誰もが気張らず乗れる“普通”を目指したJOGアプリオ
90年代前半。若者向けのスポーツモデルがパワーや速さを競ういっぽうで、通勤や通学、買い物など、原付本来の使い勝手を求めるユーザーも数多く存在していた。そこで老若男女を問わず、誰もが気張らずに乗れることを主軸に置いて開発されたのが「JOGアプリオ」だ。
ベーシックな四代目JOG(3YJ)をベースにしながら、丸みを帯びた親しみやすいスタイルを採用して1993年に登場。後に登場するビーノも含めて振り返れば、シャープでスポーティなJOGと、柔らかな雰囲気を持つVINO(ビーノ)の中間的な存在にも見える。
“普通”を目指したと聞けば、なんとなく地味なモデルを想像するかもしれない。しかし、誰にでも扱いやすく、日々の足として便利に使え、しかも飽きず長く付き合えるスクーターを作るのは簡単ではない。アプリオが狙ったのは妥協の産物としての普通ではなく、使いやすさをトコトン磨いた「The best of basic」。まさにベーシック路線の最高峰だったのである。
その親しみやすさを広く伝えるため、イメージキャラクターには“ゴン”の愛称で親しまれた中山雅史選手を起用。当時所属していたヤマハ発動機サッカー部は、のちのジュビロ磐田へつながる存在で、Jリーグ人気が大きく盛り上がっていた時代の空気とも見事にマッチしていた。テレビCMも放送され、バイク好きだけでなく一般層にもアプリオの名を訴求したのだ。

SPECIFICATIONS
▪型式:4JP
▪全長×全幅×全高:1615×630×1000mm
▪ホイールベース:1135mm
▪最低地上高:80mm▪シート高:715mm
▪乾燥重量:61kg▪排気量:49cc
▪エンジン:空冷2スト単気筒クランクケースリードバルブ
▪内径×行程:40×39.2mm▪圧縮比:7.3:1
▪最高出力:6.8ps/6500rpm
▪最大トルク:0.75kgm /6000rpm
▪始動方式:セル/キック
▪燃料タンク容量:6L
▪タイヤサイズ(前・後):80/90-10・80/90-10
▪ブレーキ(前・後):ドラム・ドラム
▪車体価格:14万2000円
※スペックや価格は93年時のものです
Jリーガーの「ゴン中山」がイメージキャラクター!
元ヤマハ発動機サッカー部で、Jリーグのジュビロ磐田でも活躍した“ゴン”こと中山雅史選手がイメージキャラクターを担当。テレビCMも放送され、親しみやすいスクーターというアプリオのキャラクターを幅広い層へ伝えた。


Jリーグチーム、ジュビロ磐田(元ヤマハ発動機サッカー部)カラーが限定5000台で発売。
燃費も積載も航続距離も! 原付としての使い勝手を底上げ
JOGアプリオならではのポイントとして、まず挙げられるのが日常での扱いやすさだ。マイコンデジタル制御を採用して燃費性能を15%以上高め、燃料タンク容量も6Lまで拡大。航続距離を延ばすとともに、給油リッドは安心の鍵付きとしている。

約20L容量のシート下スペースには、フルフェイスヘルメットも収納可能。今では当たり前となった、メインキー操作でシートを開けられるワンタッチ式のシートオープナーも便利だった。

フロントラックは左右がつながった広い形状で、左側のスペースには1.5Lボトルも収まる設計。コンビニフックを備え、積載性は申し分なしだ。

左側に60km/hスケールの指針式スピードメーター、右側にフューエルメーターを配置したメーターパネルもシンプルで見やすい。市松模様を用いたカーボン風のパネルが、ベーシックモデルながらちょっとしたスポーティさも演出している。

シルエット合わせるようにデザインされたテール&ウインカー部。アプリオのかわいらしさを象徴する部分でもある。
ほかにも、消費電力を抑えながら配光性を考慮したスクエアヘッドライト、割れにくさを意識したカウル設計やドロヨケ、整備性の良いフォークリテーナーベアリングなど、表からは見えにくい部分にも細かな工夫が盛り込まれていた。
単に装備を増やすのではなく、利便性に加えて耐久性や整備性まで含め、トータルで扱いやすさを底上げしている。見た目はシンプルでも、毎日の足として使えば使うほど、その完成度を実感できるスクーターだったのである。後年にはフロントディスクブレーキ仕様の「EX」も追加されるなど、アプリオは着実に裾野を広げていった。

