当日イベントの様子

キレイな旧車……だけじゃない! よく見たら何かがおかしい

十国峠にズラリと並んだ原付カスタムの中で、妙に気になった小さなトレール車。それがTake7218さんのヤマハGT50、通称“ミニトレ”だった。ロングタンク風の外装に、独特な5本スポークのキャストホイール。エンジンを覗けば、なぜか水冷ヘッドまで付いている。さらに後ろへ回ればチャンバーも!もはやタダ者ではない。

「古いミニトレをキレイにレストアしたんですね」なんて簡単に済ませたら怒られそうだ。実はこの一台、SP忠男、K&H、SRSスガヤ、野口モータースと、当時を知る人なら思わず反応してしまう名前が次々に登場する“タイムスリップカスタム”なのである。

でも、そんなレアパーツを集める以前に、このGT50にはもっと大変なスタート地点があった。

小さなトレール車“ミニトレ”をベースに、1970年代のカスタムパーツを盛り込んだTake7218さん号。眺めるほどに「何か付いてる!」が増えていく。

そもそも不動車だった! 補修部品がなくてもコツコツ復活

元々古いバイクが好きだったTake7218さんがネットオークションで見つけたGT50は1977年式。トランスミッションが5速となった新エンジンを搭載し、リヤショックが2本タイプのモデルだ。購入時は不動車で、そこからコツコツとレストアして復活させた。

ところが、生産からすでに50年近く。モンキーやカブほど補修パーツが豊富に流通している車種ではないため、まず部品探しから大変だったという。新品はもちろん、中古でもなかなか見つからない電装ハーネスに至っては、なんとすべて自作して作り直したのだとか。

ないから諦めるのではなく、なければ作る。古い原付遊びは、この時点ですでに濃い。でもTake7218さんのミニトレは、走れるようになって終わりではない。むしろ、ここからがおもしろい。

ポイントカバーはクリアタイプへ変更。こちらは当時モノではなく、Take7218さん自身がオリジナルで製作したもの。レストアもカスタムも「ないなら作る」が基本だ。

補修部品はないのに、なぜ激レアパーツはこんなにある!?

まず目に飛び込んでくるのがキャストホイール。ノーマルはフロント15インチ、リヤ14インチのスポークタイプだが、この車両にはカブトムシのツノのような5本スポークのアルミキャストが収まっている。

これが1970年代にSP忠男から発売されていた「FEREXキャスト」。CB750やZ750にも見られたようなデザインで、自家塗装によって綺麗にリメイクされている。過去のネットオークションでは50万円以上で取引された例もあるという。

カブトムシのツノのような5本スポークが特徴的なSP忠男「FEREXキャスト」。1970年代の逸品!

さらにタンク&シートは老舗パーツメーカーK&H製。ミニトレ用のFRP製タンク&シートは、創業間もない1976年から生産され、CB400Four用シングルシートと並ぶ人気商品だったという。今風に“昔っぽく”仕上げたのではなく、本当に当時存在したミニトレ用カスタムパーツというところがたまらない。

K&H製のFRPタンク&シートのうち、こちらはシートカウル周り。同社が創業間もない1976年から生産していたミニトレ用の当時モノで、現在は当然ながら絶版だ。

そしてエンジンに付くアルミ製の水冷ヘッドはSRSスガヤ製。ウォーターポンプを持たず、水温差による対流で冷却するシンプルな方式だ。

今見れば「そんな仕組みなの?」と思うかもしれないが、1970年代の水冷化は高性能の象徴。日本初の水冷50ccエンジンを搭載したRZ50が登場するのは1981年で、それ以前からレースの世界ではこうした水冷ヘッドが憧れのチューニングとして使われていた。

空冷エンジンを覗くと、SRSスガヤ製のアルミ水冷ヘッド! 1970年代、水冷化は高性能の象徴でもあり、レース用カスタムとして憧れの存在だった。

ウォーターポンプは使わず、水温差による対流で冷却する方式。水冷ヘッドと合わせて見ると、当時の工夫がよく分かる。

補修パーツすら見つけるのが大変な車種なのに、なぜか激レアなカスタムパーツはこんなに集まっている。マニアの執念……いや、愛情は恐ろしい。

タコメーターはヤマハ純正のワイヤー式。文字盤は1万2000rpmまで刻まれている。

極めつけは野口チャンバー! でも当時モノとはちょっと違う!?

