『IKURA’s アメリカンフェスティバル2026』は
生憎の雨でも大盛況!

2026年7月5日(日)に静岡県駿東郡小山町にある富士スピードウェイにて、タレント&ソウルシンガーであり、カスタムプロデューサーとしても知られるIKURA(イクラ)ちゃんこと井倉光一さんがオーガナイザーを務める『IKURA’s アメリカンフェスティバル2026 』(以下、IAF)が開催された。
このイベントはIKURAちゃんの音楽活動のプロモーション的な性格の強いものだったが、回を重ねるごとに彼の好きなアメリカン・モーターカルチャー、モータースポーツ、オートバイ、ミュージックなどのテーマにしたお祭りとなり、運営形態や内容、会場、開催時期を変えながら今日まで開催を続けてきた。

毎年晴天に恵まれていたIAFであったが、今回ばかりは晴れ男のIKURAちゃんの神通力が効かず、天気はあいにくの雨となった。しかし、来場者は降りしきる雨をものともせずに盛り上がりを見せていた。
花形はアメ車のフルサイズセダン&クーペだが
「MALAISE ERA」にもスポットが当たる貴重なイベント

このイベントはカーショーやモーターサイクルショーのほか、本コース上ではエントリー車によるパレードランやヒストリックカー&バイクの走行会、豪華アーティストを招いてのスペシャルライブなど内容は盛り沢山なのだが、その中でもクルマ好きにとっての見所はやはり、全国からカスタムカーがエントリーするカーショーだろう。


その主役はやはりアメリカ車だ。主催者のIKURAちゃんの好みが伝播しているのか、とりわけ、IAFで目立つのがフルサイズのセダン&クーペである。

なかでも筆者の目を引いたのが、1960年代の“THE アメ車”とでも言うべきクルマに混じってエントリーしていた「MALAISE ERA(マレーズ・エラ」にカテゴライズされる数台のアメリカ車だった。

MALAISE ERAとは、人によってその定義は若干異なるが、1970年代中盤から1980年代中盤までのいわゆるアメリカ車暗黒期に生産された乗用車のことを一般に指す。

2年前のIAFリポートで紹介したダッジ・マグナム、プリマス・フューリー、クライスラー・ニューヨーカーがその代表例であるが、立て続けにアメリカの自動車産業を襲ったマスキー法、5マイルバンパー装着の義務化、オイルショック、CAFE(燃費規制)、ベトナム戦争後の財政赤字とそれに伴うインフレ高進=不景気で、メーカーを取り巻く環境が急速に悪化し、この時期のアメリカ車はパワーダウンや品質低下を余儀なくされた。
MALAISE ERA前半のアメリカ車は、排気ガス規制に対応するため各社のラインナップからは高出力・高圧縮エンジンが消え、上級モデルは低圧縮エンジンで必要なパワーを維持するために7~8Lクラスの大排気量エンジンを積むことが珍しくなくなった。

そして、大きく重いエンジンの搭載に加えて、安全規制の強化のために重い5マイルバンパーの採用も相まり、車重は大幅に増加。エンジンの低圧縮化と重量増でスポーティモデルの生産が困難になると、ビッグ3は保守的な富裕層を囲い込むために、開き直ったかのようにボディのさらなる大型化と豪華装備でラグジュアリー方向へと製品開発の舵を切った。

また、アメリカの自動車メーカー各社は、規制対応によって新車開発費が高騰すると、利益を優先するためにコストダウンのためシャシーや部品の共通化によるファミリー化を一層推し進めて行く。
その結果、1950年代の曲線と直線が複雑に組み合わさった贅沢さや派手さ、1960年代の女性のボディラインを想起させる妖艶さは鳴りを潜め、どのクルマも似たり寄ったりの常識的なスクウェアなボディに、厳ついフロントマスクを組み合わせ、クロームメッキで厚化粧したスタイリングになってしまった。

だが、アメリカ自動車産業の受難はまだまだ続く。マスキー法や安全規制への対応に見通しがついたタイミングで、1973年と1979年の2度に渡ってオイルショックが襲ったのだ。

これにより消費者の好みは贅沢な大型車から燃費の良い小型車へと一夜にして変わり、燃費の悪かったアメリカ車は古臭い存在として急激に人気を失い、アメリカの消費者は国産車に見向きもしなくなったのだ。

それに伴いビッグ3の生産した新車は行き場を失って「セールスバンク」と呼ばれる在庫置き場に積み上がった。もっとも深刻な事態に陥ったのがクライスラーで、その数は平時で5万台、ときには8~10万台にも積達したという。金額に直すと約10万ドル(当時のレートで邦貨換算して1824億円)にも達したという。

