寄りかスポーツ寄りか)を決め、「ライドコントロール」「ハンドリングコントロール」「スピードアダプト」を調整していく。

また、カスタム画面には「オート」モードにオン/オフの選択肢があり、「オフ」のときはベース減衰で設定した減衰力固定で走る。「オン」にすると、路面が比較的フラットな環境ではベース減衰で走り、路面の凹凸やうねりを通過して入力が発生した場合は、ベース減衰を基準として減衰を増やす方向で制御する。ベース減衰は前後独立で設定できるので、乗車人数や荷物をたくさん積んでいるときはリヤの減衰力を高めに設定するなども可能だ。

3つのパラメーターで乗り味を作り込む

好みで設定できる3つのパラメーターのうち、「ライドコントロール」は、乗り心地面に関連。空間と車体の間に仮想のダンパーを設定し、あたかもクルマが空中から吊り下げられているようなフラットな乗り心地を目指す「スカイフック理論」をベースに制御を構築している。コンフォート側は路面からの細かな入力を抑える方向、スポーツ側はしっかりした乗り味にする方向となる。

「ハンドリングコントロール」は操舵時と加減速時の姿勢制御にまつわる調整項目。前述したようにActRideは車載ネットワークを利用しないので、ステアリング舵角やアクセルペダルの開度、ブレーキ液圧などの車両情報は使えない。では操舵入力や加減速をどう検知するかというと、IMUを使うのである。操舵した際の旋回挙動やアクセルやブレーキを踏んだときの挙動をIMUで瞬時にセンシングし、最適なタイミングで減衰力を制御する。

コンフォート寄りを選ぶとしなやかな動きになり、スポーツ寄りを選ぶとロールを抑えたキビキビした動きになる方向だ。ちなみに筆者の好みはベース減衰をコンフォート側に設定。ライドもコンフォート寄りにし、ハンドリングはスポーツ寄りにする。こうすることで、乗り心地と操舵した際の俊敏かつ安定した挙動が両立する。

「スピードアダプト」はスマホのGPS信号で得た車速情報に基づき、減衰力を上げていく制御。車速に連動してカーオーディオのボリュームを上げていく制御のダンパー版と言えるだろうか。オーディオと同じで、ActRideも車速連携のレベル(強弱)を調節できる。

スマホはセッティングを調整するメニュー画面としてだけでなく、モニターとしても使用できる。各輪のダンパーの減衰指令のほか、ロール、ピッチ、ヨーとGの変化を表示。運転しながら眺めるのはなかなか難しいが、楽しい表示には違いない。

東京オートサロン2026には、AE86型カローラ・レビン/スプリンター・トレノ対応のActRideが展示されていた。AE86は将来的な展開をイメージした車種として選択したという。減衰力の設定ひとつでクルマの乗り味は大きく変わる。走行シチュエーションや好み、乗員や荷物の多寡に応じて減衰力を調整できれば、クルマの楽しみは倍増しそう。大きな可能性を感じさせる製品だ。