自前主義の限界と「合資新勢力」の台頭。過去最大規模の祭典で浮き彫りになった、日系4社の現状
中国・北京市で4月24日から5月3日にかけて開催されていた北京モーターショー(第19回北京国際自動車展)。中国では北京と上海で交互にモーターショーが開催されるが、今回の北京モーターショーは前回(2024年)の会場の隣に新設された会場との同時開催となり、展示面積は一挙1.7倍となる38万m2で実施された。

東京ドーム約8個分に相当する広大な会場では、21の国と地域から1000を超えるメーカーが集結するなど、世界史上過去最大規模のモーターショーとなっている。その中には、もちろん日系のブランドも含まれている。今回、北京モーターショーに出展したのはトヨタ、ホンダ、日産、マツダの4社。それぞれのブースの様子を、簡単に振り返ってみよう。
日産:エスピノーサ社長が登場。2台のコンセプトカーを発表するなど話題豊富!

まず目を引いたのが日産だ。日産は東風汽車との合弁である東風日産が主導して企画・開発したEVサルーン「N7」を投入し、発売後わずか50日で初期受注台数が2万台を突破するヒットモデルとなった。以降、N7のPHEV版となるN6や、ピックアップトラックのフロンティアプロPHEVを矢継ぎ早に投入している。

北京モーターショー開幕の半月前に発表された長期ビジョンでは、日本、米国、そして中国をリード市場と位置づける新たなグローバル戦略を発表した。これまで以上に中国市場を重視していく方針だが、それを裏付けるべく、プレスカンファレンスにはイヴァン エスピノーサ社長(CEO)が登壇。「中国のスピード感と先進的なローカル技術を日産のクオリティ基準と融合させることで、私たちは多様なパワートレインとインテリジェント機能を備えた車両の開発を加速してきました」とエスピノーサ社長は胸を張った。

また、日産は中国がイノベーションと輸出のグローバルハブとして重要な役割を果たすことを強調し、中国で開発・生産された競争力の高いモデルの輸出を開始することを表明。N7は中南米およびアセアン市場へ、フロンティア プロはそれらに加えて中東市場へ輸出する計画だ。
プレスカンファレンスのステージには、3台のSUVが並んでいた。そのうち2台はPHEVを前提としたSUVのコンセプトカーで、「アーバンSUV PHEVコンセプト」と「テラノPHEVコンセプト」。絵に描いた餅ではなく、どちらも1年以内に市販モデルを発表する予定だという。もう1台は、北京モーターショーの半月前から発売が開始された新型SUVの「NX8」である。


NX8は構想から開発、市場投入までを24ヶ月未満で実現したというが、そうした驚異的な開発スピードを支えているのが東風汽車とのコラボレーションだ。日本主導ではなく、東風日産へ大幅な権限委譲を行なうことでコスト競争力と開発スピードを大幅に向上、さらに現地サプライヤーの比率を大幅に増加させ、スピーディな意思決定が可能な体制を構築している。東風日産のR&Dチームは4000人規模に拡大し、開発スピードはさらに向上したそうだ。

ちなみに、今回の北京モーターショーにおいて社長自らがプレスカンファレンスに登壇した日系OEMは日産のみであった。会社のトップが現地まで足を運んでスピーチをすることは、単純明快ながら「中国市場に力を入れている」という姿勢の強烈なアピールになる…そんな空気が日産ブースからは強く感じられた。
トヨタ:現地企業の技術を採り入れたbZシリーズがスマッシュヒット中!

トヨタも北京モーターショーでは存在感を放っていた。ブースの中心となっていたのは、プレセールが始まったばかりのフラッグシップEV「bZ7」だ。広汽トヨタが製造・販売を担当するフルサイズEVサルーンで、車載OSや自動運転システムにはファーウェイを、さらにシャオミのスマートエコシステムを取り入れるなど、中国トップ企業の技術を惜しみなく採用している。約18万元(約380万〜400万円)前後という価格も競争力があり、現地での評判も非常に良いようだ。
同じく広汽トヨタが展開するbZシリーズで大ヒットとなっているのが、SUVの「bZ3X」だ。2025年の年間販売台数は約7万台を記録したが、これは合弁企業のモデルとしてはトップクラス。現地の自動運転スタートアップ・モメンタ(Momenta)の運転支援機能や居心地の良い室内なども好評だが、高評価の一番の要素は価格だ。スタート価格を10万元を切る9.98万元(約220万円)に設定しており、「このスペックのトヨタ車がBYDと同じ価格帯なら、bZ3Xを選ぶ」というユーザーが多いようだ。

