変化の予兆は、1997年のリトルカブにも見えていた。14インチホイールや専用デザインを採用し、ビジネスで活躍する実用車とは違う、親しみやすさを打ち出したモデルだ。ここから先、カブは“働くためのバイク”だけではなく、“選んで楽しむバイク”へと少しずつ広がっていく。
「キャブが消えた!」2007年 スーパーカブ50がPGM-FI化
カブらしさを残したまま、大きく中身を変えたのが2007年だ。スーパーカブ50とプレスカブ50は、電子制御燃料噴射システムPGM-FIを新採用。キャブレターに代わり、走行条件に応じて燃料供給を電子制御するようになった。
狙いは環境性能の向上だ。排気系にはキャタライザーも備え、平成18年国内二輪車排出ガス規制に適合。PGM-FIの採用により、寒い朝の始動性や発進加速のスムーズさを高め、アクセル操作の多い市街地では燃費向上にも寄与した。昔ながらの“鉄カブ”の姿をほぼそのまま残しながら、中身はしっかり電子制御へ。この変化は大きかった。

FI化しても外観はまだおなじみの“鉄カブ”そのもの。リヤフェンダーまで一体感のあるスチール製車体は、長年続いたカブの象徴的な姿だ。
そのころ日本では――2007年は「どげんかせんといかん」と「ハニカミ王子」が流行語大賞の年間大賞に。小島よしおの「そんなの関係ねぇ!」やIKKOの「どんだけぇ~」もトップ10入りし、テレビ発の言葉が街中にあふれていた。
「鉄カブから一気に新世代へ!」2009年 スーパーカブ110
そして2009年、スーパーカブは骨格から大きく変わる。新開発の110ccエンジンを新設計フレームに搭載した国内専用モデルだ。
エンジンにはPGM-FIを採用し、4速ミッションを組み合わせる。クラッチも発進用と変速用を独立させた2段クラッチシステムとなり、変速ショックの低減を図った。60km/h定地走行テスト値では63.5km/Lを達成し、従来のスーパーカブ90を上回る燃費性能も実現していた。
そして大きいのがフレームだ。長年使われてきたプレス材主体の構造から、新設計のバックボーンタイプ・パイプフレームへ刷新。ここで、いわゆる“鉄カブ”の基本構造から現代カブへ大きく舵を切ったのである。

110cc化に加えて4速ミッションや2段クラッチを採用。見た目はカブらしさを残しながら、機構は大幅に新しくなった。

新設計のバックボーンタイプ・パイプフレーム。低くまたげるカブらしい車体構成を守りながら、骨格そのものは新世代へ切り替わった。

フロントサスペンションも従来のボトムリンク式からテレスコピック式へ。長く受け継いできた足周りにも大きな変化が訪れた。
そのころ日本では――2009年は石川遼が18歳で男子ゴルフの賞金王に。年間4勝、賞金1億8000万円超を獲得し、史上最年少の賞金王として大きな話題を集めた。
「カブで遊ぶ!」2013年 クロスカブ誕生
仕事の道具というイメージが強かったカブに、“遊び心”をはっきり打ち出したのが2013年のクロスカブだ。
2013年のクロスカブは、スーパーカブ110をベースに、アウトドアイメージのスタイリングと専用装備を加えたレジャーモデルとして登場した。初代ではレッグシールドを残しながら、大型ヘッドライトガードや幅広いアップハンドルを採用。さらに足周りには、スーパーカブ110 プロと同じストローク量の多い前後サスペンションを採用し、専用17インチタイヤと合わせて最低地上高を155mmまで高めていた。見た目だけでなく、アウトドアで使うことをちゃんと考えた作りだったのである。

初代クロスカブは、リヤブレーキをφ130mmへ大径化し、ステップには可倒式を採用。見た目だけでなく、足元にもレジャー用途を意識した専用装備が盛り込まれていた。
そのころ日本では――2013年はNHK連続テレビ小説『あまちゃん』が大ヒット。「じぇじぇじぇ」が流行語となり、ドラマの舞台となった岩手県久慈市にも注目が集まった。
「レッグシールドが消えた!」2018年 クロスカブ110が新しい姿へ
2018年、クロスカブ110はモデルチェンジでキャラクターをさらに明確にする。
大きな違いがレッグシールドだ。2013年型では残されていたレッグシールドを廃し、エンジン周りを見せる軽快なスタイルへ変更。丸型LEDヘッドライトを囲むヘッドライトガードやアップハンドルなど、アウトドアギアらしい雰囲気も強められた。あわせて50ccエンジンを搭載したクロスカブ50も新設定され、クロスカブはシリーズとしてさらに広がっていった。
2013年型と2018年型を並べて見ると、その違いは一目瞭然。“カブをアウトドア風にしたモデル”から、“クロスカブという独立したキャラクター”へ進んだことがよく分かる。

スリット入りのマフラーガードや、コシのあるリヤショックなど、スーパーカブ110とは異なる専用装備も魅力。
そのころ日本では――2018年は平昌冬季オリンピックで羽生結弦が男子フィギュアスケート2連覇。大谷翔平もメジャーリーグへ渡り、日本人アスリートの活躍が大きな話題となった。
「これがフラッグシップ!」2018年 スーパーカブ C125
同2018年には、クロスカブとはまったく違う方向へ進化したカブも登場する。それがスーパーカブ C125だ。
スーパーカブの元祖「C100」を思わせるディテールを現代的に再現し、ハンドルからフロントフォークまでを一体に見せる「ユニットステア」を採用。レッグシールドからリヤフェンダーへ続く滑らかな曲面も含め、歴代カブのデザインを上質に再構築している。
装備も特別だ。125ccエンジンに加え、LED灯火類、スマートキーシステム、専用メーター、クロームメッキパーツなどを採用。仕事の道具としてではなく、“所有する満足感”まで追求したフラッグシップモデルだった。

