勝つための最適解は選ばない!
RB26で挑み続けるFDJの最前線
2000年のプロ化以来、26年にわたって進化を続けてきた競技ドリフト。トップカテゴリーではハイレベルな競争を通じてノウハウが蓄積され、勝利を目指すためのマシンメイクにも、一定のセオリーが確立されつつある。
現在の主流は、マクファーソンストラット式フロントサスペンションを備えた車体に、3.0L以上の大排気量ターボエンジンを組み合わせたパッケージだ。特にS14やS15シルビアに2JZを搭載する仕様は、豊富な実績とデータに裏付けられた有力な選択肢となっている。その一方で、スカイラインとRBエンジンにとっては厳しい時代になったとも言えるだろう。

そんな状況下でもR32とRBの組み合わせを貫き、トップカテゴリーのFDJ(フォーミュラドリフトジャパン)で結果を残しているのが、ハリーズオート代表の与座選手だ。
「免許を取って最初に乗ったのは、親から譲ってもらったR33でした。20歳からドリフトを始めて、いろいろなニッサン車を乗り継ぎ、27歳の時に仲間が降りたR32に乗り始めてからはずっとR32です。やっぱり、このカタチが好きだからですかね」。
R32乗りとして頭角を現すきっかけとなったのは、年に一度開催されるR32限定のドリフトイベント『32走』でのドリコン優勝だった。その後はMSCチャレンジのトリプルクラス、エキスパートクラスを制し、2022年にはFDJ2へデビュー。開幕戦で準優勝を果たすと、2023年と2024年にはシリーズランキング2位を獲得するなど、着実に実績を積み重ねてきた。
「その頃はR32にRB25ターボを積んで、550psくらいでした。シーケンシャルミッションも使わず、Hパターンのまま。意外と走行会にいるようなクルマでも勝てるよ、とアピールしたかったんです。ただ、今はFDJ2でも2JZにシーケンシャルが当たり前になってきたので、ちょっと難しいかもしれませんね」。
この言葉からも、与座選手の反骨心がうかがえる。

トップチームが勝利のための最適解を追求する一方で、あえて主流とは異なるマシンを選び、その中で最大限の準備を施して勝機を探る。そんな姿勢は、2025年にFDJへステップアップしてからも変わらなかった。
「今ならS14やS15に2JZというのが、一番勝つのに適したクルマだと思います。データも多いし、部品もそこまで高くない。でも、同じことをやって僕も同じように勝てるかは分からない。それに、今までスカイラインが好き、RBが好きと言ってスポンサーになってくれたり、サーキットまで応援に来てくれた人たちを裏切ることはできない。だから、やっぱりR32で行こうと思いました」。

もっとも、こだわりだけで戦っているわけではない。FDJのレギュレーションや審査傾向を踏まえ、R32ならではの可能性を見出している点も重要だ。
「FDJではNOSが使えるので、RB26改2.8Lでもある程度のトルクを出せます。RB30はトルクが出るけど、高回転まで回せないので自分にはピンと来なかった。D1のようにNOSが使えないルールだったら、正直RBは諦めていたと思います」。
さらにFDJでは、進入時の急激な角度変化だけでなく、コーナリング中に深いドリフトアングルを維持することも求められる。そのため、ダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションにアングルキットを組み合わせたR32でも、十分に勝負できる要素があるという。
その可能性を証明したのが、今シーズンの第4戦SUGOだ。与座選手はFDJでの自己最高位となるベスト8に進出。2JZ勢が多数を占めるトップカテゴリーにおいても、R32が十分に戦えることを結果で示した。
「3.6Lの2JZと追走する時は、置いていかれないように走らせ方を工夫している部分も多いですね。ストレートはツラいけど、横を向いたら意外と差がつかないことも分かりました。これも実際にFDJへR32で出てみなければ分からなかったことです」。


では、その挑戦を支えるHCR32のメカニズムを見ていこう。FDJ2時代は汎用オーバーフェンダーを装着していたが、FDJへのステップアップに合わせてTRA京都のパンデムワイドボディキットを導入。ウイングも同ブランドで統一し、迫力あるBNR32ルックへと進化させた。
ヘッドライトは、後輩が純正品から型を取って製作したFRP製ベースを加工し、LEDを組み込んだもの。ボンネットはBNR32用を約15年にわたって補修しながら使い続けているというから、R32への愛着の深さがうかがえる。

心臓部には、RB26DETTをベースにHKSの2.8Lステップ2キットを組み込んだエンジンを搭載。カムシャフトや燃焼室加工も同キットに準じた仕様で、エンジン製作は豊橋市のKKEDS、セッティングは長野県のTMラボが担当している。