マツダ:ロードスターをサプライズ展示。中国でも「走る歓び」を独自に追求

マツダも、中国市場での生き残りに懸命だ。長安汽車との合弁企業である長安マツダのブースでは、主力モデルとなるSUVの「EZ-60」とセダンの「EZ-6」が展示されていた。どちらも長安汽車のプラットフォームを活用しつつ、マツダのデザインを落とし込み、走りのチューニングを行なったモデルだ。EZ-60はEVとREEV(レンジエクステンダー)の2種類があり、2025年の上海モーターショーでの発表後、わずか48時間で1万台以上の予約受注を獲得して話題となった。ショーの直前には、2026年の干支にちなんだ特別仕様車「馬年版」も発売された。

一方、長安マツダの反撃の第一弾として2024年に発売されたEZ-6はコンスタントに月数千台の販売を維持しており、海外版(マツダ6e)も欧州や豪州、アセアンへの導入が進んでいる。また、2026年「ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど、そのデザインが高く評価されている点はマツダの面目躍如といったところだろう。
そして、メインステージに鎮座していたのが「MX-5 RF(ロードスターRF)」だ。この展示はある意味サプライズ…というのも、現在、長安マツダではロードスターを販売していないからだ(一時、輸入販売されていた時期もあった)。マツダ・ブースのテーマは「依然としてマツダ」。プレスカンファレンスではマツダ(中国)企業管理有限公司董事長の中島 徹氏が登壇し、「時代や環境、動力源がどのように変化しようとも、マツダは『人間中心』の価値観を堅持し、『走る歓び(駕乗愉悦)』を進化させ続ける」と述べたが、そのメッセージを象徴するモデルとして、MX-5を据えたようだ。

室内の快適性が最重視される中国市場では、日本やヨーロッパのようなファン・トゥ・ドライブを好むユーザーは少数派だ。マツダはそれでも「1%のユーザーに振り向いてもらえばいい」と割り切っている。中国のマーケット規模はおよそ3400万台だから、その1%でも約34万台。前年比から約15%増となったとはいえ、昨年の中国での販売が約8万7000台だった長安マツダにとっては、充分過ぎる数字と言えるだろう。
ホンダ:プレスカンファレンスも新型車の展示もなし…

残念ながら、元気がなかったのがホンダだ。今回、日系OEMでは唯一、プレスカンファレンスの実施を見送った。「2026 ビジネスアップデート(企業方針説明会)」を北京モーターショー後に控えており、そこで中国戦略の見直しを発表する予定だったから致し方ないのかもしれないが、会期中はそこかしこで200以上のプレスカンファレンスが開かれて活況を呈していた様を見ると、ちょっと寂しく感じられたのも事実だ。

新型車の発表もなく、聞こえてくるのは広州汽車との合弁である広汽ホンダの工場の稼働を停止、東風ホンダの工場も一部休止を検討するなど、少し後ろ向きなニュースばかりというのも残念。2025年のホンダの中国の販売台数は約61万台で、前年比24%減。ピークだった2020年(約162万台)から約6割強もの減少だというのだから、落ち込み具合は尋常ではない。
ブースに足を運んでみると、F1やMotoGPなどのレーシングマシン、二輪車などのクルマ以外のモビリティも展示されており、バラエティに富んだ内容…というよりも、的を絞った強いメッセージ性に欠けると感じられたのが正直なところだ。何しろ、初公開の新型車が1台もないのは寂しい。
次世代EVブランド「烨(Ye/イエ)」シリーズの「P7」(広汽ホンダ版)と「S7」(東風ホンダ版)の2台は展示されていたものの、発売が2024年ということもあり、新鮮味という点での注目度は高くなかった。さらに、本来ならば2025年に発売される予定だったが市場投入が延期されている同シリーズのフラッグシップモデル「GT」は、影も形もなかった。
こうした事態を打開するため、ホンダは北京モーターショー直後に開催した「2026 ビジネスアップデート(企業方針説明会)」において、これまでの完全な自前主義からの脱却を宣言。今後の中国市場への新エネルギー車投入において、「現地パートナーのプラットフォームを活用する」方針を明言した。中国国内ですでに流通している標準部品や現地技術を積極的に活用し、開発プロセスの半減と大幅なコスト低減に取り組んでいくという。
日産、トヨタ、マツダが、中国の現地メーカーの技術やリソースを貪欲に取り入れる「合資新勢力」としての生き残り戦略で一定の成果を出し始めている中、ホンダもついに現実的なサバイバル路線へと本格的に舵を切った。かつての栄光やプライドを捨て、現地と融合する「中国スピード」を手に入れた時、日系ブランドの真の反撃が始まるのかもしれない。