そして極めつけが、車体右側から伸びる野口モータースのロケットチャンバー。

1970年代から1980年代にかけてヤマハ系マシンのチューナーとして名を馳せた野口モータースは、ヤマハ初のワークスライダーだった野口種晴氏が設立。平忠彦氏や鈴木忠男氏ら、多くのライダーを育成したことでも知られている。

同社のチャンバーは性能の良さに加え、独特なエンドピース形状も特徴で、当時のヤマハ2ストユーザーから圧倒的な人気を集めていた。当時は原付用も販売されていたものの、今となっては当時モノなど簡単には出てこない。

そこでTake7218さんは数年前、野口モータースに依頼してミニトレ用を製作してもらったという。「これで当時仕様が完成!」と思ったら、ここにもマニアの世界がある。当時のパーツと現在製作されたものではエンドピースの形状が若干異なり、詳しい人ならすぐ見分けられるのだとか。そこまで分かるの!? マニア恐るべし。

なお、現在は野口モータースのホームページにGT50用パーツの掲載がないため、同じものを再び製作してもらえるかどうかは不明だ。

数年前に野口モータースへ製作を依頼したロケットチャンバー。当時品とはエンドピース形状が若干異なり、詳しい人なら見分けられるのだとか。

後ろから見るとロケットチャンバーの存在感が際立つ。K&H外装やFEREXキャストと合わせ、1970年代のカスタムシーンを思わせる姿にまとまっている。

リヤにもFEREXキャストを装着。フロントだけでなく前後揃っているからこそ、車体全体の雰囲気が大きく変わる。スイングアームはGクラフト製だ。

1977年式の特徴でもある2本リヤショック。細部までじっくり眺めたくなるのが、このGT50の困ったところ(笑)。

ノーマルの“ミニトレ”はこんな姿だった

ここまでカスタムされた姿を見たあとだからこそ、ノーマルのGT50を見てほしい。

GTシリーズはフロント15インチ、リヤ14インチホイールを採用した小型トレールモデルで、“ミニトレ”の愛称で親しまれた。1972年の発売から幾度かのマイナーチェンジを経て、1980年代中盤まで生産されている。

当時のヤマハは、ホンダの4ストミニに対抗するように空冷2ストエンジンを搭載した小型モデルを多数展開。スポーツモデルのFX50、オフロードのMR50、トライアルのTY50、6インチのポッケ、そのオフロード風モデルで8インチのフォーゲル、アメリカンスタイルのRX、さらに後年のYSRにも同系統のエンジンが使われた。

同時期にはスズキもマメタン、ミニタン、エポ、バンバン、ホッパーなどを展開し、カワサキからもKV75やAV50が登場。今振り返れば、各メーカーが小さな車体にそれぞれのアイデアを詰め込んでいた、なんとも楽しい時代だった。

そんな小さなトレール車を、Take7218さんは当時のレーサーを思わせる姿へ変身させた。ノーマルと見比べれば、FEREXキャストやK&H外装、水冷ヘッド、野口チャンバーが、この一台のキャラクターをどれだけ変えているかがよく分かる。

YAMAHA GT50:フロント15インチ、リヤ14インチのスポークホイールを備えた小型トレールモデルで、“ミニトレ”の愛称で親しまれた。

このGT50を捕獲したイベントはこちら!

今回のGT50を撮影したのは、2026年7月19日に森の駅箱根十国峠で開催された「十国峠原付祭十周年」。今年で10周年を迎えた十国峠原付ミーティングには、関東・中部を中心に全国から100台を超える原付カスタムマシンが集合した。もともとはスーパーカブオンリーのイベントとしてスタートし、現在ではさまざまな原付カスタムが集まるイベントへと広がっている。

今回紹介したGT50も、そんな濃い参加車の中からモトチャンプが気になった一台。十国峠で捕獲したほかのマシンたちも、これから1台ずつじっくり紹介していきます(当日ご協力いただいた皆様、ありがとうございました)。


10周年を迎えた十国峠原付ミーティング。今回のGT50をはじめ、思わず足を止めたくなる濃い原付カスタムが会場に集結した。

【モトチャンプ編集部】