イタルジェット・ドラッグスター700ツイン・リミテッドエディション……14.900ユーロ

試乗車はオーリンズ製リアショック/ステアリングダンパーやDBKのクリアクラッチカバー/削り出しパーツを装備する特別仕様で、日本での価格は250万円前後。

スクーターではなく、モーターサイクル?

近年のイタルジェットを代表する車両と言ったら、トリレスフレームやインディペンデントステアリングシステムが目を引く斬新なスクーター、ドラッグスター125/200/300を思い出す人が多いだろう。かく言う僕もその1人で、当記事で取り上げるドラッグスター700ツインは、シリーズの長兄という認識だったのだが……。

独創的なフレームとフロントサスペンションを採用するものの、ドラッグスター125/200/300の基本構成は、既存のスクーターのフォーマットに準じている。

試乗の数日前にこのモデルの素性を調べたら、エッ?と思った。シリーズの長兄という位置づけではあるものの、ドラッグスター700ツインの構造はスクーターではなく、モーターサイクルなのだ。

その判断材料になるのは、非ユニット式のエンジンとスイングアーム、手動式クラッチ、足動式6段ミッション、チェーンによる後輪駆動などで、近年はスクーター専業メーカーの感があったイタルジェットが、こういった手法でモーターサイクルを製作するのは、僕にとっては意外な展開である。

もっとも歴史を振り返れば、1960年から活動を開始したイタルジェットは、過去にオーソドックスなモーターサイクルを数多く生産しているのだ。とはいえ、パッと見の雰囲気はスクーターなのに、実際はモーターサイクルという構造は、このモデルが初めてではないかと思う。

ちなみに現在のイタルジェットは、ドラッグスター700ツインと基本設計を共有する兄弟車として、ドラッグスター459ツインも販売中で、こちらのパワーユニットはATモードが存在するため、感覚としてはスクーター寄りと言えるのかもしれない。とはいえクラッチレバーは存在するので、AT限定免許での運転は不可である。

いい意味で、どうかしている‼

ここまでに述べたように、ドラッグスター700ツイン(と459ツイン)に、既存のドラッグスター125/200/300との共通点は存在しない。でも車両を前にして各部を観察した際に、いい意味で“どうかしている‼”という印象を抱くことは、シリーズ全車に共通だった。

初対面のドラッグスター700ツインで僕が最初に興味を惹かれたのは、MotoGPレーサーを思わせるウイングレットやシートカウルだが、セパレートタイプのハンドルや2本出しのアップマフラー、モトクロッサー並みに太いφ50mmの倒立式フォーク、リアサスに備わるISAS :Italjet Stiffness Adjustment Systemなども注目したくなる要素。

そしてそれらの存在感が強すぎるため、ともすると見落としがちだが、アルミ製ステアリングヘッドパイプとトラス構造のスチールパイプを組み合わせたハイブリッドフレームからも、同社のこのモデルにかける意気込みがヒシヒシと伝わってくる。

ドラッグスター700ツインの並列2気筒エンジンは、イタルジェットと協力関係を結んでいるQJモーター製。本来はオーソドックスなモーターサイクル用なので、シリンダーはほぼ直立しているし、当然ながらミッションは一体式。最高出力は69ps/8500rpmで、最大トルクは7.14kgf-m/6000rpm。

ただし少し離れて全体を見ると、ドラッグスター700はシート下にパワーユニット、その前部にガソリンタンク、後部にスイングアームを配置しているのだ。となれば、ホイールベースは相当に長くなるはずだし、前後分担荷重は理想的な数値にはならないだろう。だから当初の僕は、恐る恐るという意識で試乗を始めたのだが……。

見た目を裏切らない運動性能

誤解を恐れずに言うなら、ドラッグスター700ツインの乗り味は至ってナチュラルでフレンドリーだった。

いや、その表現には語弊があって、一般的なモーターサイクルの基準で考えれば、フロントまわりの動きは相当に軽やかでスクーター的なのだが、このモデル特有の気遣いやアジャストは特に必要なく、街乗りやツーリングに気軽に使えそう。

あえて難点を挙げるとすれば、減速時に下半身で車体をホールドできないことは気にならないでもないけれど、そのあたりは慣れで解消できるだろうし、極太の倒立式フォークの踏ん張りを信頼して、両手を均等に使って減速Gに対応してもいいと思う。

それより何より、僕がドラッグスター700ツインで最も感心したのは、ワインディングロードでのコーナリングがムチャクチャ楽しいことだった。

あまりに気持ちよくスイスイ曲がるので、試乗の途中でスマホを使ってスペックを調べてみたところ、ホイールベースは意外に長くない1553mm(市場でライバルになりそうな、ホンダX-ADVは1580mmで、ヤマハTMAX560は1575mm)。

もっともガソリンタンクとパワーユニットの配置を考えれば、スイングアームの長さは十分とは言えないだろうし、前後重量配分はリアヘビーのはず。

ところが、車重が軽いうえに(190kg。X-ADVは237kgで、TMAX560は213kg)、前後ショックやライディングポジションの設定が絶妙なのだろう、このバイクはアグレッシブな見た目を裏切らない、抜群の運動性能を備えていたのだ。

