
先生:損 保太郎
某損保サービスセンター勤務。「動いている車同士では100:0にならない」は事故対応の現場でもよく耳にするという。でも、実際は……。
生徒:モン太
「動いていたら過失が出る」は、事故のことに詳しくない母親まで知っているほど有名な話だと思っている。本当に“保険の常識”なの?
動いていても過失ゼロになるケース
出どころ不明ながら交通事故界隈で古くから伝わる「動いていたら過失が出る」という言葉。誰もが一度は聞いたことがあるこの言葉について今回は解説していきます。
モン太 「動いていたら過失が出る」って、ボクのママも言ってたことあるモン。事故のことについてはまったくの素人のママが知っているってことは、これが保険の常識だモン?
損 保太郎(以下、保太郎) たしかに事故対応をしていると、聞くフレーズだよね。誰が言い出したのかは分からないけど、かなり浸透している言葉なのは間違いない。
モン太 じゃあ、やっぱりホントなんだモンね。
保太郎 いや、言葉どおりの意味なら間違い! 車両同士がどちらも動いていても、一方の過失が0になる事故はあるんだよ。
モン太 ホントだモンか?
保太郎 例えば、青信号で交差点を直進しているところへ赤信号を無視した車が進入してきて衝突した場合。あるいは自分の車線を普通に走っているところへ、対向車がセンターラインを越えて衝突してきた場合などだね。実際に保険会社でも、赤信号無視やセンターラインオーバーなどで契約車側に過失がないと認められる事故を「無過失事故」として扱う仕組みがある。
モン太 じゃあ「動いていたら過失が出る」はウソだったモンな。誰かの陰謀?
保太郎 残念ながらそこまで怪しい話ではないよ。言葉どおり「動いている車両同士なら絶対に100:0にならない」と捉えるのは間違いだけど、そういう言い方が広まった理由はちゃんとあるんだ。
ほかにも、進路変更する車と後ろから直進してきた車の事故では、一般的には双方に過失が生じることが多い。だけど、進路変更の方法やタイミングなど事故状況によっては、進路変更側に100%の責任を認めた裁判例もある。つまり、単純に「双方が動いていた」というだけで過失割合が決まるわけではないんだ。
優先道路でも過失ゼロとは限らない! 大事なのは「事故を避けられたか」
モン太 じゃあ、なんで「動いていたら過失が出る」なんて言われるようになったモン?
保太郎 これらの例外を除けば、走行中の車両同士の事故では双方に何らかの過失が認められるケースが多いのも事実なんだ。
例えば、優先道路を法定速度で走っていたとしても、脇道から出てきた車と衝突したからといって、必ずこちらが過失0(ゼロ)になるとは限らない。
実際、センターラインなどによって優先道路と認められる道路を走行する車と、非優先道路から進入してきた車との出会い頭事故では、優先側10:非優先側90が基本割合となるケースもある。もちろん、実際の割合は事故状況によって変わるよ。
モン太 優先道路を普通に走っていても過失が付く場合があるモンか。
保太郎 道路を走る以上、周囲に危険がないか注意して、事故を避けるために必要な行動を取ることが求められるからね。とくに住宅街の見通しが良くない交差点などでは、交差道路から車両が飛び出してくるかもしれないと予測して、必要に応じて減速したり、すぐに停止できるよう備えたりすることが大切になる。
モン太 でも相手が急に飛び出してきて、急ブレーキをかけて衝突する直前には止まった! これならボクは停止しているモン。
保太郎 そこもポイントなんだ。
事故対応では、衝突直前に急ブレーキをかけて停止したような状況を「直前停止」などと表現することがある。でも、衝突の瞬間に停止していたという事実だけで過失0になるとは限らない。
それまでどう走っていたのか、交差点へ入る前に危険を予測していたか、必要な減速や安全確認をしていたか。そうした事故に至るまでの運転状況も含めて考えるんだ。
モン太 止まっているか、動いているかだけじゃないモンか。
保太郎 そう。大切なのは、事故のリスクを予測したうえで、その発生を回避するための措置を十分に取っていたかどうかなんだ。
モン太 そこまで注意していても過失が出ちゃう場合もあるモンな……。
保太郎 運転すること自体にリスクはあるからね。だから何が起きても回避できるような準備と心構えが常に必要なんだ。
逆に「止まっていたのに過失あり」もある!
モン太 じゃあ逆に、停止していたなら100:0で対応してもらえるモンか?
保太郎 実は、それもそうとは限らない。
一般的な追突事故なら、追突された側の過失が0になるケースは多い。でも、停止していた場所や停止した理由によっては、停止車側にも過失が認められることがあるんだ。
例えば、高速道路の走行車線上でガス欠などによって停止していて後続車に追突された場合。あるいはトンネル内やカーブの途中など視認性の悪い場所、駐停車が禁止されている場所へ不適切に止めていた場合などだね。高速道路上でガス欠により停止した車への追突事故で、停止車側にも過失が課されたケースもあるよ。
モン太 ひぇ~。車両から離れていた時にぶつけられても、過失が出ちゃうことがあるモンな。おそろしや~。
保太郎 だから、
「動いている=過失あり」
「止まっている=過失なし」と単純に考えるのがそもそも違うんだ。事故の瞬間に車両が動いていたかどうかではなく、事故を避けるために必要な注意や行動を取っていたかが重要になる。
モン太 なるほど~。「動いている車同士なら100:0はあり得ない」というのは言葉のアヤだったモンね。
保太郎 そうだね。「動いている車同士の事故では、双方に過失が付くケースが多い」くらいに理解するのが近いと思う。
ただし、過失割合は事故ごとに状況が違う。「この事故形態なら絶対に○対○」と決めつけることもできないんだ。
モン太 動いていても0になることがあるし、止まっていても過失が出ることがある。結局、安全運転するしかないモン!
保太郎 何が起きても回避できるよう、周囲をよく見て運転することがいちばんだね。
※過失割合は事故状況、道路形状、信号・標識、速度、双方の注意義務違反などをもとに、過去の裁判例等を参考に個別に判断されます。本文中の割合や事例は代表的な例であり、実際の事故では異なる場合があります。の運転状況などによって異なります。
※この記事は月刊モトチャンプ2025年9月号を基に加筆修正を行っています
【モトチャンプ編集部】
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