ポジションは、頭髪が薄くなってきた身長179cmのアラフォーには少々窮屈気味。 見た目はかわいく、普段使いでは便利。そしてイジれば驚くほど速くなる。この振れ幅こそがアプリオのおもしろさなのである。
7.2psのタイプⅡは “普通の原チャリ” なのにとっても速かった!
原付スクーターのパワーバトルが加速するなか、若者にとって絶好の一台だったのがJOG ZRだ。7.2psを発揮する2ストエンジンとフロントディスクブレーキを備え、その走行性能はピカイチ。跳ね上がったスポイラーに黄色レンズのライト、赤色の空冷ファンといった目立つ装備もシンボルとなり、多くのヤング達を魅了した。
そんな“ZRの遺伝子”をアプリオへ注入した純正スポーツグレードが「JOGアプリオ・タイプⅡ」だ。1995年3月に登場したタイプⅡは、7.2psを発揮するパワフルな2ストエンジンを搭載。フロントディスクブレーキや通常モデルよりワンサイズ太いタイヤを装備するなど、ベーシックなアプリオとは一線を画していた。
使い勝手の良い“普通の原チャリ”なのに速い。そのギャップがコアな層にぶっ刺さったのは言うまでもない。さらにタイプⅡは、JOG ZRより約2万円安価。小型かつ軽量な車体も相まって、まさしくダークホースと呼びたくなる存在だった。1996年には5000台限定のマットブラック仕様も登場。ノーマルの親しみやすいフォルムを大きく崩さず、しっかり速い。純正状態ですでに“羊の皮を被った狼”という言葉が似合うグレードだったのである。

スタンダードモデルの6.8ps→7.2psにアップされたエンジンを搭載し、ディスクブレーキとブラック塗装ホイールで一気にスポーティなイメージに。
純正ルックのまま68cc化! オーナー車は本気の“激速アプリオ”

ここからはノーマル車やタイプⅡの紹介ではなく、今回試乗したオーナー車のカスタムを見ていこう。オーナーは、元モトチャンプ編集部員で、現在はWEBメディア「モーターファンバイクス」編集長を務めるアニータ氏。三度の飯よりスクーターが好きという筋金入りだ。オンボロ状態だった車体をレストアし、チューンを施して“純正ルックの激速マシン”を完成させた。
ベース車はシャッターキーや大径化されたドラムブレーキパネルを備える排出ガス規制後の最終型。一般的にはカスタムベースとして不向きな面もあるが、外観の雰囲気を崩さず速さを引き出している。

エンジンは68ccへボアアップ。マフラーには“静かで速い”の代名詞であるKN企画製G03Xを装着し、キャブレターやCDIにはグランドアクシス純正を流用している。

リヤショックはKN企画製の230mmを装着しているが、あえて減衰調整のないタイプを選び、リーズナブルにカスタマイズ。ホイールはブラックに自家塗装し、純正らしい姿を残しながら引き締まった雰囲気を獲得した。
パッと見は純正に見えるけれど、中身はガッツリいじられた快速仕様。とはいえ、そもそもノーマルのアプリオも、軽量な車体にJOG系の元気な2ストエンジンを搭載し、見た目から想像する以上に軽快で速いスクーターだった。アニータ号は、そのもともとの素性を生かしながら、かわいいルックスを崩さず走りをさらに引き上げた一台なのである。
68ccボアアップやスポーツマフラー、駆動系チューンなどによって、アクセルを開ければすぐにウイリーできるほどパワフル。ただし、ピックアップはそこまで鋭すぎないので、前のめりの姿勢でじっくりアクセルを開けていけば問題なし。筆者も試乗したが慣れた頃には、街中を軽快に駆ける“ビュンビュン号”と化していた。
いっぽう、フロントの足周りは柔らかく、ドラムブレーキのため少々頼りない気もする。例えばZRの足周りを移植してディスクブレーキ仕様にするのもアリだと思ったが、アプリオ好きからしたら邪道なのかもしれない。
ともあれ、ヤマハの2スト原付で最後を飾ったアプリオは、90年代を象徴する一台に違いない。ノーマル車の時点で、軽量な車体とJOG系2ストエンジンによる軽快な走りを備え、タイプⅡではさらにスポーティな性能を追求。そして豊富なJOG系パーツを生かせば、今回のオーナー車のような激速仕様へ発展させることもできた。
かわいいくせしてチョッ速! JOGアプリオは、ノーマルの時点から“羊の皮を被った狼”の素質を持つスクーターだったのである。

著者紹介
モルツ
元モトチャンプ編集部員で現在はバイク系およびアウトドア系で活躍するフリーライター。
さらなる情報は筆者のYouTubeチャンネル「20世紀バイク少年-モルツ」にて(宣伝)。コミカルに紹介しておりま~す!
※この記事は月刊モトチャンプ2025年6月号を基に加筆修正を行っています
【モトチャンプ編集部】
![by Motor-Fan BIKES [モーターファンバイクス]](https://motor-fan.jp/wp-content/uploads/2025/04/mf-bikes-logo.png)