現代のクルマに、より安楽な姿勢を求めた結果かも

“片手12時ハンドル運転”は、アームレストなどに重心を傾けて身体を保持し、リーチが伸びた右手でハンドルの頂点を保持する運転スタイルを指す。
右肩をハンドルの正面に置けば12時の位置を保持して左右のどちらにも操舵できるうえ、伸ばした腕はハンドルの頂点に乗せる形をとるため、腕の重さをハンドルで支えて肩周りの緊張を解くことができる。
ハンドル操作において腕を伸ばしきる行為はタブーとされるが、12時の位置からなら左右に切り込むほど肘に余裕が生まれるため、ある程度の操舵角は確保可能だ。仮に持ち替えが必要な場面でも、パワーステアリングさえ搭載されていれば“手のひら回し”で対応できる。
こうした運転が可能になった背景には、軽い力で回せる“電動パワーステアリング”、変速操作が不要な“オートマチック車”、そして左肘の置き場に適した“アームレスト”の3つの存在が大きい。加えて、FF車などで多いブレーキペダルの過度なオフセット量もそれを助長しているかもしれない。
この観点で見ると、片手12時ハンドル運転は現代のクルマにとって意外なほど合理的な運転姿勢と言える。時代とともに変化していく車内環境のなかで、より安楽な運転姿勢を取ろうとする自然適応が、不適切な運転姿勢を招いている可能性も否定できない。
ただしこのような運転が通用するのは、低速かつハンドルの操作量が少ないごく限られた環境に留まる。片手12時ハンドル運転が抱える安全上のリスクは極めて高い。
“片手12時ハンドル運転”が抱える数え切れないデメリット

片手12時ハンドル運転の欠点は、緊急時の対応能力が著しく低いことにある。片手では咄嗟の回避行動でハンドルを大きく、かつ素早く切ることができないうえ、正確な舵角量を得ることも困難だ。
また、三半規管がある頭部が傾きやすくなることで平衡感覚も狂いがちになり、車両の挙動を正確に察知できなくなる。ハンドルに掴まるような操作になるため、強い横Gが加わる状況では身体が安定せず、ハンドル操作も不安定になりがちだ。
さらに深刻な点は、安全システムとの相性の悪さが挙がる。12時位置に腕があると、万が一エアバッグが展開した際には顔面に弾き飛ばされてしまう。加えて、身体の傾きによりシートベルトも肩口から外れやすいため、運が悪ければ右肩の脱臼や骨折を起こしかねない。
シートポジションへの悪影響も無視できない。ハンドルの12時の位置を保持するためには身体を斜めに構える必要があるため自然と右足が前に出る形となり、足元の窮屈感を払拭するためにシート位置は後方へ下げがちとなる。
その結果、必要な場面で急制動がかけられないばかりか、バックレストを寝かせ気味にしていた場合にはブレーキペダルを強く踏み込むことすら難しくなるだろう。この状態では、危険を感じて正しい姿勢に戻そうとしても、乱れた姿勢と遠すぎるシートポジションではハンドルとブレーキによる回避操作もままならない。
加えて、長時間の姿勢の乱れは、長期視点で骨盤や体幹のズレを招く恐れもある。疲労軽減のために行っている姿勢が、かえって腰痛など身体への負担を増大させている可能性もあるということだ。
以上のようにデメリットを挙げればきりがない。片手12時ハンドル運転は安全を放棄した運転と言ってもよいだろう。
同乗者を不安にさせる運転は「ダサくて格好悪い」

片手運転そのものが危険であるわけではない。実際の運転においては、シフトチェンジや各種スイッチの操作、あるいは後退時の目視確認など、瞬間的に片手操作を求められる場面は多く存在する。
両手で常にガッチリとハンドルを保持した操作は、むしろ肩に余計な力が入りやすいうえ、左右の腕の動きが反発してしまいスムーズな操舵をかえって難しくしてしまう。
直線道路のようにある程度の安全が予測できる状況においては、疲労軽減のためにハンドル下部などを軽く保持する片手運転も立派なテクニックだ。ただし、こうした片手運転はあくまで適切な運転姿勢が維持され、かつ即座に両手保持へ移行できる備えがある場合のみに限られる。
片手12時ハンドル運転の本質的な問題点は、常に運転姿勢が乱れていることだ。正しい運転姿勢を取ると、片手で12時位置を長時間保持し続けることは不可能に近い。つまり、12時位置を握って運転できていること自体が、シートポジションの誤りや身体の傾きの証明となる。
身体は自然とシートからはみ出すため、後続車からは片手12時ハンドル運転をしている姿が一目瞭然だ。そのうえ、ハンドルとペダル操作の連携が上手く行えないため走行ラインも安定しないためフラつきや車線逸脱なども起こしやすく、周囲からは荒々しい運転に見える。
片手12時ハンドル運転は周囲のドライバーに不安感や警戒心を与えるばかりではない。もっとも身近な存在である同乗者には、それ以上の心理的ストレスを強いていることをくれぐれも認識しておきたい。