排気音をどう下げるか?

マツダは「マツダ・ロードスター」の商品改良を行なった。改良を行なった一番の理由は最新の車外騒音規制に対応するためである。対象となったのはEUや日本などで導入している国連法規で、これが強化され厳しくなる。70㏈(デシベル)だった規制値が68㏈になるという。1台のクルマが2台になったときのうるささの変化が+3㏈だそう。2㏈なので半分まで小さくしなくてもいいが、音のエネルギーはだいぶ低減しなければならない。


規制に適合させるには、一定速で走っているときと全開加速のとき、双方の音を下げる必要がある。一定速の際はタイヤの音が大勢を占めるので、タイヤで対応。トレッド面が道路に接地する際に音を発するので、トレッドの溝を浅くしたり、トレッド面のゴムの配合を変えて硬さを変更したりして対応した。トレッド面のゴム材だけを変更するとケース剛性とのバランスがとれなくなるので、トレッド面の剛性とサイドウォールの剛性のバランスをとるチューニングを行なっている。

全開加速の際の音はエンジンの吸気音と排気音が支配的となる。吸気音に関しては、エアクリーナーの下やエアホースにレゾネーターを追加して共鳴を意図的に起こし、特定の周波数を下げている。また、エアクリーナーボックスの表面にリブを追加することで剛性を上げ、ボックス表面からの放射音低減を図った。


排気音への対策はプリサイレンサーとメインサイレンサーの容量拡大で対応。ロードスターには2.0L直列4気筒自然吸気エンジンを積むリトラクタブルハードトップ車のRFと、1.5L直列4気筒自然吸気エンジンを積むソフトトップ車の2つの系統がある。車外騒音規制への対応で厳しかったのは燃焼エネルギーの大きな2.0Lエンジン車(つまりRF)のほうで、メインサイレンサーの容量は26Lから34Lに拡大した。1.5L車は24Lから26Lに拡大している(従来の2.0L車用をスライドさせた)。
排気音を下げるには径を絞る手もあるが、この手段を選択すると出力に悪影響を及ぼすことが考えられるため、サイレンサーの容量アップだけで対応することにした。当初、この手段だけで対応しようとすると48Lの容量が必要だとの試算が出た。5kg程度重くなることが予想されたし、下側にも張り出して見栄えが悪くなり、空力にも悪影響を及ぼす懸念があった。そこで、内部構造を工夫することで容量を34Lに抑えるとともに、重量増を500g程度に抑えた。


メインサイレンサー容量拡大の影響で、RFのトランクルームは一段くぼんだ部分がわずかに浅くなっている(1.5Lエンジンを積むソフトトップ車は変化なし)。
総安性をアップさせたサイレンサーのハンガーラバー


開発当初はメインサイレンサーの容量が48Lになって重量も大幅に増えることが予想されたため、操安性への悪影響を抑えるためサイレンサーを吊る部分のハンガーラバーの構造と材質を見直すことにした。大きくなることよりも重くなることが懸念点である。トランクルームの下にあるサイレンサーは重心点から遠くにあるためヨー慣性モーメントを増幅させてしまう。開発当初は5kg近く重くなる試算が出ていたので、例えば、急なレーンチェンジのような動きをした際に遅れてドーンと振り子を食らったような衝撃が出る。実際、違和感のある乗り味になったという。


そこで、ハンガーラバーの構造と材質を見直した。新構造のハンガーラバーはワイヤーがインサートされていることもあり、大きな荷重が入ったときの変位を抑える。大きなサイレンサーを用いているCX-60、CX-80の知見をフィードバックしたものだという。5kg程度見込んだメインサイレンサーの重量増は最終的に500g程度に落ち着いたが、新構造のハンガーラバーは「操安に非常にいい」し、容量を増やしたサイレンサーに合わせた諸元のため当初の予定どおり採用に至っている。



「こんなに良くなるんだったら1.5L車にも使えばよかった」と語ったのは、ロードスターの主査を務める齋藤茂樹氏である。「次のアイテムとして持っておきます。それくらい効果がありました」



ハンガーの長さや径が異なるため、商品改良版の1.5Lエンジン車は従来構造のハンガーラバーを継続採用しているが、「次」の商品改良があるとしたら、1.5Lエンジン車も新構造のハンガーラバーを採用してくるかもしれない。
音はスポーツカーの魅力のひとつ。どうしたか?

静かにしたいのは「車内」ではなく「車外」とはいえ、音のエネルギーが低くなるのは事実。「音のフィードバックがなくて物足りないと感じるお客様もいると想定」し、商品改良で手を打った。商品改良前は一部グレードに設定していたインダクションサウンドエンハンサー(ISE)を1.5Lエンジン車の全車に標準装備としている(2.0Lエンジン車=RFには付いていない)。

エンジン型式:P5-VP[RS]型
総排気量:1496cc
ボア×ストローク:74.5mm×85.8mm
圧縮比:13.0
最高出力:100kW(136ps)/7000rpm
最大トルク:152Nm/4500rpm
燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)



ISEは吸気の圧力変動を直接車内に伝える機構で、利点はレスポンスに優れること。アクセルペダルを踏んだ瞬間に変化が現れるのは(排気ではなく)吸気のためで、踏んだ瞬間に変化が感じられる。今回の商品改良にあたり、要らない音をそぎ落とし、必要な音だけ伝えるようなチューニングを行なったという。
車外騒音規制に対応した2.0Lエンジン車と1.5Lエンジン車、車外騒音規制対応前の2.0Lエンジン車と1.5Lエンジン車ISEなしを乗り比べた。筆者の好みは2.0L車と1.5L車ともに後者(つまり商品改良版)である。2.0L車と1.5L車ともに車室内で聴くエンジン起因の音は確かに低減されているように感じたが、全身を包み込むようなダイレクト感に変わりはないし、さらに言えば音が上質になっており、整っている。

商品改良前のエンジンサウンドが元気いっぱいのアマチュアバンドなら、改良後は息の合ったプロの演奏。整ったきれいなサウンドのおかげで、ロードスターが一段上質になった感すらある。

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