長く愛されている理由は、単に「変わらなかった」からではなく、「変えないために変え続けた」こと。

「手頃な価格で買えるスポーツカー」は、いまや世界的にも希少な存在となった。そんな中、マツダ「ロードスター(MX-5)」は現行ND型の登場から10年以上が経過しながら、いまなお根強い支持を集めている。

米国でもその人気は健在だ。2025年のMX-5 Miataは8727台を販売し、前年比7.7%増を記録。さらに2026年上半期も前年同期を上回っており、モデルライフの長さを考えれば異例ともいえる底堅さを見せている。

マツダ ロードスター

一方、同じ国産FRスポーツとして比較されることの多いトヨタ「GR86」とスバル「BRZ」も、それぞれ独自のポジションを築いている。ただし、この3台を単純に販売台数だけで比較しても、その違いは見えてこない。

注目したいのは、なぜロードスターが発売から10年以上を経ても第一線で支持され続けているのか、という点だ。

現行ND型ロードスターが登場したのは2015年。一般的な乗用車であれば、一度フルモデルチェンジを迎えていてもおかしくない年月が経過している。それでも現在のロードスターに、単純な「古いクルマ」という印象はあまりない。

もちろん、2015年から何も変わっていないわけではない。むしろロードスターは基本的なコンセプトを守りながら、中身を継続的に磨いてきた。

マツダはND型の登場以降、エンジンやシャシー制御、ステアリングフィール、安全装備などに改良を重ねている。2023年に発表された大幅商品改良では、新開発の「アシンメトリックLSD」を採用したほか、MT車にはサーキット走行を想定した「DSC-TRACK」を設定。電動パワーステアリングの制御などにも手が加えられた。

さらに2026年6月にも商品改良を発表し、9月上旬の発売を予定している。登場から11年を迎えてなお商品改良を続けていること自体が、ロードスターというモデルの特徴をよく表している。

外観だけを見れば10年前から大きく変わっていないように感じるが、中身は着実に磨かれてきたのだ。

その根底にあるのが、マツダが一貫して掲げる「人馬一体」という考え方である。

絶対的な速さや最高出力を競うのではなく、ドライバーが意のままにクルマを操れることを重視する。その思想は初代NA型から受け継がれ、現行ND型でも開発の軸となっている。

軽量な車体もその象徴だ。

近年のクルマは安全装備の充実や電動化によって大型化・重量化する傾向にある。そのなかでロードスターは、可能な限り軽さを守ることにこだわってきた。大出力に頼らなくても軽快なハンドリングを楽しめ、一般道の速度域でもスポーツカーらしさを味わえることが大きな魅力である。

また、ソフトトップだけでなく、電動開閉式リトラクタブルハードトップを備える「RF」を設定していることも特徴だ。オープンスポーツらしい開放感を重視するユーザーだけでなく、クーペライクなスタイルや快適性を求める層にも選択肢を広げている。

こうした積み重ねもあり、ロードスターは1989年の初代登場以来、世界累計販売台数126万台以上に達した。

では、GR86やBRZとの違いはどこにあるのか。

両車もまた、日本を代表するFRスポーツカーである。現行GR86とBRZは2021年に登場し、2.4リットル水平対向4気筒エンジンを搭載。GR86は軽快なレスポンスやスポーティな走り、BRZは安定感のあるハンドリングなど、それぞれ異なる味付けが与えられている。

もちろん、GR86とBRZも登場後に年次改良を重ね、操縦性や安全装備などを進化させている。ロードスターだけが改良を続けているわけではない。

違いがあるとすれば、現在のモデルサイクルだ。

ロードスターは10年以上にわたり現行世代を維持しながら熟成を重ねているのに対し、GR86とBRZは2021年に世代交代した比較的新しいモデルをベースに改良を続けている。

また、目指す走りにも違いがある。ロードスターは軽量な2シーターオープンという成り立ちを生かし、絶対的な速さよりクルマとの一体感を重視。一方のGR86とBRZは、より高い動力性能を持つ2+2クーペとして、ワインディングからサーキットまで幅広いスポーツドライビングに対応する。

つまり、同じFRスポーツであっても3台の役割は同じではない。

販売台数もその時々で変化する。実際、米国では2025年にGR86が9940台を販売し、MX-5 Miataの8727台を上回った。一方でロードスターは、登場から10年以上が経過したモデルでありながら前年を上回っている。重要なのは「どれが一番売れているか」ではなく、それぞれが異なる個性によって市場に残り続けていることだ。

電動化やSUV人気の拡大により、こうした比較的手の届きやすいスポーツカーを新たに開発するハードルは以前より高くなっている。それでもロードスター、GR86、BRZがラインアップされ続けているのは、販売台数だけでは測れない役割があるからだ。

その中でもロードスターが特徴的なのは、10年以上にわたって基本コンセプトとスタイルを大きく変えず、それでも商品価値を保ってきたことである。

電動化やSUV人気が進むなか、軽量な2シーターオープンスポーツというロードスターの存在は、むしろ以前より希少になっている。長く愛されている理由は、単に「変わらなかった」からではない。

「変えないために変え続けた」。

その積み重ねこそが、NDロードスターを登場から10年以上経った現在も第一線にとどめている理由なのである。