アメ車暗黒期と言われるMALAISE ERA
なぜアメリカ車が急速に落ちぶれたのか?
1978年、オイルショックの教訓からアメリカ政府はCAFEを導入。燃費の悪い乗用車を買い求めるユーザーには、購入時に「ガスガズラー税」(燃費が22.5mpg[約9.6km/L]を下回ると課税対象となり、1000~7000ドルが課税された。なお、トラックやSUVなどの商用車は当面適用除外となった)と呼ばれる税金を支払うことにになり、米政府はアメリカ国内で販売されるすべての自動車に燃費低減を求めた。
排気ガス規制や安全性強化という難題解決に喘いでいたビッグスリーは当然激しく抵抗し、熱烈なロビー活動によって当面規制値は緩やかなものとなったが、燃費性能の向上という難問を突きつけられた各自動車メーカーは、将来に備えて早急な対応を図る必要性に迫られた。

各社は不採算部門の整理や従業員の解雇を含む徹底的なリストラを行なう一方で、この頃から日本車に倣って主力車種の車体サイズをシュリンクし、燃費性能を向上させることを画策した。これがMALAISE ERA後半のクルマとなる。
ただし、経営陣は厳しいコスト管理の下、エンジンやシャシー、ブレーキ、サスペンションなどの主用部品は旧モデルからのキャリーオーバーが厳命されており、おまけに設計思想も旧来のものをほぼそのまま踏襲したものが多く、手足を縛られた状態で結果のみを求められた開発現場はその分疲弊した。

また、インフレ下における不況とベトナム戦争の敗戦は、アメリカ国民に深い衝撃と幻滅をもたらしていた。それによってアメリカ社会に飲酒や麻薬、暴力、犯罪が蔓延し、社会にモラルハザードを引き起こしていた。さらに1970年代は世界的な労働運動の高まりの季節であった。
アメリカ国内の製造業でもストライキが多発し、工場の生産性は下降線を辿って行った。こうした社会情勢が労働者の意欲にも影響を及ぼし、社内の空気は一層悪化し、製造ラインで働く人々の労働意欲は地の底へと落ちていた。このような状況で生み出されたクルマの品質に影響が出るのは当然と言えるだろう。
現場のやる気のなさを現すエピソードとして「ドアトリムを外したらコーラの空き瓶が出てきた」との都市伝説が生まれ、「休日明けの月曜日に作られたクルマは買うな。同じく休日前の金曜日に作られたクルマも買うな。どちらも工員が気もそぞろになって品質が悪くなるから」などとユーザーの間で囁かれていたのも、ちょうどこの頃の話である。
実際、製造ラインで働く労働者の中には、平然と酒を飲み、タバコを吸いながら働く人間も数はそう多くはないものも存在した。常識的にはこのような不良社員は即刻解雇とされるべきなのだろうが、UAW (全米自動車労働組合)の強いアメリカの自動車産業では、そのような人間をも手厚く保護されたのである。

それでも製品に魅力があれば救いはあったのだが、それをひと目でユーザーに訴求するはずのスタイリングは、1980年に登場した8代目フォード・サンダーバード(ボックス・バーズ)に代表されるように、今日の目で見ると1世代前のアメリカ車を無理やり縮小させたかのようで寸詰まり感が強く、カッコがあまりよろしくない。さらに性能面でも見るものがないとなれば、アメリカ国内でシェアを伸ばしつつある輸入車に対し、ビッグ3は防戦一方だったのも頷ける話であろう。

今日でもクライスラー復活の立役者として高く評価されるKカーは、この時代の数少ない良心とでも言うべき小型車で、FWDレイアウト採用による経済性と合理性、実用性が当時のユーザーから支持を集めたものの、同時代の日本車や欧州車や比べて性能や品質、スタイリングなどに特筆すべき点がなく、ましてやカーマニアを満足させるような趣味性は皆無であった。

アメリカの自動車史を語る上でKカーは外せない1台ではあるが、今日ではすっかり忘れ去られた存在となっており、コレクターアイテムとしての対象でもないことからアメリカ国内でも残存数は決して多くはないようだ。

MALAISE ERAの終焉へ向けて嚆矢となったのが、1979年に登場した3代目マスタングであり、そのコンセプトをさらに昇華した1983年に登場した9代目サンダーバード(エアロ・バーズ)であった。そして、決定打となるのが、1985年に登場した4ドアセダン/5ドアステーションワゴンの初代トーラスだった。

これら新世代のフォード車の登場は、欧州車に範を取ったエアロダイナミクスボディに、電子制御技術、合理的で効率的な設計、品質の大幅改善によりアメリカ車を復活させる契機となった。さらに3次元触媒の採用により、非効率な低圧縮エンジンに別れを告げ、再びアメリカ車はパワーを取り戻して行くのである。
フォードの成功はGMやクライスラーにも強く影響を及ぼし、各社は利益率の低いコンパクトカーから軸足をFWDレイアウトを採用したインターミディエイト車へと開発の軸足を移し、フルサイズ車やマッスルカーも元気を取り戻し、アメリカの自動車産業は回復期へと向かうのである。

