1.4L発電特化型エンジン+5-in-1電動ユニット搭載により、燃費と静粛性が大幅進化

日産自動車は2代目となる新型キックスを発売した。このレポートではパワートレーンや走りに関連する制御技術について触れることにする。キックスの開発陣がライバルとして想定するのはホンダ・ヴェゼルとトヨタ・カローラクロスだという。どちらもハイブリッド車の設定がある。キックスもe-POWER(イーパワー)と呼ぶハイブリッドシステムを搭載するが、e-POWERの特徴はエンジンを発電専用に使用することだ。

アメリカンフットボールのヘルメットからインスパイアされたというフロントフェイスが独自の存在感を放つ新型キックス。

ホンダのe:HEV(イーエイチイーブイ)も走行シーンのほとんどでエンジンは発電に徹し、エンジンの力を直接タイヤに伝えたほうが効率のいい状況でのみクラッチをつないでエンジン直結走行となる。日産のe-POWERはエンジンとタイヤ軸は機械的につながっておらず、発電用モーターを回すのみ。つまり100%モーター走行で、アクセルペダルを通じて感じる走りの感覚は電気自動車(EV)と同じだ。

いっぽうトヨタのハイブリッドシステムはエンジンが主体の構成。モーターの力のみで走るEV走行も行なうが、エンジンの弱点をモーターで補う格好となる。代を重ねるごと、商品改良を重ねるごとにエンジンノイズは抑えられてはいるが、EV走行をしているときと、エンジンがかかって走りをアシストしているときの音の落差は大きい(エンジンがかかるといきなりうるさくなる)。その代わり、圧倒的な燃費の良さは大きな魅力だ。

新型キックスのボディサイズは全長4365mm×全幅1800mm×全高1615mm(2WD)/1610mm(4WD)。先代と比べると、全長75mm、全幅40mm、全高0〜5mmほど大きくなっている。

新型キックスは第3世代に位置付けられる進化したe-POWERを積んでいる。先代キックスの場合、2020年6月発売当時(前期型)は第1世代を搭載していたが、2022年7月のマイナーチェンジ(後期型)で第2世代に置き換えられている。前期、後期を通じてエンジンはHR12DE型1.2L直列3気筒自然吸気を搭載。後期型の走行用モーターの最高出力は100kW、最大トルクは280Nmである。WLTCモード燃費は23.0km/L(2WD/FF)だった。

新型キックスはセレナe-POWERにも搭載されるHR14DDe型の1.4L直列3気筒自然吸気エンジンを搭載する。バッテリー残量が少なくなると発電のためにエンジンをかける必要が出てくるが、排気量が大きくなって発電能力が増したため、エンジンをかけている時間が少なくて済む。WLTC市街地モードの走行パターン(約10分)では、先代キックスが4回エンジン始動していたのに対し、新型は1回だけ。他車(冒頭の想定ライバルから想像してほしい)は10回と5回だそうだ。

パワートレインには、1.4Lの発電特化型エンジンと新開発の「5-in-1」電動ユニットを組み合わせた第3世代e-POWERを採用している。

エンジン始動頻度を抑えているだけでなく、エンジンは車速がある程度上昇して走行音が高まった状態でかけるようにしている。そのほうがエンジンの始動音や振動、エンジンの運転音が目立たないからだ。50km/h定常走行時、先代は2400rpmで発電を行なっていたが、新型は2000rpmで発電を行なう。これもエンジン音を目立たなくするためだ。

定常走行では105km/hまで最も効率のいい2000rpmを維持して走るという。e-POWERは都市伝説的に「高速燃費が悪い」と伝えられているが、新型キックスの開発陣は「それは都市伝説です」と断言する。気になる高速燃費については、次の試乗機会で確認してみたい。

HR12DE型はガソリン車向けに開発したエンジンをe-POWER向けに転用していたが、HR14DDeは発電特化型としてe-POWER向け専用に開発。シリンダーブロックの剛性を高めているのも振動・騒音の低減に効いている。

