便利な足から“高級スポーツスクーター”路線へ

スクーターといえば、気軽で便利な実用車。そんなイメージが強いけれど、1980年代のスクーターはそれだけでは終わらなかった。ソフトバイクが街に広がるなかで、ユーザーの好みもどんどん細かくなっていく。安くて便利なモデルだけでなく、もっと豪華で、もっとスポーティで、所有する満足感まで味わえるスクーターが求められるようになったのだ。
そこで存在感を放ったのが、ホンダ・リードシリーズである。初代リード50/80は1982年に登場。リードは、単なる買い物スクーターというより、ひとまわり上級の雰囲気を持ったモデルだった。カタログでもグランツーリスモ的な表現が使われていたように、高級スポーツカーのような立ち位置を50ccスクーターでやろうとしていたのがリードだった。
当時の価格を見ても、その上級感は伝わってくる。1984年に登場したリードSSは16万9000円。同年モデルのタクトが12万5000円だから、50ccスクーターとしてはなかなか立派なお値段だが、そのぶん装備もかなり気合いが入っていた。いや、気合いが入っていたどころではない。今見ると「そこまで盛る!?」と言いたくなるほど、豪華で刺激的なモデルだったのだ。

制動時における前側への沈み込みを低減させるTLAD (トレーリング・リンク&アンチ・ダイブサスペンション)を採用し、走行性能は一歩上の安定性を実現。実用車というより“走りを楽しむ”という空気をまとっていた。
MotoGPウイングレットのご先祖様!? 牙エアロの存在感がスゴい
リードSSを見てまず目に飛び込んでくるのが、銀色ボディに赤と青のグラフィック。そしてフロント下部に備わる、牙のようなエア・スタビライザーだ。MotoGPマシンがダウンフォースを稼ぐウイングレットのご先祖様……ではないだろうけど、そう言いたくなるくらい存在感は抜群。ちょっと引っ掛けたら割ってしまいそうな危うさまで含めて、まさに80年代のエアロパーツである。さらに言えばミラーマウントもエアロ形状だったりする。
しかも、リードSSは見た目だけのハッタリではない。新設計の空冷2スト49ccエンジンを搭載し、最高出力は6.2ps/7000rpm。ホンダ独自のVマチックと組み合わせることで、低速から中速までなめらかで力強い走りを狙っていた。スクーターでありながら、ただラクに走ればいいというだけではない。ちょっと速くて、ちょっと誇らしい。その“ちょっと上”の感じがたまらない。
メーター周りも実に豪華だ。大型で見やすいスピードメーターに加えて、電気式タコメーターを採用。50ccスクーターにタコメーターである。冷静に考えると「必要?」と思うかもしれないが、そこがリードSSのおいしいところ。回転計があるだけで、ただの移動手段ではなく“マシンを操っている感”がグッと増す。あの小さなボディにタコメーターが付いている。それだけで、当時の開発陣の本気と遊び心が見えてくる。
そして本当に豪華だったのは、メーターだけではない。フロントには油圧式ディスクブレーキを装備し、サスペンションには前輪の沈み込みを抑えるメカニカル・アンチダイブ機構と、油圧式ダンパー付きトレーリング・リンクサスペンションを組み合わせたTLADを採用。タコメーターの派手さも分かりやすいが、実は足周りまでやりすぎなくらい豪華だったのがリードSSの恐ろしいところだ。

牙のように突き出したエアロ・スタビライザー。ダウンフォースを稼ぎ、フロントの浮き上がり(ウイリー)を防止して加速に繋げる……かはMotoGPマシンではないので、謎のままだが、ホンダのやる気は伝わってくる。50ccスクーターでこの見せ場、やっぱり80年代は濃いわ~! ※撮影車はリード50S

シート前方から取り入れた空気を積極的に引き出すエアダクトがスポーティ。空冷エンジンの熱ダレにも効果が期待できる? ※撮影車はリード50S

大型スピードメーターに加えて、電気式タコメーターを採用。50ccスクーターで回転計付きというだけでも、リードSSがただの実用車ではなかったことが伝わってくる。ウインドシールド内側にはクルマのような小物置きまで!(ちょっとした段差で飛んでいきそうだけど……)。※撮影車はリード50S
電動ワイパー付きウインドシールドまで用意!
リードSSの“やりすぎ”を象徴する装備が、オプションで用意されていた電動ワイパー付きウインドシールドだ。50ccスクーターに、電動ワイパーである。もう一度言いたい。原付スクーターにワイパーである。
もちろん、雨の日の視界確保という意味では実用装備だ。だが、それ以上にインパクトがすごい。タコメーターでスポーツ感を盛り、ディスクブレーキとTLADで足周りを固め、そこへ電動ワイパー付きウインドシールドで高級GT感まで足してくる。便利なだけじゃない。速そうで、豪華で、ちょっと未来っぽい。これぞ80年代スクーターの勢いである。
さらにキーロック付きインナーボックス、サイドトランク、大型リヤキャリア、MFバッテリーなど、実用装備もしっかり充実。見た目は尖っているのに、毎日の足としてもちゃんと使える。この二面性もリードSSの魅力だった。通勤や通学で使われる姿も多かったはずだが、ただの足スクーターでは終わらない。オーナーは、きっと誇らしかったに違いない。

