9月1日、茨城県下妻市の筑波サーキット・コース1000で行われた走行会、「Alpaca Go 秋のお稽古」に参加してきました。その模様をレポートします。
できないことが多いからこそ、サーキットを走る
「サーキットを走りたい」
諸事情からしばらく満足にバイクに乗ることができずにいて、今年、ようやくバイクを楽しむ時間ができたところでそう思い立ちました。
わたし(伊藤英里)はMotoGPジャーナリストとして活動していて、普段はMotoGPを取材、発信していますが、趣味でバイクに乗っています。取材する側としては、サーキットは見慣れた場所。けれど走る側となれば、別の話です。
サーキット走行会と言えば「速い人が走るところ」「膝を擦るような人ばかりが走るところ」と思われるかもしれませんが、そうではありません。もちろん、上級クラスともなればスピードレンジは上がるけれど、自分に合ったクラスを選べば、自分のペースで楽しむことができます。
サーキットには対向車も歩行者もいないので、走ることに集中できます。そして、同じところを何周も何十周も走るため、「その前の周にできなかったこと」を「次の周で修正する」といった練習にぴったりなのです。これが、ある意味リターンライダーとなったわたしがサーキットを走りたいなと思った理由でした。もちろん、元々サーキットを走るのは好きです。けれど、そこに向かう理由は、速くなりたい、よりも「うまくなりたい」からなのです。
今回、愛車のヤマハYZF-R25で参加した「Alpaca Go 秋のお稽古」は、そんなわたしの要望にぴったりの走行会でした。
「走行会」ではあるけれど、実際のところ、その内容は「練習走行会」とも言えるもの。すべてのクラスの担当インストラクターが、参加者が申し込み時に申告した自分なりの課題を把握して、それに沿ったアドバイスをしてくれます。
クラスは「初級クラス」、「中級クラス」、「上級クラス」、そして「ミニバイククラス」に分かれています。各クラス20分間の走行を4本。初級クラスについては、すべて先導走行です。わたしは初級クラスに参加しました。
初級クラスではさらに手厚いフォローがあります。すべての走行で、サイン・ハウスのB+COM「7X EVO」のインカムを使ってアドバイスを受けながら走ることができるのです。この「すべての走行における」インカムレッスンは、今回からの試みなのだそう。今後は初級クラスだけではなく、中級、上級クラスにも取り入れていくようです。(※編集部注:インカムレッスンはサーキット側から特別な許可を得て実施しています)


インカムレッスンで受ける走行中のアドバイス
1本目を走り出すと、どっと汗が吹き出します。この日は幸いにも曇天で強い日差しはなかったのですが、湿度が高かったのです。それでも、懸命にインストラクターの菅野貴さんの背中を追いかけ、必死でインカムから聞こえてくるアドバイスを走りながら聞いていました。
今回わたしが特に課題としたのは、「外側の太ももを使ってタンクを支え、しっかりと腰をずらすこと」です。確かにこうした姿勢やテクニックは公道では不要かもしれませんが、年齢を重ねるにつれ、公道でも体がこわばりやすくなっているのを感じていました。こうしたスポーツ走行でバイクの上での動きを体に覚えさせることは、公道での体の使い方にも貢献するのではないかなと思っています。
2本目……、3本目。走行が終わるたびに、菅野さんからアドバイスがあって、次の走行の課題を伝えられます。ゆったりペースの初級クラスでも、「うまくなりたい」という思いはみんな同じです。そんな思いを掬い取るかのように、菅野さんは丁寧に、どんな質問でもわかりやすく、根気強く答えてくれます。誰もがみんな、真剣で、それでいてとても和やかな雰囲気。教わることが楽しい。教わったことを試すのが、楽しい。そんな思いで走行の順番を待っていました。


それでも、思うような走りはすぐにはできません。特にうまくいかないのは、タイトなコーナー(公道でいう「急カーブ」、「Rの小さなカーブ」)です。どうしても内側の体が転倒を怖がって緊張してしまいます。それでも、そのコーナーは20分間のうちに何度もやってきます。そして「次こそ!」と、気合いを入れては「ああでもない、こうでもない」と反省を繰り返して……。
「今の、よかったよ!」
突然、インカムからインストラクター菅野さんの声が聞こえてきました。
あれっ、今できてた!? 言われてみれば、できてたかも!
これはインカムレッスン、最大の恩恵ですね。その場ですぐにアドバイスをもらえたからこそ、「今のでよかったんだ!」と理解することができました。なにしろこちらはヨチヨチ歩きのヒヨコです。何が正解で、何が間違っているのかもわかりません。うまくいったその瞬間に「それでいいんだよ」と言ってもらえると、それが成功体験となって走りの指針になります。もしあとから「今回の走行よかったよ」と言われたとしても、どの部分がどうよかったのか、具体的につかみづらかったと思います。
4本の走行枠を走り切って、じわじわと胸に広がったのは「楽しかったなあ」という思いでした。でも、そればかりではないんです。ほんの少しだけかもしれないけれど、この日、得たものがある。少しだけ、できるようになったことがある。そういう手ごたえがありました。

