2026年モデルのYZ450Fは、これまでの評価をさらに高めつつ、レース現場からのフィードバックを忠実に反映した大規模な技術的アップデートを遂げた。キーワードは「扱いやすさの深化」であり、単にパワーを増強するのではなく、ライダーが限界まで攻め込める安定性と応答性を獲得している。

リニアさと爆発力が融合したエンジン

 


エンジンにおいては、スロットル操作に対する応答性をさらにリニアに調整。従来モデルの課題とされていた「スロットル開度と出力のズレ感」を解消するべく、吸気ポート形状を上流部は長円断面化、下流部はタンブル流を発生しやすい形状に最適化している。この変更によって、特に低速域での燃焼効率が改善し、出力特性は従来以上にフラットで安定した。加えて、レブリミッターの回転数が引き上げられたことにより、高回転域でのパワー維持力も強化されている。

吸気系には新たにレゾネータが追加され、吸気脈動の平滑化と吸気騒音の低減を両立。吸気ダクトの形状が見直されて吸入量アップ。これらにより、従来よりも高回転域での伸びが得やすくなった。

同様に排気系にもレゾネータを追加し、低中速域のトルクが4%向上。サイレンサーの角度変更によりリアフェンダーとのクリアランスが拡大され、整備性と取り回しが改善された。サイレンサー内部のパンチングパイプも再設計され、騒音規制と出力性能の両立がはかられている。レーシングマシンには音量規制があるが、レブリミッターの作動回転数が上がると吸排気音が大きくなってしまう。吸気にレゾネーターと吸気ダクトを追加して吸気騒音を低減。サイレンサーも内部構造を変更してパワーと音量を両立させている。

スロットルをひねった瞬間、リニアに反応するパワーデリバリーは、ライダーの意志とマシンがシンクロする感覚を生み出す。低速域では粘り強く、高速域では余裕を持って伸びる。まるで「使えるパワー」が一層広がった印象だ。
さらにレブリミットの引き上げによってストレートでの伸びが強調され、加速のロングフィーリングがライダーに余裕を与える。


クラッチは油圧化され、操作荷重が約30%低減。さらに容量アップと給油穴配置の最適化によって、従来比で10%の伝達トルク増加と焼けへの耐性強化を実現した。ワイヤークラッチ特有の調整の手間がなくなり、耐久性も大幅に向上。長時間のヒートでも変わらないフィーリングが維持される。

クラッチレバーのフィーリングは自然で、ワイヤークラッチからの移行ユーザーも違和感なく操作できるよう調整されている。クラッチの発熱対策としては、ミッション軸内のブッシュ構造によりオイル供給が改善され、長時間走行時の安定性が確保された。開発者は「トップライダーでもアマチュアでも、最後の1周まで安心して攻められる」と胸を張る。

接地感と安心感が向上したシャシー

シャシー面では、メインフレームの剛性バランスを全面的に見直している。従来は縦方向の剛性が高く突き上げ感が強かったが、2026年モデルでは適度に剛性を低減し、接地感を向上。さらに新開発のエンジンマウントブラケットは左右非対称の板厚を持たせることで、フレームのねじれ挙動を補正し、高負荷時のスタビリティを向上させている。

カヤバの挑戦 ― 「グランドフックコンセプト」

新型YZ450Fに搭載されるカヤバ製サスペンションは、「GROUND HOOK CONCEPT」と名付けられた高い接地性の思想を軸に開発されている。

走行中、タイヤは常に路面を捉え、ライダーはその情報を適度に受け取る。必要以上に跳ねない、しかし鈍くもならない。まさに「安心して攻められる」フィーリングだ。
リヤサスペンションには新構造のベースバルブを導入。従来の共通ポート構造を廃し、伸側と圧側を分離したことで、極低速から安定した減衰力を発揮できるようになった。またピストンサイズを24mmから28mmへと拡大し、より繊細な減衰調整を可能にしている。さらにリヤクッションユニットには6ポートピストンを採用し、バルブ応力を分散。これにより高減衰のセッティングでも耐久性が向上し、吸収感を確保しながら路面追従性を維持することが可能となった。低速から高速まで全域で安定感を発揮し、ジャンプ着地や連続ギャップでも不安がない。前後サスペンションには減衰制御技術、摩擦制御技術、調整機構が重要となる。動き出しではフリクションの制御が重要になるが、単にフリクションを落とすだけではスカスカした乗り味になってしまうので試行錯誤を繰り返して理想的なフィーリングを実現。減衰制御も細部まで見直されている。中速域、高速域でもそれぞれ車種専用のセッティングが施されている。

 

軽量化とディテールの積み重ね

細部の軽量化も重要なポイントだ。メインフレームの溶接には新溶接機を導入し、S-AWP工法によって余盛を削減。結果的に80gの軽量化を実現している。さらに樹脂ガイドワイヤ(-13.1g)、樹脂ホースガイド(-13.9g)、小径チェーンテンショナ(-62.0g)など、細かな部品単位での軽量化も積極的に実施されている。これらは数値的には小さく見えるが、積み重なることでマシン全体の取り回し性とレスポンスを確実に改善している。シートも大きな改良点だ。グリップ力を従来比で50%向上させつつ、前方への移動をしやすくする特殊なシボ加工を採用。これにより加速時の安定性とコーナリング時の自由度を両立している。特許出願中という点からも、開発陣のこだわりがうかがえる。

機能美を感じさせるデザイン

外装デザインは、単なる見た目の刷新にとどまらず、機能性を兼ね備えている。新しいフロントゼッケンはよりシャープな印象を与え、サイドカバーはニーグリップ性を高めながら足さばきを妨げない形状へと改良された。リアフェンダーは掴みやすさにこだわった設計となり、実戦での取り扱い性を向上。さらに外装パネルの固定はすべて8mmの工具で統一され、整備性が大きく向上している。

開発者の言葉とライダーの声

開発責任者の石埜敦史氏は「勝利に直結する性能をすべてのライダーに提供する。それが今回の使命だった」と語る。彼の言葉通り、トップライダーにとっては勝ち続けるための武器となり、アマチュアにとっては昨日の自分を超えるための相棒となる。
試乗したライダーからも「疲れにくい」「反応が自然で怖さがない」と好意的な声が多く聞かれた。特に油圧クラッチのフィーリングとサスペンションの接地感は絶賛され、「これなら最後まで集中して走れる」という感想が印象的だった。

フラッグシップの新たな到達点

新型YZ450Fは、単なるスペックの上積みではなく、「扱いやすさ」という本質を極めたマシンに仕上がっている。リニアなエンジン、信頼性の高いクラッチ、接地感あふれるシャーシとサスペンション、そして細部まで作り込まれた軽量化とデザイン。すべてが勝利のために結集した。
ヤマハは「誰もが勝者になれる」という哲学を掲げてきた。その思想をもっとも高い次元で体現したのが、この新型YZ450Fだろう。2026年シーズン、トップカテゴリーの表彰台を青く染めるのは必然かもしれない。