モーターサイクル/スクーターの新しい形

そんなわけだから今回の試乗で、僕はイタルジェットの独創性と技術力に大いに感心することとなった。

そもそもの話をするなら、シリンダーがほぼ直立した既存の並列2気筒エンジンをシート下に配置して、スクータースタイルの車両を作ろうという発想が画期的だし、そういった異端の構成でありながら、ナチュラルでフレンドリーな乗り味を実現したことも特筆に値すると思う。

いずれにしてもドラッグスター700ツインを通して、僕はモーターサイクル/スクーターの新しい形を見た……ような気がしたのだけれど、既存の二輪の常識を考えると、他メーカーがこの車両と同様の構成を採用する可能性はほとんどないはずだ。

逆に言うなら、ここまで大胆な構成のスクーター的なモーターサイクルを作れるメーカーは、世界で唯一、イタルジェットだけだろう。

フロント:120/70R15・リア:160/60R15というタイヤサイズは、市場でライバルになりそうなTMAX560とまったく同じ。ちなみにX-ADVはフロントが120/70ZR17で、リアはドラッグスター700ツイン・TMAX560と同じ。

ライディングポジション(身長182cm・体重74kg)

下半身でホールドする部品は存在しないものの、ライディングポジションはモーターサイクル的。一般的なスクーターと比較するなら、ハンドルグリップ位置は低く、ステップは後方にして自由度が無い。シート高はライバル勢より高めの815mmだが(X-ADVの日本仕様は790mmで、TMAX560は800mm)、シート下の左右方向への張り出しが存在しないため、足つき性は意外に良好。身長170cm以上のライダーなら、不安を感じることはなさそうだ。

ディティール解説

フロントマスクはMotoGP・SBKを戦うレーサー的な雰囲気。同社が公称する最高速は190km/hで、その領域でのウイングレットの効果は何とも言い難いところ。
シャープなデザインのウインドスクリーンは、ボルトを緩めることで数cmの高さ調整が可能。
大胆な肉抜きが施されたトップブリッジの後方には、ステアリングダンパーとイグニッションスイッチが設置されている。ハンドルはセパレート式。試乗車が装着するスマホ用ホルダーとETCケースは社外品。
5インチTFTディスプレイは、近年に二輪の流行に従ってスマホとの連携機能を導入。水温を示すバーグラフの下には、前後タイヤの空気圧と温度を表示。
シーケンシャルタイプのフロントウインカーは、ブレーキ/クラッチレバーガードに設置。
前後分割式のシートとシートカウルは、近年のスーパースポーツの要素を取り入れつつも、細部に独自のアクセントを加えることで高級車然とした雰囲気を構築。
構造を考えれば止むを得ないのだが、シート下に収まるのは車載工具のみで、荷物積載を考慮したスペースは存在しない。
アップタイプの2本出しマフラーはアクラポビッチ。排出口にはMotoGPレーサーを思わせるメッシュを配置。
一見しだだけでは判別できないけれど、フロントカウルのウインドスクリーン下部とリアフェンダー中央部には、標準装備のドライブレコーダー用カメラが収まっている。
左右ステップはモーターサイクル然とした構成で、ペダルには位置調整機構が備わる。
 
QJモーターが手がけるスポーツネイキッドやアドベンチャーツアラーで実績を積んだ、DOHC4バルブ並列2気筒エンジンのクランク位相角は270度。
フルアジャスタブル式のφ50mm倒立フォークはマルゾッキ。フロントブレーキはφ270mmウェーブディスク+ラジアルマウント・対向式4ピストンキャリパーで、パッドのベースプレートは放熱用のフィンを装備。
アルミ鋳造性のスイングアームも、MotoGP・SBKレーサー的なデザイン。リアブレーキはφ260mmウェーブディスク+対向式2ピストンキャリパー。
リミテッドエディションのリアショックはフルアジャスタブル式のオーリンズだが、スタンダードはフロントと同じマルゾッキ製となる。
車体右側後方に備わるISAS は、リアサスペンションの特性を変更するパーツ……のようだが、本体を回転・伸縮させても明確な変化は体感できなかった。

主要諸元

車名:ドラッグスター700ツイン・リミテッドエディション 
全長×全幅×全高:2120mm×1124mm×1230mm 
軸間距離:1553mm 
最低地上高:──mm 
シート高:815mm 
キャスター/トレール:──/──mm 
車両重量:190kg 
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒 
弁形式:DOHC4バルブ 
総排気量:697.9cc 
内径×行程:83mm×64.5mm 
圧縮比:11.6 
最高出力:51.5kW(69ps)/8000rpm 
最大トルク:70N・m(7.14kgf・m)/6000rpm 
始動方式:セルフスターター 
点火方式:フルトランジスタ 
潤滑方式:ウェットサンプ 
燃料供給方式:フューエルインジェクション 
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン 
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング 
フレーム形式:ダイヤモンド(トレリス)
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ50mm 
懸架方式後:直押し式モノショック 
タイヤサイズ前:120/70R15 
タイヤサイズ後:160/60R15 
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク 
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク 
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン 
燃料タンク容量:16L 
乗車定員:2名