前後キャストホイールやフロントディスクブレーキを装備。ひと目では昔ながらのカブなのに、仕立てはかなり上質。

丸型ヘッドライトを中心に灯火類はLED化。クロームメッキも多用され、実用車というより“プレミアムなカブ”を感じさせる仕上がり。

アナログ式スピード表示の内側に液晶表示を組み合わせた専用メーター。伝統的な雰囲気と現代装備をうまく同居させている。
そのころ日本では――2018年は安室奈美恵が引退。デビューから長く第一線で活躍してきた歌姫のラストイヤーとして、日本中から大きな注目を集めた。
「満を持して登場!」2020年 CT125ハンターカブ
そして2020年。往年のハンターカブを思わせるモデルが、現代の装備をまとって帰ってきた。CT125ハンターカブである。
普段使いの気軽さを持ちながら、ツーリングやキャンプなどアウトドアレジャーでの使いやすさを徹底的に追求。アップマフラー、ハイマウント吸気ダクト、大型リヤキャリア、5.3L燃料タンクを備え、最低地上高は165mmを確保した。
クロスカブが切り開いた“遊べるカブ”という世界を、よりタフで本格的な方向へ押し広げたモデルだ。

前後ディスクブレーキ、大型リヤキャリア、アップマフラー、エンジンガードなど専用装備がズラリ。見た目だけではなく、しっかりアウトドア寄りだ。

CT125ハンターカブ用に各部を作り込んだバックボーンフレーム。大型キャリアへの積載や荒れた路面での使用まで見据えた構成だ。

エアクリーナーへ空気を導く吸気口は高い位置に配置。アップマフラーと合わせ、アウトドアで使うことを強く意識した設計になっている。
そのころ日本では――2020年は生活様式が大きく変わった年。人混みを避けて楽しめるキャンプやアウトドアへの関心も高まり、“ソロキャンプ”という言葉が一気に身近になった。
「今度はエンジンまで刷新!」2021〜2022年 カブファミリーがロングストローク化
カブの進化は、車種を増やしただけでは終わらない。
2021年にはスーパーカブ C125が新エンジンを採用しロングストローク化。内径×行程は50.0×63.1mmへ。翌2022年にはスーパーカブ110とクロスカブ110も47.0×63.1mm、さらにCT125・ハンターカブも50.0×63.1mmの新エンジンへ切り替わった。原付二種カブファミリーが、ここで順次ロングストローク型へ移行するのである。
なかでも2022年型スーパーカブ110とクロスカブ110は、足周りも大きく進化。前輪ディスクブレーキとフロントABSを標準装備し、前後ホイールはスポーク式からキャストホイール+チューブレスタイヤへ変更された。メーターにはギアポジションや時計表示も追加され、外観だけでなく中身もアップデートされた。

伝統的な姿を残しながら、足元を見ると前後キャストホイールへ一新。フロントにはディスクブレーキとABSも備わる。

17インチという伝統のサイズは継承しながら、キャストホイール+チューブレスタイヤへ。パンク修理など日常の使い勝手にも関わる大きな変更だ。

クロスカブ110も同時にキャストホイール化。フロントディスク&ABSも装備された。またクロスカブのみフロントブレーキキャリパーが2ポットだ(スーパーカブは1ポット)。
そのころ日本では――2022年はヤクルトの村上宗隆がシーズン56本塁打を記録。史上最年少で三冠王にも輝き、日本のプロ野球を大いに沸かせた。
「50ccじゃない原付一種!?」2025年 新基準原付にもカブは対応
そして2025年、原付一種クラスを取り巻くルールそのものが大きく変わった。
ホンダは新基準原付に適合するスーパーカブ110 Lite、スーパーカブ110 プロ Lite、クロスカブ110 Liteを発表。110ccモデルをベースに最高出力を3.5kWへ最適化し、新しい原付一種の区分へ対応した。
排気量は50ccを超えているが、新基準原付として従来の原付一種免許で運転できる。フロントディスクブレーキ、フロントABS、前後キャストホイール+チューブレスタイヤなど、現代カブの装備もしっかり受け継いでいる。
排出ガス規制への対応から始まった現代カブの進化は、とうとう“50ccという排気量”そのものを越えるところまで来たわけだ。
そのころ日本では――2025年は大阪・関西万博が開催。1970年の大阪万博から55年という節目の年でもあった。
変わらないために、カブは変わり続ける
1990年代後半、リトルカブが“働くためのカブ”とは違う親しみやすさを見せ始めた。そこからFI化、110cc化、クロスカブ、C125、CT125ハンターカブへと進み、カブは使い方もキャラクターも違うモデルへ枝を広げていった。気がつけば約30年。いまでは実用車、街乗り、レジャー、プレミアムモデルまで揃う“カブファミリー”と呼べるほどのラインナップになっている。
※この記事は月刊モトチャンプ2025年8月号を基に加筆修正を行っています
【モトチャンプ編集部】
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