過給器にはギャレットのG40タービンをシングルでセット。さらに、2JZ勢との排気量差を補うため、NOSのドライショットを組み合わせている。
NOSは低中回転域で1基を作動させ、高回転域ではもう1基を追加する2段構成。これにより、ダイナパックで補正係数を掛けない実測値ながら、763ps&88kgmという強力なパフォーマンスを発揮する。

エンジン制御にはLINK G4Xを採用し、レブリミットは8000rpm手前に設定。燃料はレーシングガソリンとハイオクを半分ずつ混合して使用している。
プライベーターとして参戦する与座選手にとって、予備エンジンを常に用意しておくことは難しい。そのため、絶対的な出力を追い求めるのではなく、ある程度のマージンを確保したセットアップとしている。それでも、大排気量の2JZと比較すればトルク面では不利になるため、走行時はできるだけエンジン回転数を落とさないことを意識しているという。

冷却系にも競技車両ならではの工夫が盛り込まれている。ラジエターはコーヨー製を後部座席側へ移設し、エンジンオイルクーラーはインタークーラーの直後に配置。エンジンの熱対策には十分な効果を得られているものの、吸気温度についてはさらなる対策が必要だったため、インタークーラー用のウォータースプレーを追加している。

また、ベルト飛びに悩まされたことから、パワーステアリングはボルボ用の電動ポンプを流用した方式へと変更。トラブルを経験するたびに対策を重ね、実戦での信頼性を高めてきた。

サスペンションも、R32の基本構造を生かしながら大幅にアップデートされている。FDJではサスペンション形式の変更が禁止されているため、フロントは純正と同じダブルウィッシュボーン式を維持。そのうえで、ロアアームからナックル、アップライトまで一式で構成されるジャスト製アングルキットを導入し、大幅な切れ角アップを実現している。
これに合わせて、サスペンションタワーの車高調取り付け位置も大きくオフセット。車高調はRS-R製で、スプリングレートはフロント20kg/mm、リヤ6kg/mmという組み合わせだ。フロントが非常に硬い設定となっているのは、アングルキットによってレバー比が変化しているためである。

リヤは純正形状のマルチリンクを維持し、スキッドレーシング製のピロアームで、ローダウンに伴うアーム角度の変化を補正している。

ブレーキには、フットブレーキ用と油圧サイドブレーキ用にそれぞれ2ポットキャリパーを備えた、ハリーズオートのDTM製OEMモデルを採用。ブレーキパッドにはDTMのワールドワンブランドを組み合わせ、制動とドリフト中の姿勢制御を独立して行える仕様としている。

駆動系では、昨シーズンに繰り返したデフブローが大きな転機となった。ファイナル変更時の作業性も考慮し、今シーズンからクイックチェンジ式デフを導入。デフ内部はスプール仕様とし、ドライブシャフトにはワイズファブ製を採用する。ミッションはRB26用のOS-88シーケンシャル6速だ。

タイヤはサポートを受けるファイベックス・ゲルン055Dを使用。サイズはフロント265/35R18、リヤ285/35R18だ。ホイールはAMEトレーサーGT-Vの10.5J+15を前後に装着する。

現在の競技ドリフトではリヤに19インチを選ぶ例も多いが、与座選手は18インチを継続している。昨シーズンは18インチのグリップ力でもドライブシャフトやデフの破損が相次いだことに加え、RB26改2.8Lの最大トルクを考慮すると、現時点では19インチを必要としていないという判断だ。


室内は、競技に必要な装備を中心とした機能優先の仕上がり。NOSのボトルは助手席に配置し、運転席からもバルブの状態や圧力を確認しやすいレイアウトとしている。
後部座席側には隔壁を設け、その後方に燃料タンクとリヤラジエターを配置。重量物をできるだけ車体中央に寄せることで、重量配分にも配慮されている。

ボディとロールケージはFDJ2参戦時に製作したもので、FDJへのステップアップ後も小変更を加えながら使い続けている。ただし、将来的には新たなR32をベースとしたボディ製作も構想中。その際には軽量化やさらなる剛性アップなど、現行車両では手を入れきれていない部分を改善したい考えだ。

エンジン出力から足回り、駆動系に至るまで、実戦で得た課題を一つずつ解消しながら進化してきたHCR32。そこには、単に好きなクルマに乗り続けるだけではない、勝つための明確な戦略がある。
成熟した競技ドリフトの世界で、R32とRB26はどこまで戦えるのか。その答えを、自らの走りとマシンづくりで示し続ける与座選手。セオリーが固まりつつある今だからこそ、この挑戦には大きな意味がある。R32、そしてRBファンの期待を背負ったHCR32のさらなる進化に注目したい。
PHOTO&REPORT:長谷川実路(Miro HASEGAWA)
●取材協力:Harry’s Auto 静岡県浜松市中央区篠原町2282-2