わたしが参加したのは初級クラスで、完全な先導走行でしたが、その他のクラスもフォローは手厚かったと思います。インストラクターは常にコースにいて参加者を見ているし、走っていないときも、コース図を使って参加者の質問に答えていました。
楽しいばかりじゃない。走って、うまくなれる。うまくなるヒントを持って帰ることができる。「Alpaca Go」は、そんな「練習走行会」でした。ちなみに──、翌日、太もも部分がとんでもない筋肉痛になったことは、言うまでもありません……。


「Alpaca Go」を主催する平山浩司さんにお話を伺いました。
和気あいあいで親しみやすい雰囲気、リピーターが多い印象の「Alpaca Go」を主催する平山浩司さんは、元全日本ロードレース選手権ライダー。本格的に「Alpaca Go」を開催するようになったのは2年ほど前からだそうです。ちなみに、イベント名にもなっている「アルパカ」の由来は、平山さんの妹さんが「お兄ちゃんにそっくり」というアルパカの写真を発見して浸透し、今に至るそうですよ!
「Alpaca Go」主催/平山浩司(ひらやま こうじ)さん

「僕がインストラクターの仕事をしていくなかで、参加しているみなさんに『何かわからないこと、ありますか?』と聞いて回ったんです。『どうしたらいいかわらからない』という人はもちろん、『何を聞いていいのかもわからない』という人もいました。特に初心者や中級者の方は、何をどう聞いていいのかわからない、どう走っていいのかわからない、ということだったんです。そういう方々に『わからなかったら聞いてくださいね』とはどうなのだろう、と疑問を感じました。
それなら話しやすい環境をつくって、苦手な部分、課題をこちらから的確にアドバイスするサービスがあったらいいなと思って始めたのが『Alpaca Go』の走行会なんです。
みなさんサーキットだけではなくツーリングもしますよね。家から出るときに不安があったら、その不安や緊張からその日のリズムって決まってしまいます。常に安全に走って、いつも笑顔で帰って来ることができるように、こういうところで反復練習してほしいなと思っています。『Alpaca Go』はサーキットを速く走るのではなく、反復練習をして、技術を上げることを目的とした走行会なんです。
僕はこれまでにレースをするなかで、『またね』と言って別れたあと、もうその人に会えなくなってしまう経験を、たくさんしてきました。だからこそ今、バイクで楽しむ人たちの笑顔を守りたいな、と思って二輪の仕事をしています」
参加者VOICE
初級クラス:
あみさん/カワサキZX-25R
参加歴:2回

「わたしはワインディングを走ることが多いのですが、ソロツーリングがほとんどです。山の中で転んだりして、何かがあっても助けてもらうことは難しいでしょう。それで『うまくなりたい』と思うようになりました。
今回参加して、すごく楽しかったです。後半になるほど、お尻をずらせるようになってきたかなと思います。あとは肘に力が入ることが多かったけれど、インカムでその瞬間に『肘に力を入れないように』と教えていただけて気付けたので、よかったです。
サーキットって無縁かなと思っていたのですが、ちょっとはまりそう。すごく楽しかったので……。またアルパカさんの走行会があったら参加したいなと思います!」
初級クラス:
古橋香織(ふるはし かおり)さん/ホンダCBR250RR
参加歴:4~5回

「バイク歴は20年ほどになるのですが、全然うまくならなくて。友達にレッスンを勧められて参加しました。小さなサーキットに仲間と行って下手なりに楽しんでいたけれど、もうちょっとうまくなりたいな、と思って。
今回はインカムレッスンだったので、『今のいいよ!』『力が入っているね』と言われると、『そうなんだ』とわかる。後から言われるのとその場で言われるのとでは違いますよね。
これまではバイクを寝かすのが怖かったのですが、今日、ハンドルに顔を近づけてアクセルを開けることができました! これまで変に力が入ってすごく疲れていたのですけど、走り終わった後はそこまで疲れなかった。言われたとおりにやるとこんなに違うんだなと思いました」
レポートした人
伊藤英里(いとう えり)
MotoGPジャーナリスト。バイク歴は約20年だが、いまだにUターンができない。愛車ヤマハYZF-R25で、自分のペースでサーキットを走るのが好き。