第3世代は発電用モーターと走行用モーター、発電用モーターに組み合わせる増速ギヤと走行用モーターに組み合わせる減速ギヤ、それに電気のやりとりを制御するインバーターで構成する電動ユニットが新しくなっている。先代キックスが搭載していた第2世代は、個々のユニットが独立していた(走行用モーターとインバーターのみ一体)が、新型が搭載する第3世代はすべてのユニットがひとつのケースに収まる5-in-1の構造となっている。これも静粛性の向上に貢献している。

インバーター、発電機、減速機、増速機、モーターという構成部品を一体化した5-in-1ユニット。モーターは平角線コイルの採用で大電流を流せるようにし、インバーターは両面冷却構造の最新世代パワーモジュールで高速域の効率を高めた。

短時間ではあったが都内を試乗した際は、エンジンの存在を音の面でも、振動の面でも意識させられることはなかった。アクセルペダルの踏み込みに対する力の出方も含め、フィーリングは限りなくEVに近い。エンジンは完全に存在を消しており、黒子に徹している(乗員に気づかせないようこっそり発電している)。

さらに、第3世代e-POWERではモーターやインバーターなど各ユニットが進化し、損失が低減。言い換えれば効率が向上しており、燃費向上に寄与している。走行用モーターの最高出力は105kW、最大トルクは315Nmで、先代後期型比でそれぞれ5%、12.5%向上している。ガソリンエンジンでいえば3.0L自然吸気相当の最大トルクをエンジン車より応答良く発生するので(2WDの車重は1430〜1480kg)、日常使いでストレスを感じることはまずないだろう。

上級グレードの「G」は19インチアルミホイールを採用(タイヤサイズは225/45R19)。
標準グレードの「X」は17インチアルミホイールを履く(タイヤサイズは215/60R17)。

燃費面では回生協調ブレーキの採用も大きい。新型はドライバーのブレーキ操作に対して回生ブレーキと摩擦(油圧)ブレーキの配分を自動で制御する回生協調ブレーキを採用している。これにより、ブレーキング時はエネルギー回生をより効率的に行なえるようになった。新型キックス(2WD/FF、最上級グレードのGを除く)のWLTCモード燃費は先代比11.7%向上の25.7km/Lとなっているが、回生協調ブレーキの貢献度はかなり大きい。

先代はバッテリー残量が少なくなったとき以外に、ブレーキブースター用のエンジンの負圧がなくなったときに、負圧を作る目的でエンジンを始動させるケースがあった。新型は電動ブースター(見たところボッシュのiBoosterのよう)を採用しているので負圧を必要とせず、その点でもエンジンの始動頻度は減っているはずである。

新型キックスは電動ブレーキブースターを採用。減速時のエネルギーをできるだけ回生で回収し、不足分を摩擦ブレーキで補う協調制御を行なう。

先代前期型のドライブモードはNORMAL、S(Smart)、ECOの3種類。SとECOを選択した際はアクセルペダルを戻した際の回生ブレーキによる減速力が強くなり、ワンペダル感覚でのドライブが可能だった。後期型ではSTANDARD、SPORT、ECOに変更された。SPORT、ECOで回生ブレーキが強くなる設定である。さらにSPORT、ECO選択時も、減速がより強くなるBレンジに切り換えられるようになった。

新型はSTANDARD、SPORT、ECO、SNOW(4WDのみ)の4種類を設定。モードの切り換えはプッシュ式スイッチからトグルスイッチに変更されている。SPORTとECO選択時に回生ブレーキが強くなるのは先代後期型と同様。先代後期型ではパワースイッチをオフにすると次回始動時はECOモードを選択する設定になっていたが、新型では前回選択していたモードがそのまま維持されるようになった(先代前期型と同じ)。

12.3インチのディスプレイをふたつ並べた、先進感あるインパネ。インテリアのコンセプトは「守られている安心感と心地よい開放感の両立」で、乗員が包まれるように感じつつ、同時に広がりも感じられる空間づくりが重視された。