また、1981年に成立したレーガン政権は外圧をかけることで日本政府に自動車の対日輸出規制を飲ませる一方、大幅な減税、財政支出の削減、規制緩和、そして金融引き締めによるインフレ抑制の4つの柱によるレーガノミクスを成功させ、アメリカ経済を回復させたことがビッグ3復活の追い風となった。
世界的に見れば不人気車かもしれないが
オーナーにとっては唯一無二の愛車

さて、ざっくりと解説したところで、まるで良いところのないように思われるMALAISE ERAのアメリカ車ではあるが、じつは筆者の大好物でもある。これは幼少期にTVでオンエアされたハリウッド映画や街中で時折見かけた実車の影響が強いのだろうが、この時代のアメリカ車がどうにも愛おしくてたまらないのだ。

それに個性が薄く、どのクルマも似たり寄ったりと評されることの多いこの時代のアメリカ車だが、今日の目で見ると時代性というか、当時のアメリカ車だけが持つ個性に気づくだろう。
ボディサイズはデカイ、もしくは不自然に小さい。そして、どちらにしても妙にイカツイ。まるでニューメキシコあたりの片田舎でコンビニ強盗を働くような、たしかにワルだが小物感漂う雰囲気が漂う。

なかでもMALAISE ERA前半に登場した高級車の排気量は、史上もっとも大きなエンジンを搭載するケースが少なくなく(低圧縮エンジンのため排気量に比してパワーはそれほどでもないが……)、燃費規制が厳しくなった昨今、ピックアップトラックやSUV用を除けば、このような巨大なエンジンが量産車に搭載されることは今後2度とないだろう。これが全長6m近く、全幅2mオーバーの恐竜的進化を遂げた大きく重いボディに乗せられているのだ。燃費などというみみっちいことを考えてはいけないのである。
また、ボディサイズをシュリンクしたMALAISE ERA後半のクルマも愛おしい。品質や価格を武器にアメリカ市場を荒らしまくった日本車や欧州車に対抗するため、普遍化を狙いつつ、どうにかしてアメリカ車らしい個性と魅力を残そうと残そうと足掻いていた時期のクルマたちである。

なかには珍妙なデザインのクルマや、ハイテク装備をいち早く導入したものの故障が頻発して失敗作の烙印を押されたクルマもあったが、いずれにしても座して死を待つのではなく、生き残りをかけて懸命に模索し、V8エンジンやアメリア国内で使いやすい最低限のボディサイズ、快適性やイージードライブなどの古き良きアメリカ車の伝統を残すべく、努力を重ねていた時期のクルマである。
はたから見れば、防戦一方で嵐が過ぎ去るのをただ耐え忍んでいるだけに見えるかもしれないが、この時代のアメリカ車には間違いなくアメリカ人のチャレンジスピリットがあったのだ。

たしかにこの時代のアメリカ車は、品質面に問題のある個体が存在したことは事実であるが、もともと不人気車ということもあり、残存数は日本はもちろんアメリカ本国でもそう多くはないだろう。
40年以上という歳月を前にして、”ハズレ”の個体や不具合を抱えた個体はとっくの昔に土に返っており、数少ないサバイバーは”アタリ”と見なしても良く、IAFにエントリーしたMALAISE ERAのアメリカ車は総じてコンディションが良好で、当時の空気を今に伝える希少なサバイバーだ。大切に保存されているこれらのクルマは、実車を目の前にして「よくぞ残してくれた!」と感謝の言葉を伝えたくなるほどだ。

日本はけっして古いアメ車に優しい国ではない。自動車税は排気量4500ccを超えると年間8万8000円、6000ccを超えると年間11万1000円にもなる。おまけに新車登録から13年が経過すると”古いクルマに乗る罰金”とばかりに15%の割増を要求してくるのだ。
自動車重量税だってもちろん高い。この時代のアメリカ製の大型車は車重2t超えが珍しくなく、なかには2.5tを超えるものもある。基本税額は0.5tあたり4100円だが、自動車税同様に13年経過、18年経過で割増を要求する根拠不明瞭な謎ルールが適用される。さらにガソリン価格はこの30年で2倍に迫ろうという高騰ぶりだ。にもかかわらず、日本の平均年収は上がることなく横ばい状態にある。1980年代以前のように庶民にとってアメリカ車は再び高嶺の花になってしまった。

維持に当たってこれほどの逆風が吹いているにも関わらず、MALAISE ERAのアメリカ車の市場価値はほとんどない。それでも不人気車を維持し続けるオーナーの心意気。これを愛車に対する無償の愛と呼ばずして何と呼ぶのだろうか。彼らが愛車の維持を諦めてしまえば、博物館に展示されるような車種でもないので、日本国内で永遠に見ることができなくなってしまう。
彼らのエンスージアスト精神によって私たちはこの希少の時代な生き証人を目にすることができるのだ。どうかオーナーのみなさんには末長く愛車をかわいがっていただき、イベントで私たちの目を楽しませて欲しい。

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