「混流生産」とは?

現在、自動車工場では同じ生産ラインで複数車種を同時に生産する方式が一般的で、これを「混流生産」と呼ぶ。どのくらいの車種を扱うかはメーカーや工場、車種によりけりだ。例えば、以前見学した三菱自動車岡崎製作所ではアウトランダーとデリカD:5が同じラインを流れていた。

三菱自動車岡崎製作所のラインを流れるアウトランダーとデリカD:5(2023年2月撮影)

もちろんスバルの工場でもこの混流生産は行なわれており、今回、その最前線である矢島工場(群馬県太田市)の見学会が実施された。

スバル矢島工場の完成検査ライン。

スバルの混流生産は変種・変量・短生産

世界規模で厳しい競争にさらされている自動車業界では、各社で生産の効率化を目指してさまざまな施策が採られている。スバルでも
・フィジカルAIとロボティクス技術の導入
・全領域における物流最適化改革
・生産柔軟性の徹底的な追求
により生産の効率化を目指している。

矢島工場のバッテリー組立工程のうち、自動化されたプラズマ洗浄工程。

スバルは北米生産拠点であるSIA(SUBARU of INDIANA AUTOMOTIVE)、矢島工場、本工場で生産車種や台数を融通し合える「ブリッジ生産」と各工場での混流生産により、移り変わる需要に対して柔軟性と拡張性に富んだ生産体制を整えている。

SUBARU of INFDIANA AUTOMOTIVE Inc.

この、異なる車種を、需要に応じた数、短い期間で生産する「変種」「変量」「短生産」をスバルがこれからの時代を生き抜いていく原動力としていくことになる。

その最前線となる矢島工場

スバル矢島工場

今回、見学会が実施された矢島工場はこの混流生産体制の最前線となっている。スバルはトヨタとのアライアンスにより、初の自社工場生産EVであるトレイルシーカーをこの矢島工場で生産している。

スバル・トレイルシーカー

もちろん、トレイルシーカーのトヨタ版であるbZ4Xツーリングも同じラインを流れているが、それはOEM生産ではよくある形ではある。そこにさらにガソリンエンジン車も同じラインに流すというのだから大変だ。

トヨタbZ4Xツーリング

それぞれ異なるトヨタ流の生産体制とスバル流の生産体制をすり合わせる他、工程順の違いやモジュールの違いを吸収できる柔軟性が高く高効率なラインを構築。また、中京圏を中心とするトヨタ系サプライヤーと関東圏を中心とするスバル系サプライヤーの部品輸送の効率化などが行なわれた。

トヨタとスバルの違いの例として、トヨタはコイルスプリングとショックアブソーバーをサブアッセンブリとしてリヤサスペンションモジュールとして車体に一括搭載しているのに対し、スバルはリヤサスペンションモジュールを搭載してからコイルスプリングとショックアブソーバーを搭載していた。これをトヨタ方式に転換している。
トヨタとスバルでは車体の基準点が異なるため、基準位置に併せて柔軟に変更できる可動式の治具を用い、高効率な混流生産を実現。
取り付け用の治具に載せられたフロントドライブトレインとサスペンションモジュールのアッセンブリ。治具の青い部分が生産車に併せて都度変更できる部分。

また、これまで各サプライヤーから直接輸送されていた部品を、トヨタ系とスバル系それぞれの集約倉庫に一旦集め、そこから工場へと混載輸送する。これによりトラック輸送は50%減を達成したという。

完成検査ラインに並ぶスバル・トレイルシーカー(左)とトヨタbZ4Xツーリング(右)。

矢島工場では、EVであるトレイルシーカーとbZ4Xツーリングを生産するにあたり、搭載するバッテリー組み立ての建屋を用意(バッテリーユニット課)。このバッテリーユニット課で組み立てられたコンポーネンツはコンベアによって、隣接する組立工程(トリム課)建屋の作業箇所まで自動で運ばれている。

バッテリーユニット課(写真奥の建屋)から組立工程(トリム課)へ続くコンベアのブリッジ。
バッテリーユニット課から組立工程(トリム課)へ続く、バッテリーの搬送ブリッジ。
バッテリーを工程箇所まで運んでくるコンベアとエレベーター。
ボディ下側からバッテリーを搭載する。
バッテリーを乗せて来た台は再びバッテリーユニット課へと戻っていく。

意外と古いスバルの混流生産

スバルの混流生産の歴史は古く、その嚆矢はスバルが日産と提携していた1969年にスタートしたサニーの生産に遡る(本工場)。1989年からは矢島工場でパルサーを生産した」ほか、同年北米にいすゞと共同で設立したSIA(SUBARU ISUZU INDIANA=現・SUBARU of INDIANA AUTOMOTIVE)でいすゞ車も混流生産している。

日産サニー(1970年)
日産パルサー(1990年)

日産やいすゞとの提携解消後、GM傘下(1999年〜2005年)を経てトヨタと提携。生産能力に余剰のあるSIAではトヨタ・カムリを受託生産(2007年)。これはスバルの工場でトヨタ方式を採った最初の例となった。続いて2012年には共同開発車である86/BRZを本工場でスバル方式で混流生産。