前述したように、先代キックスは回生協調ブレーキを適用していなかった。そこで後期型では、減速時の運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリーに蓄える回生ブレーキが強くなるECOモードをデフォルトにし、次回起動時に強制的にECOモードにすることで、燃費を向上させる考え方だったのである。

新型は回生協調ブレーキによって効率良くエネルギーを回生できるようになったため、ECOをデフォルトにする必要がなくなった。アクセルを戻したときの減速が弱いSTANDARDがデフォルトである。さらに、パワースイッチをオフにしても次回起動時に前回選択していたモードがそのまま維持されるようにした。STANDARDから使い始めていろいろなモードを試し、シーンや好みに応じて感覚に合うモードを使い分けるといいだろう。

スイッチ式のシフトセレクターはセンターコンソールに配置。その左隣にドライブモード選択用のトグルスイッチが備わる。

4WD仕様はリヤに最高出力50kW、最大トルク140Nmを発生するモーターを搭載する電動方式だ。しかも、フロントとリヤの2つのモーターと4輪のブレーキを統合制御するe-4ORCE(イーフォース)を適用している。e-4ORCEは路面状況やドライビングによって刻々と変化する4輪の接地荷重に応じてタイヤのグリップ力を最大限に発揮するよう制御する技術である。

フロントサスペンションはストラット式。
こちらは4WD車(e-4ORCE)のリヤまわり。リヤモーターからタイヤへドライブシャフトが伸びているのが見える。サスペンションはトーションビーム式を採用する。

e-4ORCEはアリア(EV)、エクストレイル(e-POWER)、セレナ(e-POWER)などに適用されているが、「作動状況がわかるようにしてほしい」というユーザーからの声を受け、キックスではe-4ORCEの作動状況が確認できるメーター表示を設定した。その画面を選択して走っていると、何気なく走っている緩いカーブでも作動していることがわかる。日常的な走行でも結構頻繁に制御が介入している印象。意のままにキビキビ動くのはe-4ORCEの効果でもあることを、メーター表示が実感させてくれる。

「G」および「X+」グレードのシート表皮はヴィーガンレザーとファブリックを組み合わせたもの。ゴールドのアクセントとグラデーションのかかったパーフォレーションによって上質感を演出している。
「G」グレードにはオプションでBOSEパーソナルプラスサウンドシステム(10スピーカー)を用意。装着すると、ヘッドレストにもスピーカーが追加される。

極めてEVライクな走りを提供する最新世代のe-POWERだけでなく、走りの質を高めるe-4ORCEが選択できるのも、新型キックスの大きな魅力。技術の中身を知り、短時間だけれども都内を走ったことで、走りの質の高さを確認することができた。

グレードキックス G e-4ORCE(4WD)
全長4365mm
全幅1800mm
全高1610mm
室内長1930mm
室内幅1450mm
室内高1195mm
乗員人数(名)5
ホイールベース2655mm
最小回転半径5.3m
最低地上高170mm
車両重量1590kg
パワーユニット1.4L直列3気筒+e-POWER(第3世代)
エンジン型式HR14DDe
エンジン最高出力72kW(98PS)/6000rpm
エンジン最大トルク115Nm(11.7kgm)/6000rpm
燃料(タンク容量)レギュラーガソリン(45L)
モーター型式・種類フロント:YM52/リヤ:MM48(交流同期電動機)
モーター最高出力フロント:105kW(143PS)/リヤ:50kW(68PS)
モーター最大トルクフロント:315Nm(32.0kgm)/リヤ:140Nm(14.3kgm)
バッテリー種類リチウムイオン電池
燃費(WLTCモード)20.1km/L
サスペンション前:マクファーソンストラット式 後:トーションビーム式
ブレーキ前:ベンチレーテッドディスク 後:ディスク
タイヤサイズ225/45R19
価格424万8200円