オプションで用意されていた電動ワイパー付きウインドシールド。内側にはON/OFFスイッチが備わる。“やりすぎなくらい豪華”なキャラクターを象徴するアイテムだ。※撮影車はリード50S

キーロック付きインナーボックスなど、実用装備も抜かりなし。スポーティに見せながら、日常の使いやすさもちゃんと押さえているところがリードらしい。※撮影車はリード50S

シートを開けると、メガネ+αが入る小物入れが出現。とことんスペースを活かす姿勢がうれしい。※撮影車はリード50S
グレード展開も濃かった!
リードSSだけを見ても十分に尖っているが、リードシリーズのおもしろさはそれだけではない。1982年にリード50/80が登場し、その後もリードS、リードSS、リードRなど、仕様やキャラクターを変えたモデルが次々に生まれていった。さらに兄弟車として、スクーター初の液晶メーターを採用したリーダーも存在した。便利な移動手段として広がったスクーターが、豪華仕様、スポーツ仕様、先進装備仕様へと枝分かれしていく。
クルマの世界でエアロパッケージやスポーツグレード、○○エディションが用意されていくようなノリにも近い。ベースは実用スクーター。でも、そこにタコメーターを付ける、ディスクブレーキを奢る、エアロを足す、メーターを未来っぽくする。そんな“盛り方”が許されていた時代だからこそ、リードSSのような刺激的なモデルが生まれたのだ。
なかでもリードRは、リードSSのさらに先を行く本格スポーツ仕様として登場した。1986年にはリードSSの性能向上とともにリードRが追加され、最高出力は6.2psから6.4psへアップ(同時にリードSSの出力も6.2psから6.4psへアップ)。リードRにはアンダーカバー、フロントフォークカバー、テールフィン、バーエンド付きスポーツグリップ、ハイグリップパターンタイヤなども与えられていた。

兄弟車のリーダーは、スクーター初の液晶メーターを採用した先進派。リード系は便利なスクーターでありながら、装備や見せ方でさまざまな個性を打ち出していた。

1986年に追加されたリードRは、リードSSからさらにスポーツ方向へ振ったモデル。アンダーカバーやテールフィンなどを備え、50ccスクーターとは思えないほど攻めた雰囲気をまとっていた。
やりすぎは80年代スクーター最高のスパイス
リードSSは、いま見ても不思議な魅力を持っている。便利な50ccスクーターでありながら、タコメーターを付ける。ディスクブレーキを奢る。牙のようなエアロをまとわせる。電動ワイパー付きウインドシールドまで用意する。ひとつひとつの装備を見ていくと、やっぱり“やりすぎ”である。
でも、そのやりすぎ感こそがいい。合理性だけで作ったら、きっとこうはならない。もっとシンプルで、もっと安くて、もっと普通のスクーターになっていたはずだ。だけど1980年代の空気は、スクーターにも夢や見栄や遊び心を詰め込ませた。若者の熱気、バイクブームの勢い、ちょっと背伸びした高級志向。その全部を小さな50ccにギュッと押し込んだのが、リードSSだったのかもしれない。
現行リードにも、もしカリカリのR仕様や、妙に豪華なSS仕様が出たら……なんて妄想したくなる。リードSSは、そんな余計な想像までさせてくれる1台だ。あったあった懐かしい! と思う人にも、なにこれ豪華でカッコいい! と思う若い世代にも、きっと刺さる。リードSSは、便利スクーターが本気で遊んでいた時代の、最高に刺激的な証人なのである。
SPECIFICATIONS|HONDA LEAD SS(1984)
全長×全幅×全高:1690×680×1105mm
ホイールベース:1175mm
車両重量:71kg
エンジン:空冷2サイクル単気筒
総排気量:49cc
最高出力:6.2ps/7000rpm
最大トルク:0.69kgm/6000rpm
燃費:84km/L(30km/h定地走行テスト値)
燃料タンク容量:4.8L
ブレーキ(前・後):ディスク・ドラム
タイヤ(前・後):3.50-10・3.50-10
メーカー希望小売価格:16万9000円
令和の今もリードの名は残っている。現行モデルは4スト125ccに進化
※この記事は月刊モトチャンプ2025年3月号を基に加筆修正を行っています
【モトチャンプ編集部】