トヨタ・カムリ(2006年)
トヨタ86(2012年)
スバルBRZ(2012年)

そして、2026年よりこの矢島工場でトヨタベースのクルマであるトレイルシーカー/bZ4Xツーリングをスバル方式で建立生産。さらに同ラインでスバルのガソリンエンジン車も混流させる形となった。

完成検査ラインに並ぶ(左から)トヨタbZ4Xツーリング、スバル・トレイルシーカー、スバル・フォレスター。

これも1969年に遡るスバルの混流生産が営々と積み重ねてきたものの成果と言えるだろう。

どうなる?大泉新工場

スバルの生産拠点は本工場、矢島工場、SIAに加え大泉工場があった。しかし、大泉工場は現在、新工場を建設中だ。この大泉新工場は来るべきEV時代のために、スバル自社開発EVの生産拠点となる予定だったが、EV市場の減速に伴いスバルは自社開発EVの生産を一旦保留。それに伴い、大泉新工場の生産体制も変わることになる。

建設中の大泉新工場。

スバルの生産体制としては、本工場ではインプレッサ/クロストレック、86/BRZ、レヴォーグ/レイバックを生産。矢島工場ではトレイルシーカー/bZ4Xツーリング、フォレスター、アウトバックを生産。SIAではインプレッサ/クロストレック、フォレスター、アセントを生産している。

工場生産車
本工場インプレッサ/クロストレック
86/BRZ
レヴォーグ/レイバック
矢島工場トレイルシーカー/bZ4Xツーリング
フォレスター
アウトバック
大泉新工場未定
SIAインプレッサ/クロストレック
フォレスター
アセント
スバル完成車生産工場

スバルでは、各工場で重複する車種(インプレッサなど)は前述の通りブリッジ生産される。また、将来的にはSIAでもEVとガソリンエンジン車の混流生産が検討されている。

SUBARU of INFDIANA AUTOMOTIVE Inc.

自社開発EVの生産が先送りになった大泉新工場はやはりEVとガソリンエンジン車の混流生産体制が想定されている。車種等については現時点では発表されていないが、他工場と同じくブリッジ生産体制に組み込まれることだろう。

完成検査ラインの充電テスト。
充電テストで使用される仕向地別のコネクタ。
EV失速が直撃か? スバルが独自EV計画を延期、EV専用新工場はガソリン車・HV生産に方針転換 【海外・報】 | Motor Fan|自動車情報のモーターファン

スバルは現在3車種をラインアップしており、EVのラインアップは充実している。トヨタとの協業と自社開発のバッテリー式電気自動車(BEV)でポートフォリオを構築してきたが、今回、初の本格的な自社開発となるEVの発売を延期する […]

https://motor-fan.jp/article/1507785/
2026年5月の決算会見で、2028年市場投入予定だったスバル自社開発EVは延期になった。

大泉新工場では高効率のメイン工程と、変化を吸収するサブ工程を組み合わせ、生産工程・開発手番・部品点数をそれぞれ半減させる「トリプルハーフ」の要となる「太くて短い製造ライン」を構築。併せてラインバランスを崩さない「ヒトと自動化」を最適にバランスさせたスバルらしい自動化の追求。データとAIで必要な時に必要なモノを必要な場所に運ぶ構内物流の知能化が図られる。

メイン工程を流れるEVと、ガソリンエンジン車用にサブ工程に用意されたマフラー。
同じくサブ工程に用意された燃料タンク。ガソリンタンクを取り付けないEVの場合(またはその逆の場合も)同工程で違う作業が割り振られており、無駄が生じないようになっている。

加えて、スバルの工場は北米のSIAを除き、本工場、矢島工場、大泉新工場がいずれも4km圏内に集中しており、そのロケーションメリットは大きい。例外はe-BOXER用のトランスアクスルを生産する北本工場(埼玉県北本市)だが、それでも群馬県の各工場とは1時間内外の距離におさまる。

トマトカレーの名産地からスバルのモノづくりが変わる! クロストレックのトランスアクスルを生産する北本工場に潜入 | Motor Fan|自動車情報のモーターファン

従業員にとっては働きがいがあり、地域からは愛される工場を目指す トマトカレーで有名な(?)埼玉県北本市にSUBARU(スバル)北本工場がある。この工場は長らく、発電機や芝刈り機用などの汎用エンジンを生産していたが、経営資 […]

https://motor-fan.jp/article/285818/
北本工場取材レポート

大泉新工場はこのロケーションメリットも合わせて、パワーユニット(エンジン/CVT)の生産と車両生産(プレス、ボディ・ペイント、トリム=組立、完成検査)を一気通貫に行なうモノづくりの中核拠点となる予定なのだ。

フォトギャラリー:スバル矢島工場

ここまで紹介してきた画像にの他にも、本文にはない画像はページトップの「この記事の画像をもっと見る(45枚)」から見ることができる。スバル矢島工場生産現場の様子を数多くの画像で確かめてみて欲しい。

スバル矢島工場の完成検査ラインにトレイルシーカーやbZ4Xツーリングと並ぶフォレスター。